バルセロナのサグラダ・ファミリアで、残る最後の大工事「栄光のファサード」の行く手に、あらためて一つの壁が示された。聖堂の建設を担う建設委員会(フンタ・コンストルクトーラ)の総局長シャビエル・マルティネスと主任建築家ジョルディ・ファウリは9月22日、ラ・メルセのオープンドアを前に毎年開く会見で、工事の中心が、ガウディが聖堂の正面玄関として構想した栄光のファサードに移ったと説明した。ファサードの塔を支える8本の主柱は約1年後に建ち上げを始め、部材はほぼ製造済みだという。ところが、ファサードの前に計画されている大階段については「正面に建物があるため、いまは造ることができない」と述べた。マジョルカ通りを挟んだ真向かいに建つ、不動産会社ヌニェス・イ・ナバーロ所有の建物をなくし、住民を聖堂が所有する隣の街区の土地へ移す案を示して、「市が動くのを待っている」とバルセロナ市に決断を促した。聖堂側は同じ日のうちに「影響は1棟にとどまらない」と説明を修正しており、市は「住宅の権利を優先し、対話で最善の形を探る」と答えるにとどめている。マルティネスは聖堂の完成まで「約10年あれば十分」との見通しを示したが、公式な完成年は示されていない。ファサードの彫刻を誰に託すかも、2025年に絞り込んだミケル・バルセロ、クリスティーナ・イグレシアス、ハビエル・マリンの3人の中から決まっておらず、期限は設けていないという。本稿では、会見で示された工事の現状、「正面の建物」という最後の関門、彫刻家選びの行方、そして旅行者にとっての意味を整理する。

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会見で示された現状──イエスの塔の外観は完成、次は正面玄関

2026年の最大の節目は、すでに過ぎている。中央にそびえる「イエス・キリストの塔」は2月20日、最上部の十字架の上の腕が取り付けられて高さ172.5メートルに達し、外観が完成した。ガウディの没後100年にあたる6月10日には、教皇レオ14世がこの塔を祝福している(当日の記事)。聖堂の発表によると、塔ではいま内装の仕上げとエレベーターの設置が進んでおり、「天空の歴史」を表す内部は約1年後に見られるようになる見込みだ。

その次に来るのが、栄光のファサードである。サグラダ・ファミリアには3つのファサードがあり、東のマリーナ通り側が「誕生」、西のサルデーニャ通り側が「受難」、そして南のマジョルカ通り側が「栄光」だ。前の2つはすでに完成し、観光客の多くが写真を撮るのもこの2面だが、ガウディが正面玄関と位置づけたのは、まだ姿を見せていない栄光のファサードのほうである。

会見によると、塔を支える8本の主柱は約1年後に建ち上げが始まり、部材は「すべて、あるいはほぼすべて製造済み」だという。主柱の上には、高さ120メートルの4本の塔が建つ計画だ。今後数年、工事の中心は見慣れた2つのファサードから正面側へ移っていく。

最後の関門は「正面の建物」

問題は、栄光のファサードの前に計画されている大階段だ。正面玄関へ上る階段を造るには、マジョルカ通りを挟んだ真向かいの土地が要る。そこにはいま、不動産会社ヌニェス・イ・ナバーロが所有する集合住宅が建っている。マルティネスは会見で「ファサードの前に建物があるので、いま階段を造ることは不可能だ」と述べ、完成させるにはこの建物がなくなる必要があると訴えた。

聖堂側の案は、この建物をなくし、住民をマリーナ通りとレパント通りの間にある、聖堂所有の隣の街区の土地へ移すというものだ。マルティネスは市との交渉は「かなり進んでいる」としながらも、「市が動くのを待っている」「市が、階段を完成させたいという私たちの要望を超えて、どこまでの解決を考えているのか分からない」と述べ、ボールは市の側にあるという立場をはっきりさせた。

ただし、会見の説明は1棟の問題で済むようにも聞こえたが、聖堂側は同じ日のうちに「影響は1棟にとどまらない」と修正した。マジョルカ通りの建物は「鍵であり、欠かせない」が、階段を完成させるには周辺のほかの建物にも影響が及ぶという。どこまでを対象にするかで影響の規模は大きく変わり、住民団体はこれまで、最も広い範囲を想定すると約1,000戸・約3,000人に及ぶと推計してきたが、2街区・約200世帯とする推計もある。現在の案で何戸が対象になるのか、公式な数字は示されていない。

3月には、建設委員会のエステベ・カンプス委任理事長が、市のアシャンプラ地区担当議員から「地区の中で住まいを失う住民は出さない」との約束を得たと明らかにしていた。これに対して市は、会見を受けて「現在の都市計画のもとで住宅の権利を優先し、地区にとって最善の形を対話で探る」と答えるにとどめた。市はこれまで、現市政の任期中、つまり2027年の市議選までに合意をまとめる目標を掲げてきたが、具体的な回答はまだ出ていない。住宅難が市政の最大の争点になっているバルセロナで、観光収入で建てられている聖堂のために住民に移転を求める判断は、政治的に軽くない。

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彫刻を託すのは誰か──3人の候補、期限なし

ファサードに刻まれる彫刻の担い手も、まだ決まっていない。建設委員会は2025年3月、マジョルカ島出身の画家・彫刻家ミケル・バルセロ、プラド美術館の増築棟のブロンズ扉で知られるスペインの彫刻家クリスティーナ・イグレシアス、巨大な人体像のブロンズで知られるメキシコの彫刻家ハビエル・マリンの3人を候補に選んだ。3人は今年の初めに案を提出し、委員会が審査を続けている。

ファウリは会見で「案はまだ審査中だ。正しい決定をするには、もっと時間が必要だ」と述べ、期限は設けていないと明言した。1人に託すのか、複数で分担するのか、あるいはどの案も採らないのか、いずれの可能性も残っている。各案の中身は公表されていない。

完成は「約10年後」、ただし確約ではない

総局長のマルティネスは会見で、聖堂を完成させるには「約10年あれば十分だろう」と述べた。栄光のファサードの完成が、聖堂全体の完成を意味する。ただし公式な完成年は示されておらず、地元紙メトロポリ・アビエルタによれば、主任建築家のファウリはこの見通しを「現実というより願望」と表現した。大階段の土地の問題が解けなければ、正面玄関は完成しても、その前に階段が架からない状態が続く。

工事の資金は、すべて民間から出ている。聖堂の年次報告によると、2025年の来場者は487万7,567人で前年比0.91%増、収入は1億3,450万ユーロで、そのほとんどが入場料だ。支出の51.7%が建設に充てられている。旅行者が払うチケット代が、そのまま最後の大工事を動かしている構図である。

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オープンドアは24日から、応募は約13万3,000件

会見の前提となったオープンドアは、9月24日から27日まで行われる。ラ・メルセに合わせて市民や旅行者に2万枚の無料入場券を配るもので、応募は9月20日に締め切られ、当選者にはメールで通知された。地元紙によれば、応募は約13万3,000件で前年から36%増えた。見学できるのは誕生のファサード、聖堂内部、典礼の道、博物館、受難のファサードで、塔は含まれない。時間などの詳細は、当サイトのオープンドアの記事ラ・メルセ2026完全ガイドにまとめている。

日本の読者への解説

日本では「サグラダ・ファミリアは2026年に完成する」と長く伝えられてきたが、2026年に実現したのはイエスの塔の外観の完成であって、聖堂の完成ではない(当サイトの解説)。今回の会見は、その先に残る工事が「技術」よりも「土地と住民」の問題であることを、聖堂自身が認めた場でもある。

日本との縁でいえば、誕生のファサードには、日本人彫刻家の外尾悦郎が長年手がけてきた彫刻が並ぶ。一方、栄光のファサードの彫刻家の候補は上の3人で、外尾の名前は入っていない。正面玄関の顔を誰が彫るのかは、完成後の聖堂の印象を大きく左右する。

「数十年前の計画が、いま住む人の暮らしに影を落とす」という構図は、日本の読者にもなじみがあるはずだ。日本でも、何十年も前に線が引かれたまま着工されない都市計画道路が、沿道の住宅の建て替えを縛ってきた。違いは、バルセロナでは移転を求めているのが行政ではなく、入場料で工事を続ける教会の財団の側だという点にある。

旅行者にとっての実際的な意味は二つある。まず、これから数年は、工事の中心がマジョルカ通り側の主柱と塔に移る。完成した姿を待つより、「建っていく途中」を見られる時期と考えたほうがいい。次に、約1年後にはイエスの塔の内部が見られるようになる見込みで、再訪する理由が一つ増える。予約の方法は2026年版チケット予約ガイドを参照してほしい。

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