スペインの高速鉄道では、線路と信号、列車の運行を指令する管制を、国の鉄道インフラ会社Adifがまとめて受け持ち、その上を国営のRenfeと、Iryo、Ouigoの3社の列車が走って、同じ区間の切符を売り合っている。EUが加盟国に国内の旅客鉄道の開放を求めたことを受け、スペインは2020年12月のダイヤから参入を認め、2021年5月にOuigoが最初に走り始めた。「民間」とされる2社も、Iryoはイタリア国鉄系のトレニタリアが51%を持ち、OuigoはフランスのSNCFのグループ会社だ。自由化の後、2025年の高速鉄道の利用者は2019年の2倍になり、競争のある路線の運賃は、物価の上昇分を除くと約4〜5割下がった。どの会社の列車も、同じ規則の下で、Adifの信号と管制の指示に従って走る。10月28日にトレド県で起きた高速列車の追突事故でも、運輸相が問題にしたのは、信号の障害の後の、Adifの管制の判断だった。日本のJRは、線路の保守と運行の管理を自社で担い、新幹線で他社と同じ線路で競うこともない。ここが大きく違う。

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線路は国、列車は会社──2005年に分かれた

スペインでは長く、国鉄RENFEが線路の管理と列車の運行を一体で担ってきた(1990年代後半からは、高速新線の建設と管理を国の別の機関GIFが受け持った)。2003年の鉄道部門法で組織が分けられ、2005年1月1日から、線路を受け持つAdifと、列車を走らせるRenfe Operadoraが別々に動き始めた。今の法律は2015年の鉄道部門法で、高速線は2013年に分かれたAdif Alta Velocidadが持っている。この記事では、2つを合わせてAdifと呼ぶ。

法律は、線路を管理する側の仕事として、線路の保守と更新、列車の制御と通行と保安のシステムの管理(いわゆる管制)、各社へのダイヤの枠の割り当て、線路使用料の徴収を挙げている。このうち、管制と保安のシステムを動かす本来の仕事は、外部に任せることができない。列車を走らせる会社は、Adifから枠を受け取り、使用料を払って、自分の車両と運転士で列車を走らせる。

Renfeは国が100%を持つ公的企業で、旅客部門のRenfe Viajerosが、高速列車のAVEと、格安ブランドのAvloを走らせている。AdifもRenfeも国の公的企業で、プエンテ運輸相の運輸・持続可能なモビリティ省の下にある。

3社の顔ぶれ、「民間」の2社は外国の国鉄系

会社主な株主高速列車
Renfe(AVE、Avlo)スペイン国が100%AVEの各形式(今回の事故は103系)
Iryoトレニタリア(イタリア国鉄グループ)51%、エア・ノストルム25%、グロバルビア24%フレッチャロッサ1000、20編成
OuigoフランスのSNCFのグループ2階建ての車両、16編成

Iryoを運行する会社の正式な名前はILSAで、バレンシアの航空会社エア・ノストルムのオーナーらが、イタリア国鉄グループの旅客会社トレニタリアと組んで立ち上げた。トレニタリアは2024年に6%を買い増して(11月に公表)、過半数の51%を持つようになった。グロバルビアは、海外の年金基金が出資する交通インフラの運営会社だ。車両は、イタリアで走るものと同じ型の「フレッチャロッサ1000」を使っている。

Ouigoは、フランスのSNCFがフランス国内で走らせている格安の高速列車のブランドで、スペインでは、SNCFのスペインの子会社が運行している。フランスで使っている2階建ての車両を、スペインの信号などに合わせて改造した。

日本語では「国営と民間」と言われることが多いが、実際には、スペインの国営企業に、イタリアとフランスの国鉄のグループ会社が挑む構図になっている。

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EUの決まりで開いた市場

EUの前身のEC(欧州共同体)は1991年の指令で、加盟国に、線路の管理と列車の運行の会計を分けるよう求めた。2016年の「第4次鉄道パッケージ」では、どの加盟国の鉄道会社にも、国内の旅客列車を走らせるため線路を使う権利を認め、2020年12月14日に始まるダイヤから適用するとした。

Adifは2019年、マドリード〜バルセロナ〜フランス国境、マドリード〜バレンシア・アリカンテ、マドリード〜セビリア・マラガの3つの路線について、使える枠を全体の65%のA、30%のB、5%のCの3つの束に分けて示した。Renfeを含む6社が申し込み、申し込みが使える枠を大きく上回ったため、Adifはこの束ごとに優先順位をつけて配った。2019年11月に、AはRenfe、BはIryoを運行するILSA、Cはのちに社名をOuigo Españaに変えるRielsferaに仮に決まり、競争・市場監督当局(CNMC)が2020年に、10年間の枠の契約を認めた。ただ、この契約は細かいダイヤまで決めるものではなく、ほかの会社が線路を使うことも妨げない。主な参入の日付は次のとおり(Avloはこのあと、バレンシア、アリカンテ、アンダルシアにも広げた)。

開始日会社と路線
2021年5月10日Ouigo、マドリード〜バルセロナ(最初の参入)
2021年6月23日Renfeの格安ブランドAvlo、マドリード〜バルセロナ(この路線のAvloは2025年9月に廃止、AVEに統合)
2022年10月7日Ouigo、マドリード〜バレンシア
2022年11月25日Iryo、マドリード〜サラゴサ〜バルセロナ
2022年12月16日Iryo、マドリード〜クエンカ〜バレンシア
2023年3月31日Iryo、マドリード〜コルドバ〜セビリア・マラガ
2023年4月27日Ouigo、マドリード〜アリカンテ
2023年6月2日Iryo、マドリード〜アリカンテ
2025年1月16日Ouigo、マドリード〜セビリア・マラガ

Ouigoのアンダルシアへの参入が遅れた主な理由は、信号だ。1992年に開業したマドリード〜セビリア線(と、そこから分かれるトレド方面の支線)は、スペインの高速線で唯一、ドイツ製の古い列車制御システム「LZB」を使っている。列車の側にも、それに対応する装置が要る。Ouigoは、車両の欧州標準の装置をLZBに対応させる部品が必要になり、車両の改造や運転士の養成も重なって、当初の2022年から延期を重ねた。最後は2024年のクリスマス前としていた予定からも遅れて、2025年1月16日に走り始めた。

競争で何が変わったか

CNMCが2026年7月にまとめた2025年の年次報告によると、長距離の高速列車の利用者は4,450万人で、自由化前の2019年の2倍になった。マドリード〜セビリア路線(コルドバなど途中の駅を含む)は590万人で、前の年より19%増えた。物価の上昇分を除いた運賃(1人が1キロ乗るあたりの平均の収入で見たもの)は、2019年と比べて、マドリード〜バレンシア路線で5割、マドリード〜セビリア路線で37%下がった。セビリア路線の2025年の利用者のシェアは、Renfe(AVEとAvloの合計)が62.5%、Iryoが23%、Ouigoが14.3%だった。

列車の本数も増えた。CNMCが2025年9月にまとめた自由化の総括によると、マドリードと南部を結ぶ路線の1日の平均の本数は、2024年に2019年より22本多く、2025年1月のOuigoの参入でさらに14本増えた。高速網全体の運行本数は、2024年に2019年より46%多かった。CNMCは、本数が増えるほど1本の遅れがほかの列車に広がりやすくなると指摘する一方、運転士の確保や車両と線路の保守も定時運行に大きく影響し、競争のない主な路線のほうが定時運行の割合は約32ポイント低いとしている。いずれも遅れについての分析で、安全についてのものではない。

一方で、列車を走らせる会社はもうかっていない。CNMCによると、競争のある5つの路線のうち、2025年に切符の収入が費用を上回ったのは、マドリード〜バルセロナ路線だけだった。アンダルシア方面では、費用の38%を線路使用料が占める。自由化の総括によると、3社の商業運行の収支は、2024年に合計9,950万ユーロの赤字だった。運転士の約9割はRenfeが雇っており、CNMCは2024年、Renfeに、運転士の採用の予定を競合他社に前もって知らせるよう求めた。整備の施設をめぐっても争いがあり、CNMCは今月、Renfeの整備会社に、3つの整備拠点をOuigoに割り当てどおり使わせるよう命じた。Renfeは不服を申し立てる方針だ。

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止まるか進むかを決めるのは、どの会社でもAdif

同じ線路を3社の列車が走っていても、列車を止めるか進めるか、時速何キロまで出してよいかを決めるのは、走らせている会社ではない。運転士はそれぞれの会社の社員だが、従うのはAdifの信号と、Adifの管制の指示だ。ただし、目視運転を指示されたときは、前の列車や信号の手前で止まれる速度を運転士が選ぶ。運行の規則も、2015年に定められた「鉄道運行規則」が全社に共通の枠組みで、Renfe、Iryo、Ouigoの運転士にも、Adifの職員にも同じように適用される。Adifは高速線の管制センターを複数持っており、事故の区間の列車は、マドリードのアトーチャにあるセンターが管理していた。

マドリード〜セビリア線のLZBは、線路に敷いたケーブルを通じて、地上と列車がやりとりを続ける仕組みだ。運転台には、出してよい速度と、進んでよい距離が表示され、守らないと自動でブレーキがかかる。規則では、LZBが働いていれば最高で時速300キロまで出せる。

LZBが使えなくなると、線路わきの信号機に従う方式に切り替わり、1つの区間には原則として1本の列車しか入れない。赤信号を越えて進むには、Adifの管制の担当者の許可が要る。規則は、この許可が「防護を打ち消す」ものだとして、許可を出す側に、先に列車がいないことを確かめるよう義務づけている。先に列車がいるときは、目視運転などを指示する場合にしか許可を出せない。

28日の事故について、プエンテ運輸相は、ウルダの区間でLZBが止まった後、Adifの管制が、前にIryoが止まっている状態で、AVEに通常どおりの運転での再開を許可したと説明した。規則では、時速40キロ以下の目視運転にすべきだったという。止まっていたのはIryoの列車、追突したのはRenfeの列車だが、運輸相が説明で問題にしたのは、会社の違いではなく、Adifの管制の判断だった。運輸相は「誰にも責任を負わせてはいない。確認できた事実を話した」とも述べている。ただし、原因の調査は始まったばかりだ。技術的な調査は、7月に鉄道事故調査委員会(CIAF)の仕事を引き継いだ国の独立調査機関が受け持ち、調査官3人が現場に入った。調査は責任を決めるためのものではなく、少なくとも1年かかるとされる。責任を問う捜査は、オルガスの裁判所が担当している。

事故で「自由化」を問う声も

事故の後、自由化のあり方を問う声も出ている。労働組合のCGTは、鉄道の安全には十分な投資と保守と人員が要るとし、2025年9月には運輸相あての書簡で、自由化がサービスの質と安全を損なうおそれがあると警告していた。消費者団体のFACUAも、鉄道の自由化で命を危険にさらしてはならないと訴えた。

一方で、保守や手順に目を向ける声もある。鉄道の労働組合SFのラファエル・エスクデロ氏は、何かが失敗したのは確かだが、まず調査を待つべきだとし、今の段階で人のミスと決めつけるのは無責任だと述べて、マドリード〜セビリア線の7億ユーロを超える改修工事の監査を求めた。土木技師協会の会長は、人のミスで事故が起きるのなら、その手順の作りが悪いと批判した。サンチェス首相は、1月のアダムスの事故と今回の事故の原因に共通点はないとの見方を示し、プエンテ運輸相は、スペインの鉄道は「信頼でき、安全だ」としている。28日夕方の時点で、会社が複数あることを事故の原因とする公式の説明はない。

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日本の仕組みとはどこが違うのか

日本のJRは、1987年の国鉄の分割・民営化から、基本的に自分の会社の線路で自分の会社の列車を走らせている。東海道新幹線の線路も、1991年にJR東海が国の保有機構から買い取り(代金は60年の分割払い)、今はJR自身のものだ。線路の持ち主と、列車を走らせる会社が同じなので、ダイヤを組むのも、運行を管理する指令も、同じ会社の中にある。

ただ、日本にも線路と列車を分ける仕組みはある。北陸、九州、北海道、東北(盛岡以北)、西九州の整備新幹線は、国の鉄道・運輸機構が建設して持ち、JRが貸付料を払って借りる「上下分離方式」だ。JR貨物も、ほとんど自前の線路を持たず、JR旅客会社などの線路を走っている。鉄道事業法は、自前の線路で運ぶ「第一種」、他社の線路で運ぶ「第二種」、線路を持つだけの「第三種」を分けており、青森県が線路を持ち、青い森鉄道が列車を走らせる例もある。

大きく違うのは、保守と管制を誰が担うかと、競争の有無だ。整備新幹線でも、線路を借りて走るのは区間ごとにJR1社で、日々の保守も運行の管理も、借りたJRが担う。他社の線路を使うには、持ち主と使用の条件を取り決め、国の認可を受ける必要がある。関西空港の連絡橋のように、JR西日本と南海が同じ線路を使う短い区間はあるが、開業のときに決めた個別の取り決めだ。新しい会社が線路の枠を申し込み、中立の管理者がライバル同士に枠を配る仕組みは日本にはなく、新幹線で別々の会社が同じ線路で乗客を奪い合う例もない。

欧州では、ほかの国でも同じ線路での競争が始まっている。イタリアでは2012年から、民間のItaloが、国鉄系のトレニタリアと同じ高速線で競っている。フランスでも、2021年にトレニタリアが国内の高速線に参入し、2023年からはRenfeが、スペインとフランスを結ぶ高速列車を単独で走らせている。ただ、イタリアとフランスでは、線路を管理する会社が既存の国鉄と同じグループに属している。フランスでは挑まれる側のSNCFが、スペインではOuigoで挑む側に回っている。

旅行者が知っておきたいこと

同じ線路を走り、同じ駅に着いても、切符は会社ごとに別だ。Renfeの切符でIryoやOuigoの列車には乗れず、遅れたときや運休したときの払い戻しや変更の条件も、会社ごとに違う。事故の後、RenfeもIryoも、影響を受けた列車の変更や取り消しを無料にしたが、条件はそれぞれの会社が決めており、他社の切符には適用されない。切符を買った会社の公式サイトやアプリで、案内を確かめてほしい。

マドリードとアンダルシアを結ぶ高速線は、28日の事故で止まったままで、再開の見通しは立っていない。29日には、Renfeの運転士の24時間ストも予定されている(最低運行の既報)。この記事は28日17時ごろまでの情報に基づいている。

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