スペイン中部トレド県のウルダ付近で10月28日朝、マドリード発セビリア行きの国鉄RenfeのAVEが、前に止まっていたIryoの列車に追突した事故で、鉄道インフラ会社Adifの管制と運転士の交信の録音を、28日夜にスペインの報道機関が公開した。録音では、信号システム(LZB)が止まった後、管制がAVEに通常の運転で再開するよう指示し、運転士が「通常の運転で?」と聞き返すと、管制は「はい」と答えている。Adifと運輸省は、録音が本物かどうかを公式には確かめていない。死者は少なくとも68人のままで、カスティーリャ・ラ・マンチャ州の病院には22時すぎの時点で53人が入院し、うち18人が重い状態だ。Renfeは、29日のマドリードとアンダルシアを結ぶ高速列車を全便運休にし、この区間の切符の販売も12月13日まで止めた。マドリードの運輸省前では28日夜、運輸相の辞任を求める集まりを警察が解散させた。国の服喪は29日から3日間。日本人の被害は、28日夜の時点で伝えられていない。
交信の録音、「通常の運転で?」「はい」
録音は28日夜、スペインのラジオ局カデナ・セル、エル・パイス紙、ニュースサイトのエルディアリオ・エスなどが公開した。Adifと運輸省は、録音が本物かどうかを公式には確かめていない。
エルディアリオ・エスがまとめた交信の流れは、次のとおりだ(各交信の時刻は、媒体によって数分ずれる)。8時31分、AVEの運転士が、ウルダの区間のLZBの装置が止まったと管制に伝えた。8時36分、管制はAVEに、LZBを入れ直し、線路わきの信号に従って通常の運転で再開するよう指示した。運転士が「通常の運転で?」と確かめると、管制は「はい」と答えた。8時41分には、信号の手前で止まっていたIryoにも同じ指示が出た。8時48分、Iryoの運転士は、LZBの確認ができず止まったままだと伝え、管制は、問題があればまた連絡するよう答えた。衝突の時刻は、運輸相の説明では8時53分、救急の112番では8時54分だ。Iryoは声明で8時48分としていた。
プエンテ運輸相は28日午後の会見で、交信の録音を聞いたうえで、前に列車がいる区間では時速40キロ以下の目視運転にしなければならず、通常の運転での再開を許した判断は誤りだったと述べていた。
一方、Iryoに近い関係者は、録音が公開される前の28日夕方、Iryoの列車は再開の指示を受けていなかったと話していた(エウロパ・プレス通信)。録音の報道では、Iryoにも同じ指示が出ていたことになり、説明は食い違っている。Iryoの列車でLZBの確認ができなかった理由は、まだ分かっていない。
死者は少なくとも68人、州内の病院で18人が重い状態
カスティーリャ・ラ・マンチャ州のガルシア・パヘ州首相は19時ごろ、死者は68人のままで、64人を車両から運び出し、4人がまだ車内に残っていると説明した。車両を動かせば、さらに亡くなった人が見つかる可能性があるとしている。司法当局の22時20分ごろの集計では、トレドとシウダー・レアルの法医学研究所に54人の遺体が運ばれた。運び出した64人との差について、公式の説明はない。身元の確認は29日朝から始まる見通しだ。行方が分からないという家族などからの届け出は、20時半までに29件あった。
州政府の22時すぎの集計では、カスティーリャ・ラ・マンチャ州内の病院に53人が入院していて、うち18人が重い状態だ。EFE通信が州政府筋の話として伝えたところでは、州内の病院はこの日、計110人を手当てし、56人が退院した。マドリードの病院にも、けが人が運ばれている。
在スペイン日本国大使館によると、28日夜の時点で、日本人が巻き込まれたという情報は入っていない。在スペイン韓国大使館によると、韓国人の乗客は10人いて、2人がけがをした。1人は軽いけが、1人はあごのけがだ。アルゼンチン外務省は、自国民1人が亡くなり、ほかに1人の行方が分からないと発表した。
判事が現場を封鎖、ブラックボックスの押収を命令
カスティーリャ・ラ・マンチャ州高等裁判所の発表によると、捜査を指揮するオルガスの裁判所の判事は、現場の線路の前後2キロの区間に関係者以外が立ち入ることと、現場の撮影を禁じた。事故列車のブラックボックスの押収を命じ、捜査を非公開にした。アトーチャにあるAdifの運行管理センターに司法警察を送って、事故の区間の運行のデータを集めさせ、Adifには、事故のときに運行の管理をしていた人たちについての報告を求めた。
治安警察隊は、管制を担当していたAdifの職員から事情を聴いたと報じられている。逮捕されたという発表はない。7月に鉄道事故調査委員会(CIAF)の仕事を引き継いだ国の独立調査機関(AITAT)の委員長は、原因の仮説を示すのはまだ早いと述べた。調査官は、現場とアトーチャの運行管理センターに入っている。
極右政党Voxは、Adifの責任者らを過失致死などの疑いで、オルガスの裁判所に告発した。
運輸省前で抗議、警察が解散させる
28日夜、マドリードの運輸省前に、プエンテ運輸相の辞任を求める人たちが集まった。EFE通信によると、極右政党のファランヘや、Revueltaなどの極右団体がSNSで呼びかけ、Voxに近い労働組合Solidaridadがシベーレス広場から行進して合流した。人数は、EFEは1,000人を超えたとし、ほかの報道では数百人とされている。EFEによると、参加者が警察の規制線に押し寄せたため、機動隊が突撃して催涙ガスを使った。発煙筒なども投げられ、警察は集まりを解散させた。けが人や拘束された人がいたかは、伝えられていない。
参加者は、サンチェス首相や与党の社会労働党(PSOE)、運輸相のほか、最大野党の国民党(PP)や移民、記者にも批判の声を上げていた。PSOEは、本部の前でも抗議が呼びかけられたことを受けて、マドリードの本部の職員に建物を出るよう求めた。
政治の動き
PPのフェイホー党首は、政府と裁判所による調査と、鉄道網全体の独立した点検を求めた。政治の責任を問うのは「きょうではない」とし、29日にウルダの現地の指揮所を訪れる。11月29日の総選挙に向けた活動は、PPやPSOEなど多くの党が止めているが、Voxは続けている。アンダルシア州のモレノ州首相は、アンダルシアの鉄道、とりわけマドリードと結ぶ高速線をすぐに点検し直すよう政府に求めた。
公務員の労働組合CSIFは、運輸相の辞任を求めた。鉄道の労働組合などは、調査が終わる前に運輸相が一人の職員に責任を向けたと批判している。
29日からの鉄道と飛行機
Renfeは29日、マドリードとアンダルシアを結ぶ高速列車を全便運休にした。バルセロナやバレンシアとセビリア、マラガを結ぶ列車も含む。
| 会社 | マドリード〜アンダルシアの高速列車 |
|---|---|
| Renfe | 29日は全便運休。この区間の切符の販売を12月13日まで止めた。30日から代わりの輸送を始める予定 |
| Iryo | マドリード発の南方面を全便運休。再開の見通しは示していない |
| Ouigo | 少なくとも11月2日まで全便運休。全額を払い戻す |
Renfeの関係者は、切符の販売を止めたのは、運休がその日まで続くという意味ではなく、再開はAdif次第だと説明している。Adifは、高速線の再開の見通しを示していない。30日からの代わりの輸送の経路や時刻は、28日深夜の時点で発表されていない。Renfeは、マドリードとシウダー・レアル、プエルトリャノを結ぶ在来線の臨時列車を用意した。所要時間は通常より約1時間半長く、多くの便でシウダー・レアルでの乗り換えが要る。
機関士の労働組合Semafは、29日のRenfeの24時間スト(0時1分〜23時59分)を予定どおり行う。最低運行は、高速・長距離列車で73%。Renfeは、ストで最低運行の対象の列車にも影響が出るおそれがあるとして、どうしても必要な場合を除いて移動を控えるよう呼びかけている。30日と11月2日のOuigoのストも、29日0時半の時点で中止の発表はない。アンダルシア方面のOuigoは事故で運休しているため、ストの影響は主にバレンシアやムルシア方面の便に出る。最低運行の内容は、29日のRenfeストの既報と、Ouigoのストの既報にまとめている。
空の便では、イベリア航空がマドリードとアンダルシアを結ぶ便の運賃に11月8日まで上限を設け、エア・ヨーロッパはマラガ便とセビリア便を1日1便ずつ増やした。バス会社のSocibusも、マドリードとコルドバ、セビリアなどを結ぶ便を、需要に応じて増やすとしている。
国の服喪、各地で黙とう
国の服喪は、29日午前0時から31日の終わりまでの3日間で、28日夜に官報に載った。公共の建物などでは半旗を掲げる。休日にはならない。
28日20時には、全国市町村連合の呼びかけで、各地の役場の前で1分間の黙とうが行われた。トレドではガルシア・パヘ州首相が、マドリードのシベーレス広場ではフェイホー党首やマドリード州のアユソ首相、アルメイダ市長が参加した。1月に同じ路線で46人が亡くなる事故があったコルドバ県アダムスでも、住民が黙とうした。
事故の詳しい経緯と28日の発表は28日の記事に、国営のRenfeと新規参入のIryo、Ouigoが同じ線路を走る仕組みは解説記事にまとめた。マドリードとアンダルシアの間を移動する予定の人は、切符を買った会社の公式の案内を確かめてほしい。この記事は29日0時半(日本時間8時半)ごろまでの情報に基づいている。死者数などは今後変わる可能性がある。













