フランスで10月17日(土)、全国規模のデモが行われた。物価高と燃料価格の高騰への抗議に、9月から続く高校生・大学生の運動が合流したもので、参加者は当局発表で約55万人(うちパリ約11万人)、主催者発表で80万人に上った。パリ、マルセイユ、リヨンなどでは夜にかけて略奪や放火が相次ぎ、中西部リモージュでは市庁舎が放火された。ロラン・ヌニェス内相が18日夜に示した集計では、17日に全国で2,397人が拘束され、負傷した警察官・憲兵は997人(うち重傷7人)。パリではデモ参加者1人が倒れ、死亡した。隣国スペインへの影響は、18日夜の時点では限定的だ。スペイン外務省のフランス向け渡航情報は9月2日の更新のままで、暴動のために両国間の航空便や鉄道が止まったという報道も見当たらない。ただし懸念が二つある。一つは物流で、フランスの運送業界が21日からの抗議行動を予告しており、スペインの運送業団体が影響を警戒している。もう一つは政治で、11月29日に総選挙を控えるスペインでは、極右政党Voxの党首が暴動を選挙と結びつけて発信を始めた。
学生運動と物価高への抗議が合流
発端は、9月からフランス各地の高校に広がった抗議だ。生徒たちは教員・職員の不足や老朽化した校舎などに不満を訴え、高校の封鎖やデモが続いた。運動は大学生にも及んだ。
17日の全国行動は、SNSでの呼びかけをきっかけに、生活費や燃料価格の高騰に不満を持つ人々が学生運動に合流したものだ。単一の主催団体はない。2018年に燃料税の引き上げへの抗議から始まった「黄色いベスト」運動の元参加者、労働総同盟(CGT)などの労組、学生団体などが加わった。
パリでは昼間の行進の後、夕方から夜にかけて若者のグループが商店を略奪し、車などに火を付け、警察は催涙ガスで応じた。共和国広場の周辺でも衝突が起きた。南部マルセイユでは市庁舎に人が押し入り、多くの商店が略奪された。リモージュでは市庁舎が放火され、県知事は建物の「大部分が失われた」と述べた。18日(日)にも、パリの共和国広場に人が集まり、警察が催涙ガスを使った。
17日夜の時点で約1,200人とされた拘束者の数は、18日にかけて上方修正された。18日夜にヌニェス内相が示した集計が、全国2,397人、負傷した警察官・憲兵997人(うち重傷7人)だ。死亡したデモ参加者はパリ市内の路上で倒れ、手当てを受ける前に亡くなった。警察は心肺停止としているが、詳しい死因は明らかになっていない。
政府は「極左」と犯罪者を名指し
マクロン大統領は18日夜のテレビ演説で、暴力の主体を「極左の小集団から出た反乱分子と、そこに加わった多数の犯罪者」だと述べた。共和国を倒そうとした者の責任を問い、略奪した者には損害を弁償させるとした。一方で、デモ参加者が掲げた要求は正当だとして、暴力とは区別した。ヌニェス内相は、マルセイユでの破壊について、数千人の「ウルトラ左派(極左)」によるもので、そこに商店を略奪する者が加わったと説明している。
政府は19日(月)午前に省庁横断の危機対策会議を開き、商業・保険・司法の対応を協議する。ヌニェス内相は同日にマルセイユを訪れる予定だ。労組CGTなどは、11月5日(木)に全国的なストライキとデモを予定している。
スペインとの往来、目立った混乱は伝えられていない
スペイン外務省のフランス向け渡航情報は、18日時点でも「最終更新は9月2日」と表示されており、今回のデモや暴動についての追記はない。常設の注意事項としては、公共交通のストライキが時々あること、精製部門のストライキで燃料が不足することがあること、国境での検査が強化されていることを挙げている。
18日夜までに当サイトが確認した範囲では、暴動を理由にスペインとフランスを結ぶ航空便や鉄道が運休したという報道はない。国境に近い南仏ペルピニャンでも17日に数千人がデモを行った。カタルーニャ語メディアのビラウェブによると、市の入り口で催涙ガスが使われ、一部の参加者が北側の進入路で車の通行を妨げた。ただし、スペイン側との国境の通行が止まったという報道は出ていない。
物流、21日からの運送業の抗議に警戒
スペインにとってより具体的な懸念は物流だ。フランスの運送業者団体OTREは、燃料価格の高騰をめぐって10月21日以降に行動を起こすと予告している。10月上旬の時点では、具体的な方法は発表していなかった。在仏外国人向けの英語ニュースサイト、コネクシオン(Connexion)によると、OTREとバス事業者の団体は21日に車両で首都パリを「封鎖」するよう会員に呼びかけており、混乱は21日以降も数日続く可能性がある。
スペインの運送業者団体フェナディスメル(Fenadismer)は、OTREの行動を支持すると表明した。業界紙ネクソトランスが8日に伝えた声明では、フランスで封鎖が起きれば、物と旅客の流れ、そして「フランス国内で日々働く数千人のスペインの運送業者」に直接の影響が出ると警告している。スペインから欧州中部・北部へ陸路で荷物を運ぶにはフランスを通る必要があるため、フランス国内の道路の混乱はスペインの物流にも響きやすい。
総選挙前のスペイン、Voxが暴動を争点に
11月29日に総選挙を控えるスペインでは、極右政党Voxのサンティアゴ・アバスカル党首がX(旧ツイッター)でフランスの暴動に触れた。「イスラム左翼主義のもとで欧州を待ち受けているのはこれだ。野蛮人が美と文明の名残をことごとく破壊している。サンチェス首相とその盟友たちが11月29日の後に我々を導こうとしているのは、この道だ」と投稿している。
フランス当局も暴力の主体として極左の小集団を名指ししているが、そこに加わったのは略奪に走った犯罪者だと説明しており、イスラムや移民とは結びつけていない。AP通信は、トランプ米大統領が暴動を移民と結びつけるような投稿をしたことを伝えたうえで、「フランス当局と警察は暴動を移民と結びつけていない」と書いている。
国境管理は暴動とは別の理由で延長
フランスは、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルク、スイス、スペイン、イタリアとの国境で、シェンゲン協定の例外としての国境管理を続けている。欧州委員会が公表している各国の通知によると、5月1日〜10月31日の現行期間に続き、11月1日から2027年4月30日まで延長される。挙げられた理由は、ジハード主義によるテロの脅威、反ユダヤ的な攻撃の増加、不法移民や密輸を手引きする犯罪網、イランの不安定化を含む安全保障環境の悪化、11月10〜11日にパリで開かれる「パリ平和フォーラム」などだ。今回の暴動は理由に入っていない。陸路・空路を問わず、フランスに入る際にはこれまで通り身分証明書の提示を求められることがある。
日本の読者への解説
今回のフランスの抗議は、学校の環境に対する高校生の不満から始まり、物価高や燃料価格への不満を抱える幅広い層を巻き込んで、大規模な混乱になった。パリでは、昼間の行進が終わった夕方以降に略奪や放火が相次いだ。旅行者にとっては、「デモの時間帯だけ避ければよい」とは言い切れない点に注意が要る。
スペインに住む人や、スペインからパリへの旅行を考えている人にとって、当面の目安となる日は二つある。一つは運送業界が抗議行動を予告している10月21日で、道路の渋滞や長距離バスの遅れが起こりうる。もう一つは、労組CGTなどが全国的なストライキとデモを予定している11月5日だ。在フランス日本国大使館は「10月17日の大規模抗議デモに伴う注意喚起」と題した領事メールを出している。渡航前には大使館の情報と外務省の「たびレジ」で最新の状況を確かめ、デモや集会の場所には近づかないようにしたい。
スペインへの直接の影響は、今のところ小さい。暴動による航空便や鉄道の運休は伝えられておらず、スペイン外務省の渡航情報も更新されていない。それでも隣国の混乱が無関係でいられないのは、物流と政治の二つの経路があるからだ。スペインと欧州中部・北部を結ぶ陸上輸送はフランスの道路に頼っており、フランス国内で封鎖が起きれば、スペインの運送業者がその影響を受ける。政治の面では、11月29日の総選挙を前に、Voxがフランスの暴動を「イスラム左翼主義」や左派政権への批判と結びつけて発信している。フランス当局自身は、暴力の主体を極左と犯罪者だと説明しており、イスラムや移民とは結びつけていない。隣国の出来事が選挙戦でどのように語られるのか、事実と主張を分けて見ていく必要がある。













