スペインの「アストゥリアス王女賞」のコミュニケーション・人文科学部門を受けるスタジオジブリの一行が、北部アストゥリアス州の州都オビエドを訪れている。依田謙一社長、中島清文副社長、『君たちはどう生きるか』で作画監督を務めたアニメーターの本田雄さんの3人で、21日(水)に主催財団の公式の出迎えを受けた。依田社長は同日、記者会見と一般向けの対話の場に臨み、宮﨑駿監督が85歳の今も毎日絵を描いていると話した。新しい作品については、スタジオ全体で毎日取り組んでいるが、その成果が世に出るかどうかは分からず、前もって計画は立てていないと答えた。授賞式は23日(金)18時30分(日本時間24日1時30分)から、オビエドのカンポアモール劇場でフェリペ6世国王夫妻とレオノール王女らが出席して開かれ、依田社長が賞を受け取る。アニメーションスタジオの受賞は財団の受賞者一覧で見る限り初めてで、財団の国別の集計では日本からの受賞は7件目になる。オビエドでは15日から、ジブリ作品の上映や展示が続いている。
受賞の理由
アストゥリアス王女賞(Premios Princesa de Asturias。日本では「皇太子賞」とも訳される)は、王位継承者の称号を冠してアストゥリアス王女財団が毎年8部門で贈る賞だ。ジブリの受賞は5月6日に発表された。財団によると、この部門には20の国籍の48件の候補があった。
審査員会は授賞理由で、ジブリが「創造性を知識と伝達へと並外れた形で変えた」とし、「想像力豊かな手仕事の工程で、感受性と、共感や寛容、友情、人と自然への敬意といった人間的な価値に満ちた普遍的な物語を生み出した」と評価した。作品は「世代と国境を超え」、グローバル化した社会と環境保護の課題の指針になっているとし、「日常の美しさをたたえ、静けさと観照の瞬間を物語の欠かせない一部にしている」とも書いている。受賞者にはジョアン・ミロの彫刻と賞状、記章、賞金5万ユーロが贈られる。
オビエドでの日程
財団の発表や地元紙の報道によると、一行の主な日程は次のとおり。依田社長は21日夜、「昨日着いた」と話しており、実際のオビエド入りは20日だったとみられる。
| 日時 | 内容 |
|---|---|
| 10月21日(水)10時45分 | オビエドのホテルで財団の公式の出迎え。アストゥリアスのバグパイプ「ガイタ」の楽団が演奏した |
| 21日16時 | 依田社長の記者会見 |
| 21日19時30分 | オビエドの北約25キロのアビレス市にあるニーマイヤー・センターで、一般向けの対話「ジブリの旅(El viaje de Ghibli)」 |
| 22日(木)11時30分 | ラングレオ市の職業訓練校で、学校向けの企画「ジブリ、新しい風」の締めくくりの行事。依田社長と本田さんが出席 |
| 23日(金)18時30分 | カンポアモール劇場で授賞式 |
21日の出迎えには、トトロやネコバスのぬいぐるみを手にした一行の姿があった。地元紙ラ・ヌエバ・エスパーニャによると、アビレスの会場はほぼ満席になった。地元紙エル・コメルシオによると、この場には本田さんも予告なしに姿を見せ、『君たちはどう生きるか』のある場面の作り方を説明した。22日に締めくくりを迎えた学校向けの企画には、同紙によると11校の生徒145人が参加し、115点の作品が寄せられた(22日の行事に来たのはその一部)。財団によると、生徒たちは伝統的なアニメーションの技法で、手描きの絵を動かす作品に取り組んだ。
依田社長が語ったこと
依田社長は21日の会見の冒頭、「アストゥリアスはすばらしい所で、すぐに心をつかまれた」と述べた。ジブリの作品は普遍的だと言われ、自分もそう思うとしたうえで、「どの作品も今の世界を映し、問い直している」とも話した。
EFE通信などによると、依田社長は作品の特徴として、静けさと間を挙げた。映画には決まった考え方があるが、ジブリの作品の沈黙や間は観客に受け入れられてきたという。『もののけ姫』を海外で公開する際、沈黙が多すぎるので音で埋めるよう求められたが、そのままにしたという話も紹介した。
新作については、「外からは何もしていないように見えると言われることがあるが、毎日、新しい作品に向かって進んでいる」と説明した。「宮﨑は85歳だが毎日描いていて、息子の吾朗もスタジオの仕事の一部を担っている。みんな毎日働いているが、その成果が世に出るかどうかは分からない。前もって計画していることはない」と述べた。エル・コメルシオのインタビューでは、何年ごとに作品を世に出すかは決めていないと話し、宮﨑監督と鈴木敏夫さんが受賞をとても喜んでいるとも明かした。
人工知能(AI)について問われると、「ジブリは手で描く工程をとても大事にしているが、先端の技術も取り入れている」と答えた。AIが今後どうなるかは誰にも分からないとしたうえで、「レストランで、料理人が考えたメニューとAIが考えたメニューのどちらかを選べと言われたら、私は必ず人が作ったメニューを選ぶ」と話した。ラ・ヌエバ・エスパーニャが一問一答の形で伝えた発言では、「今のところAIを使うことは考えていない」としつつ、AIの進歩には大きな関心を持って見守っているという。アストゥリアス州の公共放送RTPAは、本田さんもAIに対して手描きのアニメーションを擁護したと伝えている。
アビレスでは、依田社長は「スタジオジブリは、毎晩どんなコンサートになるか分からないロックバンドだ」と話した。宮﨑監督に何を描いているのか尋ねると「これは何だ?」と返されるという話も紹介した。賞については、発表の時に「芸術部門だと思ったら、コミュニケーション・人文科学部門だった」と振り返った。本田さんは22日、生徒たちに「面白い作品は、個人的な経験や、ほかの作り手と分かち合った経験、調べることから生まれることが多い」と語った。
オビエドでのジブリ関連行事
オビエドの旧兵器工場(ファブリカ・デ・アルマス・デ・ラ・ベガ)では、10月15日から24日まで、財団の案内ではジブリ作品など長編14本が、スペイン語の吹き替えで、毎回紹介役の説明つきで上映されている。24日(土)の『千と千尋の神隠し』と『君たちはどう生きるか』は満席だ。工場の建物では16日から24日まで、館内を映画館に見立てたインスタレーション「エスパシオ・ジブリ」と、スペインのイラストレーター9人がトトロを描いた展示も開かれている。15日の開幕では、地元メディア2社によると、45人のオーケストラと200人を超える合唱が『となりのトトロ』の久石譲の音楽を披露し、約1,000人が集まった。
23日の授賞式
授賞式は23日(金)18時30分から、オビエドのカンポアモール劇場で開かれる。フェリペ6世国王とレティシア王妃が主宰し、レオノール王女とソフィア王女が同席する。王女と国王があいさつし、受賞者の演説は4人が行う予定で、ジブリは演説しない。式には日本語を含む5言語の同時通訳がつき、スペイン国営放送RTVEが中継するほか、RTVE PlayとYouTubeでも配信される。
今年の受賞者には、ジブリのほか、芸術部門の歌手パティ・スミスさん、スポーツ部門のサッカー選手リオネル・メッシさん、文学部門の作家ジュリアン・バーンズさんらがいる。
日本の読者への解説
アストゥリアス王女賞は1981年に始まり、今年が46回目になる。財団の受賞者一覧で数えると、日本からの受賞は次のとおりで、ジブリが7件目になる(共同受賞を含む)。コミュニケーション・人文科学部門では、2012年の宮本茂さんに続いて2件目だ。
| 年 | 部門 | 受賞者 |
|---|---|---|
| 1999年 | 国際協力 | 向井千秋さん(宇宙飛行士3人と共同) |
| 2008年 | 科学技術研究 | 飯島澄男さん(中村修二さんらほかの研究者4人と共同。財団の記録では中村さんは米国人) |
| 2011年 | 協調 | 福島の英雄たち |
| 2012年 | コミュニケーション・人文科学 | 宮本茂さん |
| 2022年 | 協調 | 坂茂さん |
| 2023年 | 文学 | 村上春樹さん |
| 2026年 | コミュニケーション・人文科学 | スタジオジブリ |
依田社長は読売新聞の記者を経て日本テレビに移り、今年6月にジブリの社長に就いた。来訪した3人のなかに、宮﨑監督や鈴木さん、宮崎吾朗さんの名前はない。授賞式は日本時間24日(土)1時30分から始まる。













