スペイン国立統計局(INE)が10月27日に発表した2026年7〜9月期の労働力調査(EPA)で、失業率は10.18%となり、前期の9.87%から0.31ポイント上昇した。失業者は9万5,900人増の259万1,200人。一方、就業者も7万3,600人増え、過去最多の2,285万2,600人に達した。就業者と失業者を合わせた労働力人口が16万9,500人増え、就業者数の増加を上回ったためだ。前年より就業者は増え、失業者は減っているが、雇用の伸びは鈍化。今期は民間部門の就業者が減り、公的部門が全体の増加を支えた。
就業者が増えても、失業率が上がる理由
今回の発表は、7〜9月のスペインの雇用を捉えた四半期統計だ。INEによると、就業者は前期比0.32%増、失業者は3.84%増だった。労働力人口は2,544万3,800人で、働いている人と、仕事を探していて働くことができる人を合わせた規模が拡大した。
| 指標 | 2026年7〜9月期 | 前期からの変化 |
|---|---|---|
| 失業率 | 10.18% | 0.31ポイント上昇 |
| 失業者 | 259万1,200人 | 9万5,900人増 |
| 就業者 | 2,285万2,600人 | 7万3,600人増 |
| 労働力人口 | 2,544万3,800人 | 16万9,500人増 |
失業率は、失業者を総人口で割った数字ではない。分母は労働力人口であり、学生や退職者など、就業者にも失業者にも分類されない人をすべて含めるわけではない。EPAは、16歳以上の人の就業、求職、就業可能性などを調べて分類する。仕事をしていない人全員を失業者と数える統計でもない。
今期は、就業者の純増7万3,600人と失業者の増加9万5,900人を合わせると、労働力人口の増加16万9,500人になる。働く人が増えていても、労働市場に参加する人の増加に追いつかなければ、失業者と失業率は上がり得る。これが、過去最多の就業者数と、失業率の再上昇が同時に起きた仕組みだ。
ただし、この増減から、9万5,900人が全員新たに解雇されたと結論づけることはできない。就職、離職、求職の開始・再開などの動きを差し引いた結果を見ているためだ。同様に、就業者の純増は、新しく採用された人だけを数えた数字ではない。雇用の総量と、人が入れ替わる動きは区別する必要がある。
10%を挟む推移。前年より改善しても、足元の勢いは弱まった
失業率を直近の四半期で並べると、一方向に下がり続けているわけではない。2025年7〜9月期の10.45%から、10〜12月期には9.93%へ低下。2026年1〜3月期に10.83%へ上がり、4〜6月期は9.87%へ下がった後、今回10.18%となった。いずれも季節調整前の数字で、年間平均ではない。
| 期間 | 失業率 |
|---|---|
| 2025年7〜9月 | 10.45% |
| 2025年10〜12月 | 9.93% |
| 2026年1〜3月 | 10.83% |
| 2026年4〜6月 | 9.87% |
| 2026年7〜9月 | 10.18% |
前年の同じ7〜9月期と比べると、失業率は0.27ポイント低い。INEの今回発表による失業者数の前年比は2万1,900人減、0.84%減だった。就業者は年間で46万5,500人、2.08%増加。前期比では悪化したが、前年同期との比較では改善が続いている。
一方、夏の四半期にどれだけ就業者が増えたかを見ると、2025年の11万8,400人増に対し、2026年は7万3,600人増にとどまった。RTVEは、7〜9月期として2019年以来の小幅な増加だと報じている。就業者の水準が過去最多であることと、増加の速度が落ちていることは両立する。
観光や学校年度など季節による動きをならした数字も重要だ。今回のINEの季節調整済み系列では、就業者の前期比増加率は0.31%。同じ発表に掲載された4〜6月期の改定後の0.50%を下回った。失業者数は季節調整後でも前期比0.14%増えており、季節要因を取り除けば失業者が減った、という結果ではない。
したがって、今回の動向は「雇用が全面的に減った」とまとめるより、就業者の増加が続く一方、増え方が弱まり、労働力人口の拡大を吸収しきれなかったと捉える方が数字に沿う。失業率が10%を超えたかどうかという区切りだけでは、その変化は見えにくい。
増加を支えた公的部門。民間は1万6,300人減
全国の就業者の純増を部門別に見ると、公的部門が8万9,900人増え、373万6,800人となった。一方、民間部門は1万6,300人減り、1,911万5,800人だった。両者を合わせた差し引きが、全国の7万3,600人増になる。今期の総数の増加が、民間と公的部門の両方で同じように起きたわけではない。
産業別では、サービス業が23万5,600人増えたのに対し、農業は5万8,300人、工業は5万4,400人、建設業は4万9,300人減った。これらは前期との比較である。公的・民間という分類と産業別の分類は別の切り口なので、公的部門の増加人数とサービス業の増加人数を足して、新しい雇用の合計を作ることはできない。
前年同期との比較でもサービス業は47万9,400人増と全体を押し上げた。建設業は年間では3万500人増えた一方、工業は2万5,900人減、農業は1万8,600人減だった。建設業のように、前期比と前年比で増減の向きが異なる分野もある。なお、今回の発表の産業別比較は、前年や前期と比べられるよう旧分類のCNAE2009で計算されている。
働く時間の区分では、フルタイムが前期比24万4,400人増え、パートタイムは17万800人減少した。これは、それぞれの人数の増減を示す数字であり、パートタイムの人がそのまま同じ人数だけフルタイムへ移ったと示すものではない。就業者数の動向に加え、どの部門で、どんな働き方の人数が動いているかを見る必要がある。
契約期間にも変化がある。賃金労働者のうち、無期契約は前期比2万2,100人、期限付き契約は6万8,000人増えた。今期の増加幅は期限付きの方が大きいが、前年同期比では無期が51万9,200人増、期限付きが4万8,400人増だった。短期の変化と年間の傾向は異なる。これらは自営業者などを含む就業者全体とは対象範囲が違い、契約期間だけで賃金や職場環境の良し悪しまで判断することもできない。
女性と男性、国籍別でも違う動き
全国の女性の失業率は11.28%、男性は9.20%だった。前期より女性は0.26ポイント、男性は0.36ポイント上昇した。女性の失業率の方が高い状態は続くが、今回の四半期だけなら男性の上昇幅の方が大きかった。
年間で見ると、失業者は女性で7万7,100人減ったのに対し、男性では5万5,200人増えた。全国合計での2万1,900人減という改善の背後で、男女の動きは反対になっている。全国の失業者が減ったという一つの数字だけでは、男性の失業者の増加は見えない。
国籍別では、就業者はスペイン国籍者で前期比1,800人減り、外国籍者では7万5,400人増えた。スペイン国籍者には二重国籍者も含まれる。外国籍者の増加が全国の純増を支えた形だが、新規採用された人が全員外国籍だったという意味ではない。
また、労働力人口はスペイン国籍者で6万9,600人、外国籍者で9万9,900人増えた。労働市場に参加する人の増加は両方で起きている。この統計だけから移民政策の効果や、特定の国籍の人が就職しやすいかどうかを断定することはできない。ここで確認できるのは、国籍別の人数の増減である。
カタルーニャは8.30%。全国平均だけでは分からない地域差
カタルーニャ統計局Idescatの同日発表によると、州内の就業者は399万9,900人で、前期より2,100人増えた。前年同期比では4万9,300人増、1.2%増だった。失業率は8.30%、失業者は36万1,800人で、前年同期より9,700人増えている。全国の失業者が年間で減る一方、カタルーニャでは増えており、全国と同じ動きではない。
| 地域 | 2026年7〜9月期の失業率 |
|---|---|
| スペイン全国 | 10.18% |
| カタルーニャ | 8.30% |
| バレアレス諸島 | 4.63% |
| アンダルシア | 14.91% |
INEによると、自治州の中で失業率が最も低かったのはバレアレス諸島、最も高かったのはアンダルシアだった。就業者数の前期比ではカナリア諸島の3万8,100人増が最大で、マドリード州は4万9,200人減。一方、失業者数の増加が最大だったのはバレンシア州の3万1,000人増で、最も減ったのはバレアレス諸島の9,900人減だった。
地域の就業者数は、勤務先の所在地ではなく、調査された人の居住地に基づく。したがって、マドリード州の減少をそのまま「州内の企業が4万9,200人を解雇した」と読むことはできない。州の数字と、州内の都市や個別企業の状況も区別して見る必要がある。
労働力人口に含まれる人が全員失業の世帯は78万6,100
家計に近い指標でも、前期比と前年比の違いが表れている。INEによると、世帯内の労働力人口に含まれる人が全員失業している世帯は78万6,100世帯で、前期より2万1,800世帯増えた。一方、前年同期よりは4,800世帯少ない。全国の失業者数と同様に、年間での改善が残る一方、今期は増加した。
これは、子どもや退職者まで含む家族全員を失業者と分類した数字ではない。就業者と失業者からなる労働力人口のうち、その世帯にいる人が全員失業しているという意味だ。人数の統計とは単位も違うため、全国の失業者数にこの世帯数を足すことはできない。雇用が増えているという全体の数字だけで、仕事を得られない家計の状態まで改善したと決めつけられないことを示す指標でもある。
EPA自体は、住民を対象にした世帯への標本調査である。INEの現行案内では、四半期に約4万6,000世帯、約11万人を調べるとしている。事業所が届け出た求人の数や、企業が採用を約束した件数をそのまま合計した統計ではない。全国や地域の雇用の状態を捉える資料として使い、個別の会社の採用計画や、特定の求職者の結果まで説明する数字とは分けて考える必要がある。
日本の読者への解説
今回のスペインの数字で押さえたいのは、失業率の上昇と、働いている人の増加が同時に起きていることだ。労働市場に参加する人が増えると、就業者の人数だけでは仕事の受け皿が十分に広がったか判断できない。反対に、失業率だけを見ても、どれだけ多くの人が働いているのかは分からない。就業者、失業者、労働力人口の三つを組み合わせて見ることで、今回の変化が理解しやすくなる。
日本との比較でも、10.18%という全国平均をそのまま個人の就職可能性に置き換えるのは適切ではない。スペインの中だけでも、地域や産業、男女で動きが異なる。現地で就職や転職を考える人にとっては、全国で過去最多の就業者がいることに加え、自分が働きたい地域と分野で雇用が増えているかを確かめることが重要になる。今回、サービス業と公的部門が全体を支えた一方、民間部門の就業者は前期より減った。
また、EPAは四半期ごとの世帯調査で、毎月発表される登録失業者数や社会保障加入者数とは作り方が違う。INEは、求職中でも職業紹介窓口へ登録していない人をEPAは含むと説明している。別の統計で見た数字と一致しなくても、それだけでどちらかが間違っていることにはならない。比較する際には、調査なのか行政の登録なのか、対象期間と定義をそろえる必要がある。
季節調整済みの過去の数値が後の発表で改定される点にも注意したい。本稿の直近の伸びの比較には、10月27日の発表に載った最新の系列を用いた。以前の見出しの数字だけを並べると、現在の系列と混在するためだ。
今後の動向を見る際は、季節調整済みの就業者の伸び、民間部門の増減、労働力人口の拡大が続くかが焦点になる。今回の結果だけで景気後退やその後の失業率を予測できるわけではないが、就業者の増加速度が弱まった点は次の発表でも確かめたい。前年との比較では改善が残る一方、足元では失業者が増えたという二つの時間軸を持つことが、現在のスペインの雇用情勢を読む手がかりになる。













