スペイン政府は10月6日(火)の閣議で、2日に下院で否決された住宅の政令2本をほぼ同じ内容で再び決定した。この否決は、5日の議会解散と11月29日の総選挙の引き金になったものだ。議会は5日付の勅令で解散されている(6日発効)ため、承認は解散中に下院の権限を預かる常任委員会に委ねる。家賃の値上げを合意がなければ年2%までに抑える、脆弱な世帯の立ち退きを2030年末まで止める、投資ファンドなどの安値での住宅取得を制限するといった1本目の柱は変わらず、首相は新たに、初めての住宅購入への無利子融資に総額100億ユーロ(最大20万件)を充てることや、不動産サイトに参照指数と家賃の上限の表示を義務づけることなどを加えたと発表した。賃貸契約を5年(法人の家主は7年)ごとに自動で延長する2本目は、常任委員会で承認された場合にだけ施行される形に変えた。サンチェス首相は閣議のあとの記者会見で「マリカルメンさんが受けたような立ち退きを、もう1件も許さない」と述べ、各党に「人道と常識」で承認するよう呼びかけた。常任委員会では政府側が35対34で上回る計算だが、鍵を握るバスク民族主義党(PNV)は2本目に反対の姿勢で、採決の日取りはまだ決まっていない。元の政令は失効している。新しい1本目は官報に載ると施行され、承認されなければ30日で失効する。2本目は承認されるまで施行されない(総選挙の記事)。
何を決めたか
2日の下院で否決されたのは、9月29日の閣議で決めた政令2本だ。1本目(RDL 26/2026)は、参照指数より高い家賃は値上げ禁止、それ以外は合意がなければ年2%まで(2027年末まで)、今年満了する契約の最長2年の臨時延長、脆弱な世帯の立ち退き手続きの停止(2030年末まで)、不動産取得を事業とする法人による評価額の70%未満での住宅取得の制限(2028年末まで)、季節賃貸と部屋貸しの規制、不動産投資法人(SOCIMI)の未配当利益への25%課税、観光住宅への付加価値税10%、初めての住宅購入への無利子融資(物件価格の20%か5万ユーロの低いほう)などを束ねたもの。2本目(RDL 27/2026)は、契約の自動延長と、家主が更新しない場合の、同等の住宅の家賃12か月分以上の補償を定めた(政令の詳細)。
政府は5日の時点で変更を「実質的でない」と説明していたが、首相は6日の会見で「非常に前向きな追加」として、無利子融資「TU CASA」に総額100億ユーロ(最大20万件)、社会的インパクト住宅基金に4億ユーロ、不動産サイトに参照指数・家賃の上限・大口所有者かどうかの表示を義務づけること、立ち退きの訴訟で小規模な家主の訴訟費用を行政が負担すること、いわゆるハゲタカファンドの取得条件の厳格化(詳細は未発表)を挙げた。eldiario.esは、それ以外の骨格は元の2本と「ほぼ同一」と報じている。手続き上の違いは、2本目を常任委員会の承認後にだけ施行させる点だ。元の2本は公布の翌日に施行されたため、2日の否決で2本目は1日足らずで消え、法的な不安定さが指摘されていた。報道で「追加」と伝えられた無利子融資そのもの、社会保障制度が持つ住宅の活用、工業化建設への2億8千万ユーロの保証は、元の政令にすでに入っていた。新しい政令の番号と条文は、官報に載ってから確かめる。
常任委員会は35対34、PNVが鍵
解散中の下院を代表する常任委員会は、委員68人と議長の69人。国民党(PP)27、社会労働党(PSOE)24にPSOEのアルメンゴル議長を加えて25、Vox 6、スマール6、ERC、ジュンツ、EHビルドゥ、PNV、混成会派(ポデモス)が各1人だ。1本目の本会議で7議席が決定打になったジュンツが1票になり、PSOE、スマール、ERC、ビルドゥ、PNV、ポデモスを合わせた35が、PP、Vox、ジュンツの34を上回る。ポデモスは元の2本に賛成しており、PNVは1本目には前向きで、2本目には反対の姿勢を示し、「小規模な家主の保護」について説明を求めている。PNVが2本目で反対に回れば34対35で否決になる。採決は政令の公布から30日以内で、日程は発表されていない(住宅デモの記事)。
首相「議会が背を向けても、政府は見て見ぬふりをしない」
サンチェス首相は会見で、今回の措置を「野心的で、合理的で、必要なもの」と呼び、「イデオロギーの問題ではなく、人道の問題だ」と述べた。9月に約70年暮らした家から退去させられた87歳の女性の名を挙げ、「マリカルメンさんが受けたような立ち退きも、政令が失効したあとに起きたような立ち退きも、もう1件も許さない。この立法期の残りも、より確かな多数をもらえれば次の立法期も、そうありたい」と語った。政令だけでは「それ自体では解決しない」と認めたうえで、「明らかに機能していない市場」への介入を「もっと強く」すると約束し、政府は「タオルを投げもしないし、人を見捨てもしない」と述べた。労働組合が予告しているゼネストについては「憲法上の権利であり、政府としては尊重するほかない」と答えた。
「憲法の潜脱」の批判
否決された政令をほぼ同じ内容で出し直し、本会議ではなく常任委員会で承認を得るやり方には、法律家から批判が出ている。元憲法裁判事のマヌエル・アラゴン氏はエル・ムンド紙に「文句なしの憲法の潜脱だ」と述べ、国会の法制官で元憲法裁法務官のマヌエル・フェルナンデス・フォンテチャ氏は「常任委員会は下院の権限を守るためにあり、下院に代わるものではない」と指摘した。Voxのペパ・ミジャン報道官は「規則と法律をねじ曲げ、またも横暴を働くことにした」と非難し、PPとVoxは憲法裁への申し立てを検討していると報じられている。政府側のボラーニョス大臣は、解散中は常任委員会が重要な決定を担うのは「民主化以来ずっとそうだった」と反論する。2019年にも、否決された賃貸の政令を政府が出し直し、常任委員会が33対31で承認した前例がある。
賃貸に住む人にとって、いま何が変わるか
官報に載るまでは何も変わらない。元の2本は失効しており、新しい1本目は官報に載ると施行されるが(元の政令は掲載の翌日に施行された)、常任委員会が承認しなければ30日で消える。2本目は承認されるまで施行されない。家賃の改定や契約の更新に直面している人は、現時点では2023年の住宅法と賃貸借法の通常のルールに従うことになり、官報への掲載と常任委員会の結果で再び変わる可能性がある。
日本の読者への解説
スペインの政令(勅令法)は、政府が緊急時に出せる法律で、官報に載れば施行されるが、30日以内に下院の承認を得なければ失効する。日本の政令と違い、法律と同じ力を持つ代わりに、議会の事後承認が要る。議会が解散している間は、議席の比率を縮小した常任委員会がその承認を行う。今回は、本会議で反対の決定打だったカタルーニャの政党が常任委員会では1票しかないことを使って、同じ中身を通そうとしている。手続きとしては前例があり、法的には争いがある。11月29日の総選挙では住宅が最大の争点になる見通しで、この政令の行方は選挙戦の材料にもなる。













