11月29日(日)のスペイン総選挙は、カタルーニャの独立派にとって、2017年の独立運動をめぐる裁判が恩赦法の適用で大きく動いた直後の選挙になる。憲法裁判所は10月6日、公金横領の罪にも恩赦を適用するよう最高裁に命じた。最高裁は19日に公表した決定でプッチダモン元州首相ら3人の逮捕状の取り消しを維持し、20日に公表した決定で2019年に有罪となったジュンケラス元副首相ら4人の刑事責任を消した。会計検査院も10月14日、独立運動の支出の返還を求められていた35人に恩赦を適用した。3人の刑事事件の正式な打ち切りはまだで、プッチダモン氏は帰国の日程を明かしていないが、弁護士や州内相の話では選挙後が有力だ。一方でこの選挙は、2023年にサンチェス首相の信任を左右した独立派の票が、次の首相選びでも意味を持つかどうかを決める。11月1〜2日に公表されたターゲット・ポイント、ソシオメトリカ、シグマ・ドスの民間調査では、国民党(PP)とVoxの合計が過半数の176議席を上回っており、両党が首相候補で合意すれば、独立派の票は信任に要らなくなる。住宅の政令を否決して選挙のきっかけをつくったジュンツは、サンチェス氏の再任もPPとVoxの政権も支えないとする一方、10月27日には、サンチェス氏以外が率いる社会労働党(PSOE)の政権なら、カタルーニャに利益があれば信任しうると含みを持たせた。共和主義左翼(ERC)は、地方税を除く域内の税をカタルーニャの税務庁が徴収する「単独の財政モデル」と、合意による自己決定の住民投票を掲げ、ポデモスと組む。カタルーニャの調査では社会党系PSCが首位で、バスクでは左派独立派のEHビルドゥが首位に立つとする州政府の調査が出た。右派が政権をとっても、適用済みの恩赦を覆すのは難しいとみられる一方、単独財政や住民投票の交渉は大きく後退する可能性が高い。この記事は11月3日(火)昼(スペイン時間)までの情報に基づく。選挙全体の争点は別の記事にまとめた。
恩赦の適用:憲法裁の命令から最高裁の決定まで
2024年6月に施行された恩赦法は、サンチェス首相の2023年の再選に必要だったジュンツとERCの票と引き換えに約束されたものだ。最高裁は2024年7月から、2017年の住民投票に公金を使った横領は「個人的な利益」にあたるとして恩赦の適用を拒み、プッチダモン氏の逮捕状を維持してきた。流れを変えたのは憲法裁判所で、10月6日、バッサ元州政府委員の申し立てを7対5で認めた。報道によると、判決は、最高裁が法律の文言ではなく、法律がどうあるべきかという自らの考えに基づいて適用を拒んだと批判した。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 10月6日 | 憲法裁がバッサ氏の申し立てを認め、最高裁に横領罪にも恩赦を適用する判断を命じる。最高裁のリャレナ判事がプッチダモン、コミン、プッチの3氏の国内の逮捕状を効力停止 |
| 10月14日 | 会計検査院が、独立運動の対外活動と2017年の住民投票の支出をめぐる返還の手続きで、プッチダモン氏ら35人に恩赦を適用。不服申し立ては可能 |
| 10月19日公表 | リャレナ判事が、逮捕状の取り消しに対するVoxの不服申し立てを退け、取り消しを維持。憲法裁の判断に沿って3人に恩赦法が適用できるとした。刑事責任の消滅と裁判の打ち切りの最終判断は最高裁刑事部に委ねる |
| 10月20日公表 | 最高裁刑事部が、2019年に有罪となったジュンケラス、トゥルイ、ロメバ、バッサの4氏の横領罪に恩赦を適用し、刑事責任を消す。最も長いジュンケラス氏で2031年まで残っていた公職禁止も解けた。決定は憲法裁の「拡張主義」を批判 |
| 10月22日 | コミン氏がマドリードの中央選挙管理委員会で、2024年に当選した欧州議会議員の就任手続きを済ませる |
| 10月25日 | コミン氏がフランスのセルベールからベリトレス峠を歩いて国境を越え、象徴的な帰郷を果たす(21日にはすでに車でスペインに入っていた) |
プッチダモン氏ら3人の刑事事件は、残る不服申し立ての処理などを経て、刑事責任の消滅と事件の打ち切りを最高裁刑事部が最終的に判断する見通しで、11月3日昼の時点でその決定が出たことは確認できていない。独立運動に関わるほかの政治家の事件でも、恩赦の適用をめぐる手続きが続いているものがある。経緯は10月7日の記事とコミン氏の帰郷の記事にまとめている。
プッチダモン氏の帰国は選挙後が有力
プッチダモン氏は10月6日、ベルギーのワーテルローで「カタルーニャとスペインの関係という点では、今日は何も解決しない。恩赦は対立を解決する枠組みの一部だが、それ自体が解決ではない」と述べ、自己決定権は放棄しないと強調した。帰国は「党のためではなく、国のために」とし、日付は明かさなかった。弁護士のボイェ氏は、恩赦が全面的に適用されてから、選挙戦の後に帰るのが最も賢明だと話している。本人は帰国の日を公表しておらず、カタルーニャのメディアARAは10月、陣営は裁判の打ち切りまで待つ方向で、帰国はクリスマス休暇の直前になる可能性があると報じた。州のパルロン内務相は10月14日、帰国は選挙後になると聞いているとし、元州首相として必要な安全を確保する準備があると述べた。プッチダモン氏は2024年8月にもバルセロナに一時現れて演説し、再び国外に出ている。総選挙の候補にはなっていない。
ジュンツ:選挙のきっかけをつくり、サンチェス氏を拒む
ジュンツは2025年10月末に党員投票で政府との協力関係を断ち、10月2日には住宅の政令2本に反対して否決の決定打になった。党は政令が「賃貸の供給を減らし、価格を上げる」と批判し、ノゲラス下院代表は、首相が「住宅危機の苦しみを選挙目的に利用している」と非難した。政府とPSOEは、ジュンツがPPやVoxとともに住宅対策を否決したと批判している。
恩赦について、トゥルイ幹事長は独立運動の勝利と位置づけ、「恩赦は許しではなく正義だ」と述べた。一方で10月7日には「サンチェス氏を首相に選ぶことはない。懲りた」と語り、筆頭候補のノゲラス氏は「私たちの票でPPとVoxが政権をとることはない」と述べてきた。そのノゲラス氏は10月27日の記者会見で、サンチェス氏以外が率いるPSOE政権なら、カタルーニャに利益をもたらす提案があれば信任しうると述べた。英国の首相交代になぞらえて「身を引くことが、結果的にみんなのためになることもある」とし、PSOEは「サンチェス氏が党より大事か」を決めるべきだと語った。信任の条件の例には、税を州が集める経済協定を挙げ、「カタルーニャ人のお金はカタルーニャに」と述べた。
名簿はバルセロナがノゲラス氏、ジローナがマドレナス氏、リェイダがガビン氏、タラゴナがクルセット氏。ジュンツは同じ会見で、相続・贈与税の廃止、電気とガスの付加価値税の引き下げなどを掲げ、移民の権限をカタルーニャに委ねる法案を進めたこと(2025年9月に下院で審議入りを否決された)や、移民の大規模な正規化に反対したことを実績として強調した。政府系のカタルーニャ世論調査センター(CEO)が10月14日に公表した調査では、総選挙の議席は7から4〜5に減る見通しだった。
背景には地盤の崩れがある。州議会の選挙を想定したイプソスの調査(9月23日〜10月1日)では、ジュンツは35議席から16議席に落ちて第5党になり、極右の独立派アリアンサ・カタラナが30議席でPSCと並んだ。アリアンサ・カタラナは「私たちはスペイン人ではない」として総選挙には出ない。その支持層がどう動くかは、カタルーニャの独立派の議席を左右しうる。
ERC:単独財政と合意による住民投票、ポデモスと共闘
ERCの筆頭候補はルフィアン下院代表(バルセロナ)で、ジローナはジョルダ氏、リェイダはグラノリェルス氏、タラゴナはプジョル氏が率いる。恩赦で公職禁止が解けたジュンケラス党首は、バルセロナの名簿の31位という当選の見込みが小さい位置に、ロメバ氏は補充の1位に入った。ERCの全国評議会が10月20日に名簿を承認した。名簿にはポデモスの人も入る。ポデモスはカタルーニャで候補を立てず、ルフィアン氏とポデモスのモンテロ氏は一緒に選挙運動をする。
公約の柱は「単独の財政モデル」だ。地方税を除き、カタルーニャの税務庁が域内で納められる税を徴収し、州が国のサービスの費用と地域間の連帯に拠出する構想で、政府と州政府は2025年7月14日に基礎となる合意を結び、州政府は2026年1月に「最終段階」と説明していた。ただ、下院での法制化には至っておらず、PPは反対し、ジュンツはバスク型の経済協定を求めている。ERCはこれを下院で法律にすることを求める。もう一つの柱は、政府と合意したうえでの自己決定の住民投票だ。ルフィアン氏は10月に出した本で、王制か共和制かを問う住民投票も提案した。
カタルーニャの世論:PSCが首位、独立支持は43%
カタルーニャの48議席は、2023年にはPSC 19、スマール7、ERC 7、ジュンツ7、PP 6、Vox 2だった。CEOの10月14日公表の調査は、PSC 18〜19、ERC 10〜11、ジュンツ4〜5、コムンス2〜3と予測し、ERCとジュンツを合わせると14〜16議席になる。ただし聞き取りは9月1日〜10月5日で、その後に決まったERCとポデモスの協力などは反映していない。PSCのイジャ州首相は恩赦の決定に「時間が私たちの正しさを証明した」「政治の正常化はみんなの勝利だ」と述べ、「カタルーニャはサンチェスとともにある」と呼びかけている。州議会では2024年5月の選挙で独立派が過半数を失い、イジャ氏はERCとコムンスの支持で州首相になった。
独立そのものへの支持は、CEOの7月の調査で賛成45%、反対51%と6年ぶりの高さになり、10月の調査では賛成43%、反対50%だった。反対が多数という構図は変わっていない。Voxは10月12日にバルセロナで「レコンキスタ」と名づけた集会を開いた。アバスカル党首は10月25日の新聞のインタビューで、カタルーニャのアイデンティティはイスラム主義と大量移民に脅かされていると主張した。
バスク:EHビルドゥが首位の予測、PNVは後退
バスク州の18議席は、2023年にはEHビルドゥ5、PNV 5、社会党系PSE 5、PP 2、スマール1だった(ビルドゥは別にナバラでも1議席を得て、全国では6議席)。州政府のソシオメトロ(10月30日公表)は、ビルドゥ7、PSE 5、PNV 4、PP 2と予測し、ビルドゥが票と議席で首位に立つとした。ソシオメトリカの調査はビルドゥとPSEが6議席で並ぶとしている。左派独立派のビルドゥはこの立法期、サンチェス政権を支える側に立ち、今回は左派の票を広く狙う。筆頭候補はビスカヤがマトゥテ氏(下院の報道官候補)、ギプスコアがエチェバリエタ氏、アラバがオテロ氏、ナバラがマイス氏で、下院の報道官だったアイスプルア氏はギプスコアの補充候補に回った。穏健民族主義のPNVはビスカヤがサガスティサバル氏、ギプスコアがバケロ氏、アラバがウルタラン氏。エステバン党首は2025年3月、党の執行部を率いるため下院を去っている。PNVは解散中の常任委員会で住宅の政令の採決を左右する1票を握り、1本目に賛成、2本目に反対する方針だ。
右派が勝てば何が変わるか
PPとVoxはともに恩赦法の廃止を掲げてきた。ただ、フェイホー党首は2024年、いったん適用された恩赦は無効にできないと認めており、法学者の多くも、不利益な遡及を禁じる憲法の原則から、廃止しても適用済みの恩赦は覆らないとみる。フェイホー氏は10月6日、「恩赦がサンチェス氏のもう一つの欺瞞であることは消せない。権力と引き換えに便宜を売ることは、投票で罰されるべきだ」とXに書いた。
影響が出やすいのは、これから決めるものだ。PPとVoxを軸とする政権ができれば、PPが反対する単独の財政モデルの法制化や、自己決定の住民投票に向けた交渉は難しくなる可能性が高い。カタルーニャ語などのEU公用語化は、政府が9月22日のEU総務理事会で再び取り上げたが、全会一致のめどは立っていない。移民の権限の委譲や公用語化の扱いも、政権の合意と各党の対応次第になる。Voxはさらに、独立派政党の非合法化と、憲法155条による州政府の直接統治を主張してきた。PPとVoxの交渉で、カタルーニャ政策がどこまでVoxに引き寄せられるかが焦点になる。
首相選びの「鍵」の行方
2023年11月の信任投票では、PSOE 121、スマール31、ERCとジュンツ各7、EHビルドゥ6、PNV 5、ガリシア民族主義ブロック(BNG)とカナリア連合各1の計179票で、サンチェス氏が首相に選ばれた。PPのフェイホー氏は同じ年の9月、ジュンツなどの支持を得られずに信任投票に敗れている。2020年の信任でも、ERCとビルドゥの棄権がサンチェス氏の就任を可能にした。今回の民間調査のようにPPとVoxが合わせて過半数を得て、首相候補で合意すれば、首相の信任で独立派や地域政党の票が決め手になる可能性は小さくなる。それでも、法案や予算をめぐる交渉で議席が影響力を持つ余地は残る。
PPとVoxが176に届かなかった場合は、ほかの党の賛成か棄権を得られるかが焦点になる。信任投票は2回目なら賛成が反対を上回れば足り、最初の投票から2か月以内に誰も信任されなければ再選挙になる(憲法99条)。PNV、ビルドゥ、ERCはVoxが入る政権を支えない立場で、ジュンツはサンチェス氏以外のPSOE政権に含みを持たせた。ジュンツが選挙後にどう動くかは、プッチダモン氏の帰国や、アリアンサ・カタラナとの競合とも絡むことになる。
日本の読者への解説
カタルーニャ州は2017年10月1日に憲法裁が差し止めた独立の住民投票を実施し、27日に州議会が独立を宣言した。中央政府は憲法155条で州政府を解任し、プッチダモン州首相らはベルギーへ渡り、国内に残った指導者は2019年に最高裁で禁錮9〜13年の判決を受けた。2021年の政府の特赦で刑務所は出たが公職禁止は残り、2024年の恩赦法と今回の決定でそれも消えた。プッチダモン氏ら国外に出た3人については、刑事事件を正式に打ち切るかどうかが残る。
独立派の政党は一枚岩ではない。ジュンツは中道右派、ERCは左派の共和主義、アリアンサ・カタラナは反移民の極右で、互いに支持を奪い合う。バスクのEHビルドゥは左派の独立派、PNVは中道右派の穏健民族主義で、独立を当面の目標にはしていない。これらの党はこれまで、首相の信任や法案の採決で票を貸す見返りに、恩赦や財政、言語などの要求を通してきた。右派2党が結束して過半数をとれば、その交渉の余地は大きく狭まる。この記事は11月3日(火)昼(スペイン時間)までに確認できた情報に基づき、プッチダモン氏の帰国の日程や最高裁刑事部の決定が出れば続報で伝える。

















