スペインの憲法裁判所は10月6日(火)、カタルーニャ独立運動の指導者の一人、ドロルス・バッサ元州政府委員の申し立てを7対5で認め、最高裁判所に対して、公金横領の罪にも恩赦を適用する新たな判断を出すよう命じた。最高裁は2024年から、2017年の独立の住民投票に公金を使った横領は「個人的な利益」にあたるなどとして恩赦の適用を拒んできたが、憲法裁はこれを法律の趣旨に反する解釈だと退けた。同じ日、最高裁のパブロ・リャレナ判事は、ベルギーに住むカルラス・プッチダモン元州首相ら3人に対する国内の逮捕状を「直ちに、新たな明示の司法判断があるまで」効力停止にした。プッチダモン氏は帰国しても逮捕されない状態になったが、最高裁はまだ恩赦を適用しておらず、横領罪で起訴された身分は残る。憲法裁は7日に判決の全文を最高裁に通知し、最高裁は関係者に5日間の意見書の提出期間を与えた。プッチダモン氏は「カタルーニャとスペインの関係では、今日は何も解決しない」と述べ、帰国の日は明かさなかった。弁護士は11月29日の総選挙の後に帰るのが最も賢明だとし、陣営ではクリスマスの直前が有力とされる。憲法裁の保守派5人は「最高裁の役割を奪った」と反発し、国民党(PP)は司法の判断は尊重するとしつつ「恩赦はサンチェス氏のもう一つの欺瞞だ」と批判する。独立宣言から9年、恩赦をめぐる司法の対立は大詰めを迎えたが、最高裁の判断が出るまで決着はつかない。
憲法裁は何を決めたか
憲法裁が10月6日に判断したのは、バッサ元州政府委員の申し立て1件だ。バッサ氏は2019年10月の最高裁判決で、扇動罪と横領罪で禁錮12年と公職禁止12年を言い渡された。2021年に政府の特赦(インドゥルト)で刑務所を出たが、公職禁止は残っている。2024年6月に恩赦法が施行されたあとも、最高裁は7月1日と9月30日の決定で、横領罪への適用を拒んだ。憲法裁はこの2つの決定を無効とし、最高裁刑事部に「横領罪を恩赦されたものと宣言する」新たな判断を出すよう命じた。判断の起案はコンデ・プンピド長官が担当した(9月の関連記事)。
争点は、恩赦法の2つの除外規定だった。恩赦法は、独立運動の費用にあてた横領を恩赦の対象とする一方、「個人的な財産上の利益を得る目的」があった場合と、「欧州連合(EU)の財政的利益を害する」場合を除外している。最高裁は、本来は自分たちで払うべき住民投票の費用を公金で賄ったことが個人的な利益にあたり、独立がEUの財政を損なうおそれもあったとして、除外にあたると判断していた。
憲法裁はどちらも退けた。個人的な利益については、恩赦法の言う「個人的な財産上の利益の目的」は独自の概念で、横領罪に本来つきものの利得と同じではなく、独立運動の資金づくりから外れた私的な汚職だけを除く趣旨だとした。EUの財政的利益については、独立の危険を理由にすることは、2019年の最高裁判決自身が独立の現実の危険はなかったと認定していることとも、そうした理由でEUの財政的利益が害されたとは認められないとしたEU司法裁判所の2026年7月16日の判決とも「両立しない」とした。報道によると、67ページの判決は、最高裁が「法律が言っていることではなく、法律が言うべきだったと法廷が考えることを理由に」適用を拒んだと述べ、2019年には独立の危険はなかったとし、2024年には独立に適していたとした最高裁の論理を「矛盾し、不合理で、いかなる論理的な意味も欠く」と批判している。
ほかの指導者の申し立ては、まだ判断されていない。ジョルディ・トゥルイ前州政府委員の件は、保守派の担当判事が、多数派の結論に沿って書き直した判決案のうち「最高裁に恩赦の適用を命じる」部分に同意できないとして案を取り下げたため、6日には採決されなかった。オリオル・ジュンケラス元副首相、ラウル・ロメバ元州政府委員、プッチダモン氏、アントニ・コミン、リュイス・プッチ両元州政府委員の申し立ても残るが、バッサ氏の判決が判断の基準になる。
保守派5人「最高裁の役割を奪った」
反対したのは保守派のリカルド・エンリケス、エンリケ・アルナルド、コンセプシオン・エスペヘル、セサル・トロサ、ホセ・マリア・マシアスの5判事だ。少数意見は、多数派が「最高裁が担うべき役割を、きわめて憂慮すべき形で(繰り返し)奪った」と批判し、憲法裁を「第4審」に変え、最高裁が今後どう判断するかを信用せずに結論まで決めたと指摘した。最高裁刑事部に対する「嘆かわしく、受け入れがたい敵意、あるいは激しい攻撃性」とまで書いている。5人は、自分の財布の代わりに公金を住民投票に回したことは個人的な利益と言え、最高裁の解釈は合理的だったという立場だ。右派団体のアステ・オイールは、賛成した7判事を最高裁刑事部に告発した。
この対立は今回に始まったものではない。憲法裁は2025年6月、恩赦法そのものを大筋で合憲と判断していた。最高裁は2026年7月のEU司法裁判決のあとも、9月15日のリャレナ判事の決定で、消えたのは「EUの財政的利益」という理由だけで、「個人的な利益」という理由は残るとして、プッチダモン氏の逮捕状を維持していた(7月の関連記事)。
最高裁は逮捕状を効力停止、恩赦の適用はまだ
リャレナ判事は6日、プッチダモン、コミン、プッチの3氏に対する国内の捜索・逮捕の命令を「直ちに、新たな明示の司法判断があるまで」効力停止にし、国家警察、治安警察、カタルーニャ州警察に身柄を拘束しないよう通知した。ただし最高裁は、この措置は「恩赦の適用を宣言するものではなく、刑事責任を消すものでも、残る問題を解決するものでもない」と明記している。憲法裁の判決は訴えたバッサ氏について出たもので、ほかの人に自動的に広がるわけではないとも書いた。それでも逮捕状を止めたのは、その間に身柄を拘束すれば、あとで不当と分かっても取り返しがつかないためで、判決の全文を受け取ったら「遅滞なく」維持か変更かを決めるとした。全文は7日に届いた。
最高裁は7日、リャレナ判事とマルティネス・アリエタ刑事部長がそれぞれ、検察、国の法務官、民衆訴追として加わる極右政党Vox、各被告の弁護側に5日間の意見書の提出期間を与えた。有罪が確定したジュンケラス、バッサ、トゥルイ、ロメバの4氏はマルティネス・アリエタ、マルチェナ、デル・モラルの3判事が、起訴されて裁判前のプッチダモン、コミン、プッチの3氏はリャレナ判事が判断する。決定の時期ははっきりしていない。検察は2024年から横領罪にも恩赦を適用すべきだという立場だが、検察幹部の会議の採決は19対17の僅差で、この裁判を担当した4人の検事は反対した。
憲法裁の判断には、すべての公権力が従う義務がある(憲法裁組織法87条)。憲法は最高裁を最上位の裁判所としつつ、憲法上の権利の保障については例外としており、最高裁は命令どおり新たな判断を出すことになる。
プッチダモン氏の欧州逮捕状は、2023年1月にリャレナ判事が扇動罪の廃止に合わせて取り消し、その後は国内の逮捕状だけが残っていた。不服従罪については、リャレナ判事が2024年7月に恩赦の適用を認め、9月にVoxの不服申し立てを退けて維持した。一方、会計検査院が独立運動の費用の返還(約500万ユーロ)を求める手続きは続いている。
プッチダモン氏「今日は何も解決しない」
プッチダモン氏は6日夕、亡命先のベルギー・ワーテルローの拠点で声明を読み上げた。コミン、プッチ両氏が同席したが、質問は受けなかった。「カタルーニャとスペインの関係という点では、今日は何も解決しない。恩赦は、カタルーニャとスペインの間にある歴史的な対立を解決する枠組みの一部だが、それ自体が解決ではない」と述べ、自己決定権と、交渉による解決の道がすべて尽きた場合の民主的で平和的な一方的行動の権利は放棄しないと強調した。帰国については、コミン、プッチ両氏とともに「党のためではなく、国のために」戻ると述べたが、日付は明かさず、恩赦が最終的に適用された時点で記者会見を開くとした。
弁護士のゴンサロ・ボイェ氏は「逮捕状を外すことと恩赦を適用することは別のことだ」と述べ、帰国は恩赦が全面的に適用されてからで、選挙戦の後に帰るのが最も賢明だと話した。プッチダモン氏本人も、選挙戦の最中に帰るのは誤りだと強く考えているという。「9年たって、帰国は日や週の問題ではない」とも語った。カタルーニャのメディアARAは、陣営は少なくとも裁判の打ち切りまで待つ方向で、帰国は「クリスマス休暇の直前」になる可能性があると報じている。州議会のルル議長は「ほかの亡命者たちと同じように、あらゆる栄誉と尊厳をもって迎える」と表明した。ボラーニョス法相は7日、「プッチダモン氏は望めば今日にも帰れる」と語った。
プッチダモン氏は有罪判決を受けていないため公職禁止はないが、所属政党ジュンツは6日の全国評議会で、総選挙への立候補を否定した。エル・エスパニョール紙によると、党の関係者は、急いではおらず、プッチダモン氏が総選挙の選挙戦に関わることはないと説明した。一方で、帰国が選挙戦の追い風になるとみる党内の声や、選挙戦の直前の帰国も選択肢の一つだとする報道もある。
総選挙への影響:ジュンツは「勝利」、PPは「嘘」
判断は、サンチェス首相が議会の解散を表明した翌日に出た(総選挙の記事)。恩赦法は、2023年の首相再選に必要だったジュンツとERC(各7議席)などとの合意で約束したものだ。ボラーニョス法相は7日、「必要だった176票を集めるため」に合意したと認めつつ、カタルーニャの正常化のためでもあったと述べた。サンチェス首相は6日、「特定の政党や独立派の政治家のことを考えて行ったのではない。カタルーニャの人々の共生を考えて行ったのだ」と述べ、選挙を控えて候補者がそれぞれ主張している時期なので、誰とも会うつもりはないとした。PPのエステル・ムニョス報道官は「取引の終わりだ。首相の座と引き換えの恩赦だ」と述べた。
ジュンツのトゥルイ幹事長は「独立運動の完全な勝利だ」「恩赦は許しではない。正義だ」と述べた。ただし7日には「サンチェス氏を首相に選ぶことはない。懲りた」と語り、総選挙の筆頭候補に名乗りを上げたミリアム・ノゲラス下院代表は「私たちの票でPPとVoxが政権をとることはない」と述べている。ジュンツは10月2日、住宅の政令に反対して政府を追い込んだばかりで、世論調査では総選挙で4議席前後と2023年の7議席から減る見通しだ。カタルーニャ州議会の選挙を想定したイプソスの調査(9月23日〜10月1日)では、ジュンツは16議席で第5党に落ち、極右のアリアンサ・カタラナが第1党の社会党系PSCと並ぶ30議席だった。
PPのフェイホオ党首は「PPは最高裁が独立運動に有罪判決を出したときも、今も、その判断を尊重する。だが、恩赦がサンチェス氏のもう一つの欺瞞であることは消せない。嘘を真実に、不道徳を正義に変えることはできない。権力と引き換えに便宜を売ることは、投票で罰されるべきだ」とXに書いた。カタルーニャのVoxのジュアン・ガリガ州議会報道官は「司法の判断には従う」としつつ、恩赦は「政治家による政治家のための特権」だと批判した。
カタルーニャでは、イジャ州首相(PSC)が「時間が私たちの正しさを証明した」と書き込み、7日の州議会では「政治の正常化はみんなの勝利だ」と述べた。ジュンツ側は、イジャ氏がかつて「恩赦も、それに似たものもない」と言っていたことを持ち出し、イジャ氏は「少しは謙虚に」と返した。PSCとPSOEは、2023年より前は恩赦に反対していた。共和主義左翼(ERC)のジュンケラス党首は「政治が戻ってくる」「弾圧を終わらせることは不可欠だった。次は自ら決める権利を取り戻すことだ」と述べた。ジュンケラス氏の公職禁止は2031年までで、最高裁が横領罪の恩赦を決めない限り解けない。総選挙の立候補の届け出(10月21〜26日)に間に合うかは分かっておらず、ERCの総選挙の筆頭候補はガブリエル・ルフィアン下院代表になる見通しだ。2024年の欧州議会選で当選しながら就任できずにいたコミン氏は、逮捕のおそれが消えたことで、議員に就任する道が開けたと報じられている。
9年の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2017年10月1日 | 憲法裁が差し止めた独立の住民投票を州政府が実施 |
| 2017年10月27日 | 州議会が独立を宣言、中央政府が憲法155条で州政府を解任し直接統治へ。プッチダモン氏は直後にベルギーへ |
| 2019年10月14日 | 最高裁が12人に有罪判決。9人に扇動罪で禁錮9〜13年(うち4人は横領罪も。ジュンケラス氏は13年) |
| 2021年6月 | 政府が9人を特赦、刑務所から釈放(公職禁止は残る) |
| 2023年1月 | 扇動罪の廃止を受け、リャレナ判事がプッチダモン氏の扇動罪を外して横領と不服従で訴追を続け、欧州逮捕状を取り消し |
| 2023年11月 | サンチェス首相がジュンツの支持で再選、恩赦法を約束 |
| 2024年6月11日 | 恩赦法が施行 |
| 2024年7月1日 | 最高裁が横領罪への恩赦の適用を拒否、逮捕状を維持(不服従罪は恩赦) |
| 2024年8月8日 | プッチダモン氏がバルセロナに一時現れて演説し、再び国外へ |
| 2025年6月26日 | 憲法裁が恩赦法を大筋で合憲と判断(6対4) |
| 2026年7月16日 | EU司法裁(大法廷)が、恩赦法は一般にEU法に反しないと判断。「個人的な利益」の解釈はスペインの裁判所に委ねる |
| 2026年9月15日 | リャレナ判事が「個人的な利益」を理由に逮捕状を維持 |
| 2026年10月6日 | 憲法裁がバッサ氏の申し立てを認め最高裁に恩赦の適用を命令。最高裁がプッチダモン氏らの逮捕状を効力停止 |
残る争点
決着にはまだ段階が残る。第一に、最高裁刑事部がいつ、どのような形で横領罪の恩赦を宣言するかだ。憲法裁の判断の直前、元憲法裁判事のエンリケ・ロペス判事は、EU司法裁の判決は最高裁の横領の解釈を正していないと論じていた。第二に、プッチダモン氏ら起訴済みの3人の裁判の打ち切りの時期と形。第三に、トゥルイ氏らほかの申し立てに憲法裁がいつ判断するか。第四に、会計検査院の返還の手続き。PPとVoxは恩赦法の廃止を公約しているが、フェイホオ氏自身が2024年に、いったん適用された恩赦は無効にできないと認めており、法学者の多くも、不利益な遡及を禁じる憲法の原則から、廃止しても適用済みの恩赦は覆らないとみている。
日本の読者への解説
日本の恩赦は内閣が決め、政令で一律に行う「大赦」などは皇室や国家の慶弔の際に行われ、「特赦」は個人ごとに行われる。スペインでは、個人の刑を軽くする「特赦(インドゥルト)」は政府が出せるが、罪そのものをなかったことにする「恩赦(アムニスティア)」は法律でしかできず、日本の大赦に近い。憲法は一般的な特赦を禁じている。2024年の恩赦法は、1978年の現行憲法のもとでは初めての恩赦法(前回は民主化直後の1977年)で、合憲かどうかが大きな争点になった。もう一つ分かりにくいのが裁判所の関係だ。スペインでは、憲法裁判所は最高裁判所の上に立つ通常の「最終審」ではなく、憲法の解釈、法律の合憲性の審査、基本的権利の救済を担う特別な裁判所で、通常の法律の解釈は最高裁の仕事とされる。ただし権利の保障については、最高裁も憲法裁の判断に従う。今回、憲法裁は最高裁の法律の解釈そのものが権利を侵害したと判断し、保守派はそれを「越権」と批判した。独立運動をめぐる9年の司法の争いは、憲法裁と最高裁の権限の争いにもなっている。













