スペインは地震のある国である。7月26日の午後、グラナダ県で立て続けに地震が起きた。15時39分、アルミージャ付近を震央とするマグニチュード3.6の地震が深さ約6キロで発生し、グラナダ市街と周辺の都市圏で揺れが感じられた。緊急番号112には44件の通報が入り、アレンディン、アルミージャ、チュリアナ・デ・ラ・ベガなどで最大震度に相当するIII-IVが観測された。その後アルミージャでマグニチュード1.7、アレンディンで2.0の余震が続き、同じ日の昼過ぎにはロハでもマグニチュード1.6の地震が2回起きている。7月8日にはハエナ東方で深さ12キロ、マグニチュード3.5の地震も記録された。日本の基準で言えばどれも小さな地震だが、スペインではこれが日常的に繰り返されている。国立地理院(IGN)の観測網は年間およそ9,000回の地震を捉えており、一日あたり10回から20回、どこかで地面が動いている計算になる。そのうちマグニチュード3以上は年間400回強、マグニチュード5以上は1.2年に1回程度、マグニチュード6以上はおよそ18年に1回の頻度だ。そして歴史をさかのぼれば、1755年のリスボン地震による津波、1884年のアレナス・デル・レイ地震、そして記憶に新しい2011年のロルカ地震と、スペインは繰り返し地震によって多数の死者を出してきた。本稿では、スペインでなぜ地震が起きるのか、どこが危険なのか、建物と法律はどうなっているのか、揺れたときに何をすべきか、そして地震保険にあたる制度がどう機能するのかを、在住者と旅行者の実用の観点から詳しく整理する。

なぜスペインは揺れるのか

イベリア半島は、ユーラシアプレートの南西端に位置している。その南側からアフリカプレートが年間およそ4ミリから5ミリの速度で近づいてきており、両者の衝突がスペイン南部の地震活動の根本原因である。この動きは日本の周辺のプレート運動と比べればはるかに遅い。日本列島では太平洋プレートが年間8センチ前後の速度で沈み込んでいるため、桁がひとつ違う。スペインの地震が概して小規模で、発生頻度も低いのはこのためだ。

この衝突の最前線にあたるのが、スペイン南東部を東西に走るベティコ山系(Cordilleras Béticas)である。アンダルシア、ムルシア州、バレンシア州南部にまたがるこの山地帯は、アフリカプレートとユーラシアプレートの押し合いによって隆起した若い山脈であり、内部に無数の活断層を抱えている。スペインの地震活動はこのベティコ山系と、その南に広がるアルボラン海の周辺に集中している。

ただし、地震はスペイン南部の専売特許ではない。ピレネー山脈もまた造山帯であり、地震が起きる。1428年にはジローナ県ケラルブス付近を震央とする大地震が起き、カタルーニャ北部で約800人が犠牲になったと記録されている。バレンシア州の内陸部でも1748年にエストゥベニで死者を出す地震が発生した。頻度としては南部が圧倒的だが、他の地域が無縁というわけではない。

もっとも揺れる場所、グラナダ盆地

スペイン国内で最も地震活動が活発なのは、グラナダ盆地である。ベティコ山系の中央部に位置するこの盆地は、半島全体でも屈指の地震多発地帯として知られている。7月26日の一連の地震も、この盆地の内部で起きたものだ。

グラナダ盆地の地震のほとんどは、深さ30キロより浅いところで起きる。原因となっているのは、盆地を切る北西から南東方向に走る正断層の群れであり、アタルフェ断層、ピノス・プエンテ断層、サンタ・フェ断層などが知られている。7月26日の地震についても、専門家は震央周辺に走る複数の断層のいずれかが動いた可能性を指摘したうえで、どの断層かを特定するのは現時点では難しいとしている。

興味深いのは、グラナダの断層の性質である。グラナダ大学の地質学教授アナ・クレスポ・ブランク氏は地元メディアの取材に対し、この地域で活動している断層は一本一本が短く、大きなエネルギーを蓄積するには不十分だという見方を示している。断層が長いほど、一度に滑る面積が大きくなり、大きなマグニチュードの地震を生む。グラナダで小さな地震が頻繁に起きる一方、破滅的な巨大地震が起きにくいのは、この構造による面がある。

同じ研究者は、地盤の違いにも言及している。地元紙のインタビューで「その意味では、サイディンよりもアルバイシンに家を持つほうがいい」と語ったという。アルバイシンは丘の斜面に広がる旧市街で、硬い岩盤の上に建っている。一方サイディンは、盆地の堆積層の上に広がる新市街だ。同じ地震でも、柔らかい堆積層の上では揺れが増幅される。これは日本の防災でも常識になっている地盤の話だが、スペインでも同じ物理が働いている。

震源の分布を面で見ると、グラナダのほかにアリカンテ県南部のバホ・セグーラ地域、アルメリア県、ムルシア州、マラガ県、そして大西洋に面したカディス県沖が主要な地震地帯となる。

数字で見るスペインの地震頻度

IGNの観測網が記録している地震は、過去数十年の平均で年間およそ9,000回にのぼる。ただしこの数字には、人が感じることのない極小の地震がすべて含まれている。マグニチュード別に見ると、マグニチュード1以上が年間約7,000回、2以上が約2,300回、3以上が約414回、4以上が約20回、5以上が0.86回、つまり1.2年に1回程度、6以上は0.06回で、およそ18年に1回という頻度になる。

そしてIGNによれば、ベティコ山系で発生する地震のおよそ90パーセントは、住民に感じられることなく終わる。7月26日のグラナダの地震が112に44件の通報を呼んだのは、マグニチュード3.6と震源の浅さ、そして人口密集地の直下という条件が重なったからだ。

この頻度を日本と比べると、規模の差がはっきりする。日本では震度1以上の有感地震だけで年間およそ2,000回、直近の統計では年間2,400回前後が観測されている。震度3以上に限っても年間約250回、つまり3日に2回のペースだ。世界で起きるマグニチュード5以上の地震の約10パーセント、マグニチュード6以上の約20パーセントが日本周辺に集中している。スペインでマグニチュード6以上が18年に1回という数字は、日本の感覚からすればほとんど「起きない」に等しい。

スペインを襲った地震の歴史

それでも、スペインの地震史には多数の死者を出した災害が並ぶ。

1755年11月1日、リスボン地震。サン・ビセンテ岬の南西沖を震源とするマグニチュード8.5から9と推定される巨大地震で、ヨーロッパの地震史上最大級の災害である。この地震が生んだ津波がカディス湾を襲った。カディス市では海が城壁を破って市街に侵入し、6分ほどの間隔をおいて3度にわたって押し寄せたと記録されている。犠牲者はウエルバ県のアヤモンテやレペに集中した。スペイン国内の死者数は資料によって幅が大きく、IGNの集計では地震そのもので61人、津波で1,214人とされる一方、アヤモンテで約1,000人、レペで約400人を含めアンダルシア全体で5,000人を超えたとする推計もある。いずれにせよ、地震そのものより津波によって多くの命が失われたという点では一致している。

1829年3月21日、トレビエハ地震。アリカンテ県トレビエハを震央とするマグニチュード6.6、最大震度IX-Xの地震で、トレビエハ、アルモラディ、ベネフサル、ロハレスなどの町を破壊した。2,000戸を超える住宅が倒壊し、死者は389人とする集計が広く用いられているが、より多い数字を挙げる資料もある。

1884年12月25日、アレナス・デル・レイ地震。クリスマスの夜21時8分、グラナダ県アレナス・デル・レイを震央として約20秒間続いた揺れが、グラナダ県とマラガ県の村々を壊滅させた。アレナス・デル・レイは町全体が崩壊した。約4,400戸が全壊し、13,000戸が大きな損傷を受けた。死者数は資料により750人から1,200人程度まで幅がある。全国から寄せられた寄付によって町が再建された経緯もあり、スペインの近代における最大の地震災害として記憶されている。

1954年3月29日、ドゥルカル地震。グラナダ県で発生したこの地震はマグニチュード7.8と、スペインの観測史上でも屈指の規模だった。にもかかわらず最大震度はVにとどまり、死者は出ていない。理由は震源の深さにある。この地震の震源は地下630キロから650キロという極端な深さにあり、世界的にも稀な深発地震だった。エネルギーが地表に届くまでに拡散したのである。マグニチュードと被害が単純に比例しないことを示す教科書的な事例だ。

1956年4月19日、アルボローテ地震。グラナダ県のアルボローテとアタルフェを襲ったこの地震はマグニチュード5.1、最大震度VIII。規模としては中程度だが、建物の質が低かったために11人が死亡し、多数の負傷者が出た。スペインで20世紀に最も多くの死者を出した地震である。

1969年2月28日、サン・ビセンテ岬沖地震。1755年とほぼ同じ海域で起きたマグニチュード7.8の地震で、最大震度VIII-IX。イベリア半島と北アフリカを合わせて約25人が犠牲になり、80人以上が負傷したと記録されている。

2011年5月11日、ロルカ地震。18時47分、ムルシア州ロルカの約5キロの地点を震源とするマグニチュード5.1の地震が発生した。9人が死亡し、300人以上が負傷、直接の経済損失は4億6,200万ユーロにのぼった。最大震度はEMS-98で VII だった。

ロルカが教えた「小さな地震でも人は死ぬ」

スペインの地震防災を語るうえで、ロルカ地震は決定的な転換点になった。マグニチュード5.1は、日本であれば大きなニュースにならない規模である。それでも9人が亡くなったのは、震源が極めて浅かったこと、そして震央が市街地の直下だったことによる。加えて、崩れた建物の多くは古い構造だった。

この地震は、スペインの公的保険機構である保険補償コンソーシアム(Consorcio de Compensación de Seguros、CCS)が歴史上対応した最大の案件となった。マグニチュードの数字ではなく、震源の深さ、震央と人口密集地の距離、そして建物の耐震性能。この三つが被害を決めるという原則を、ロルカは残酷な形で証明した。アルボローテもロルカも、マグニチュードは5.1で同じである。

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建物はどう守られているのか

スペインの耐震設計を規定しているのは、2002年10月11日に官報で公布された耐震建築基準「NCSE-02」である。これは1994年版の基準を置き換えたもので、橋梁については別に「NCSP-07」が定められている。

この基準の核となるのが地震危険度マップだ。国土の各地点について「基本地震加速度」と呼ばれる値を定めており、これは500年に1度の再現期間に対応する地表水平加速度を示す。スペインで最も高い値は南東部にあり、グラナダ盆地とバホ・セグーラ地域で0.24gに達する。逆に最も低いのはメセタ中央部で、0.04gにも満たない。基本地震加速度が一定の水準を超える地域では、耐震設計が義務づけられる。アンダルシアの大部分、ムルシア州、バレンシア州南半分などがこれにあたる。

現在、この基準の改訂作業が進んでいる。NCSE-02とNCSP-07が制定されてから相当の年月が経過し、地震学と耐震工学の知見が更新されたため、耐震基準常設委員会(CPNS)が両者を統合する新しい基準を策定した。欧州の構造計算規格の考え方を取り込み、対象とする構造形式も拡大される。

ここで在住者が意識すべき現実的な問題がある。基準はあくまで新築および大規模改修に適用されるものであり、それ以前に建てられた建物には遡及しない。スペインの都市部には19世紀以前の石造や煉瓦造の建物が数多く現役で使われている。アンダルシアの旧市街の風情ある建物は、耐震設計という概念が存在しなかった時代のものだ。ロルカで犠牲を生んだのも、まさにこの層の建物だった。

津波というもう一つのリスク

スペインの地震リスクで見落とされがちなのが津波である。1755年の再来は、想像上の話ではない。

カディス湾は、ヨーロッパで最も津波の危険が高い海域とされている。原因はアゾレス・ジブラルタル断層帯であり、ここで大地震が起きれば津波が発生する。専門家の試算によれば、この断層帯で生じた津波はカディスに45分以内で到達しうる。警報システムがなければ、住民と観光客に残された時間はほとんどない。

確率評価も行われている。ウエルバとカディスの港湾都市では、1メートルの津波が起きる確率が10パーセント、3メートルの津波が起きる確率が3パーセントと見積もられている。この規模の災害は、過去7,000年間に5回起きたと推定されており、およそ1,200年に1度という頻度になる。1755年から270年余りが経過した現在、次の一回がいつ来るかは誰にもわからない。

対策は進みつつある。2021年以降、国レベルの津波災害対策計画が運用され、津波が最も激しく到達する地点が特定されている。アンダルシア州も独自の津波緊急計画を策定し、カディスをスペイン最大規模の津波避難訓練の舞台に選んだ。チピオナやウエルバなど、アンダルシアの海岸の各所には避難区域を示す標識がすでに設置されている。海辺に滞在する際、こうした標識に目を留めておくだけで、いざというときの行動が変わる。

カナリア諸島は事情が違う

カナリア諸島の地震は、本土とは性格が異なる。プレート境界の圧縮ではなく、火山活動に伴って発生するものが中心だからだ。

2021年9月19日にラ・パルマ島のクンブレ・ビエハで始まった噴火は、その典型例である。噴火に先立って群発地震が観測され、噴火当日だけで327回の地震が記録された。この一連の群発では約1,500回の地震が発生し、最大でマグニチュード3.8級だった。2011年から2012年にかけてのエル・イエロ島の海底噴火も同様に群発地震を伴った。IGNは1585年から2022年までのカナリア諸島の地震分布図を公開しており、火山活動と地震活動が連動してきた歴史がたどれる。

カナリア諸島で群発地震が報じられた場合、それは断層による大地震の前触れというより、地下のマグマの移動を示すサインである可能性が高い。当局は火山活動の監視体制を持っており、避難指示が出た場合はそれに従うことが最善である。

揺れたときに何をするか

スペインの防災当局と救急医療の専門家が共通して推奨しているのは、日本や米国と同じ三つの動作である。

低くなる、隠れる、つかまる。スペイン語では「agacharse, cubrirse, sujetarse」と表現される。まず身をかがめて転倒を防ぎ、机の下などに入って頭、首、胴を落下物から守り、その状態でしっかりつかまる。揺れている最中に外へ走り出すのは、落下物の直撃を受ける最も危険な行動だ。

瓦礫の下に閉じ込められたら、叫ばない。これは重要な知識である。叫ぶと粉塵を吸い込み、体力を消耗する。口と鼻を布で覆い、体力を温存し、配管や壁、硬い構造物を叩いて音を出す。笛を持っていれば笛を使う。救助隊は音を頼りに探す。

揺れが収まったら、被災地に近づかない。野次馬は危険であるだけでなく、救助活動の妨げになる。当局の指示に従うこと。

緊急番号は112。スペイン全土共通で、多言語の通訳が入る。スペイン語が話せなくても通報できる。

情報源はIGN。国立地理院の公式サイト(ign.es)では、直近10日間、30日間、1年間に発生した地震の情報がリアルタイムで公開されている。揺れを感じたら、まずここを見れば規模と震央がわかる。

スペインには「地震保険」を別途契約する必要がない

在住者にとって最も実用的な情報がこれである。スペインでは、地震による損害を補償するために特別な保険を追加契約する必要がない。

その役割を担っているのが、保険補償コンソーシアム(CCS)である。経済省の管轄下にある公的な保険機関で、その起源は1941年にさかのぼる。CCSが補償する「異常危険」には、地震と津波、河川の氾濫や集中豪雨による異常洪水、火山噴火、ハリケーンや竜巻のような非典型的な暴風、そしてテロ行為や暴動による損害が含まれる。

この仕組みの巧妙な点は、財源にある。スペインで販売されるすべての保険契約に、法律で定められた付加料金が上乗せされており、その積み立てが災害時の補償原資となる。つまり、住宅保険や火災保険に加入している人は、意識しないまま地震補償の掛け金を払っている。

補償額は、通常の危険に対して契約している保険金額と同じ範囲まで及ぶ。そして重要なのは、加入している民間保険の約款に地震が免責と書かれていたとしても、CCSの補償は適用されるという点だ。必要な条件は、有効な保険契約を持っていること、そして付加料金を支払っていることだけである。

裏を返せば、無保険であれば何も出ない。スペインで住宅を購入または賃借する際、住宅保険は多くの場合、住宅ローンの条件として、あるいは賃貸契約の条件として求められる。もし任意で加入を迷っているなら、地震と洪水の補償が自動的についてくるという点は判断材料になるだろう。

日本の読者への解説

日本から来た人がスペインで地震に遭遇したとき、最初に感じるのはおそらく「これくらいなら大丈夫」という感覚だろう。マグニチュード3.6、震度にしてIII-IV。日本であれば速報が流れて終わる規模である。実際、その判断はたいていの場合正しい。スペインの地震はほとんどが小規模で、日本人にとっては物足りないほどだ。

しかし、この「地震慣れ」がスペインでは逆に働く可能性があることは指摘しておきたい。日本の建物は、少なくとも1981年の新耐震基準以降のものであれば、震度6強から7の揺れでも倒壊しないことを目標に設計されている。日本人が地震に対して比較的落ち着いていられるのは、その建物への信頼が背景にあるからだ。スペインの耐震基準は2002年制定であり、それ以前の建物、とりわけ旧市街の古い石造建築には、日本と同じ前提を当てはめられない。同じマグニチュード5.1でも、日本とロルカでは結果が違ったのである。

もう一つ、日本と決定的に違うのが情報インフラだ。日本には緊急地震速報があり、揺れが到達する数秒から数十秒前にテレビ、スマートフォン、鉄道の制御システムに警報が流れる。スペインにはこの仕組みがない。地震の規模と頻度を考えれば費用対効果の面で合理的な判断だが、日本から来た人は「揺れる前に鳴るはずのアラーム」が鳴らないことを前提にしておく必要がある。一方、津波と大規模災害については、携帯電話に強制配信されるES-Alertという警報システムが運用されている。日本の緊急速報メールに相当するもので、スペイン語で表示されるが、大音量で鳴ったら必ず内容を確認してほしい。

結論として、スペインの地震リスクは日本と比べれば小さい。ただしゼロではなく、1884年のアレナス・デル・レイでは1,000人規模、2011年のロルカでは9人が亡くなっている。アンダルシア、ムルシア、バレンシア南部に住むなら、住宅保険に入っておくこと、旧市街の古い建物の弱さを知っておくこと、そして揺れたら低くなって頭を守ることを覚えておけば十分である。カディス湾の海辺に滞在するときは、避難標識の位置を一度確認しておく。それだけのことが、270年に一度の出来事に備えるための、現実的で無理のない準備になる。

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