スペイン産豚肉の日本向け輸出が急減している。9月4日のEFE通信の報道によると、スペイン食肉産業協会(ANICE)の集計で、2026年1〜6月の対日輸出量は前年同期比73.9%減となった。背景にあるのは、昨年スペインで確認されたアフリカ豚熱(ASF)と、日本の輸入停止措置だ。スペイン側は発生地域とそれ以外を区別する「地域主義」による取引再開を求めている。生ハムに象徴される両国の食のつながりが、防疫と貿易をどう両立するかという課題に直面している。、
半年で約7割減、日本向け市場の縮小が数字に
EFE通信が伝えたANICEの数字では、日本向けの豚肉・食用くず肉の輸出量は、2025年上半期の9万5,425トンから、2026年上半期には2万4,880トンに減った。金額も4億290万ユーロから9,060万ユーロへ77.5%減少した。数量以上に金額の落ち込みが大きいが、この差だけで値引きの拡大や特定商品の需要減を断定することはできない。品目構成の変化も含めた検証が必要だ。
この報道で使われた約3億5,000万ユーロという減少額は、日本とメキシコ向けを合わせたものだ。日本だけの数字として読むと、影響を過大に伝えることになる。また、輸出額の減少は取引規模の縮小を表しており、そのまま企業の赤字額や利益の喪失額を示しているわけではない。
日本市場がスペインにとって重要なのは、もともとの取引が大きいからだ。スペイン農業省は今年5月の対日協議に関する発表で、2025年の日本向け豚肉輸出額を6億4,800万ユーロと説明した。スペインから日本への農産食品輸出全体の約56%に相当するという。豚肉の輸出が滞る問題は、一部の専門店や生ハムブランドにとどまらず、日西の食品貿易の中心部分に関わる。
ただし、今回公表されたのは6月までの累計だ。9月の店頭在庫や直近の輸出をそのまま映した数字ではない。過去半年の落ち込みの大きさを示す資料と、今日の流通状況を示す資料を分けることが、このニュースを読む出発点になる。
さらに、これはスペイン側の輸出統計についての業界団体の集計を報道したものだ。日本側の輸入統計と照合する場合は、品目の範囲や計上時期をそろえる必要がある。例えば、豚肉・食用くず肉をまとめた数量を、生ハムだけの減少率として使うことはできない。注目を集める数字だからこそ、何を数えた値なのかを明示しておきたい。
人に感染しなくても、国境で止める理由
日本の農林水産省が輸入停止を発表したのは2025年11月29日。スペインの野生イノシシでASFが確認されたことを受け、措置は同月28日にさかのぼって適用された。同省は、国内で飼育する豚への感染を防ぐための措置であり、食品衛生を目的としたものではないと説明している。
ASFは豚とイノシシの病気で、人には感染しない。農水省の9月1日更新の説明でも、この点は明確に示されている。日本国内で発生している豚熱(CSF)とは別の病気であり、名称が似ているからといって混同することも避けたい。
一方、人に感染しないことと、肉製品を通じて豚の病気が広がらないことは同じではない。国際獣疫事務局(WOAH)は、ウイルスが衣服や靴、車輪などの物品だけでなく、ハムやソーセージなどの豚肉製品の中でも生存し得ると説明する。感染した肉を豚が食べることなどが、病気を運ぶ経路になり得るためだ。
ここで分けて考える必要があるのは、消費者の健康、家畜の健康、商品の輸入条件という三つの問題だ。ASFを理由にスペイン料理全体を危険視するのは適切ではない。しかし、人に感染しないことだけを根拠に、動物検疫を不要とすることもできない。守ろうとしている対象が異なるからである。
WOAHは、ASFによる被害を農場経営や生計に及ぶ問題として位置付けている。輸出国では市場へのアクセスが失われ、感染の侵入を警戒する国では養豚業を守る対策が必要になる。両国の利害を整理すると、輸入再開は単に販売を認める手続きではなく、生産と流通の安全性を互いにどう確認するかという問題になる。
輸入停止中なのに、なぜ輸出はゼロではないのか
輸入停止という言葉と、今年も日本向け輸出が記録されていることは、一見すると矛盾して見える。しかし、動物検疫所が公表する条件には、停止対象から除外される製品が明記されている。
対象外となるのは、2025年10月29日以前に、と殺・加工・梱包まで終わっているもの。さらに、輸出されるまで防疫上安全かつ衛生的に保管・輸送されたことについて、スペイン政府の証明が必要とされる。古い在庫であれば何でもよいという条件ではなく、時期と取扱い、証明を組み合わせた例外である。
したがって、日本向けの輸出実績が残っていることを、通常の輸入が再開した証拠と考えることはできない。同様に、日本の店にスペイン産の品物が並んでいても、それだけで規制に反していると決め付けることはできない。なお、今回の統計に含まれる各貨物がどの条件で輸出されたかまで、この記事で確認した資料は明らかにしていない。
この区別は再開に関する続報でも役立つ。既存の例外条件で入る製品があること、例外の対象が広がること、新たな生産品について通常の取引が認められることは、それぞれ異なる変化だ。「スペイン産が届いた」という一点だけでは、市場全体が開いたとは判断できない。
再開交渉の焦点は「スペイン全土」を一括りにするか
スペインが日本に求めているのが、病気の発生地域とそれ以外を区別する地域主義の受入れだ。スペイン農業省によると、ルイス・プラナス農相は5月7日、山内弘志駐スペイン日本大使との会談で、この交渉を前に進める必要性を示した。
地域主義は、地図に線を引けば成立する仕組みではない。WOAHの国際基準では、区域内外の動物や産品の移動を把握できること、感染状況を監視すること、区域の衛生状態を裏付ける記録などが重視される。国全体で清浄性を回復する過程でも、条件を満たす区域について取引を継続するための考え方である。
スペインには、別の輸出相手国との合意例もある。農業省は5月22日、フィリピンとの地域主義に関する合意により、バルセロナ県を除く地域からの豚肉などの輸出が再開可能になったと発表した。ただし、その発表では対象となる生産日が定められ、加工調製品については引き続き交渉するとされていた。
この例が示すのは、再開にも地域、品目、生産時期による条件があるということだ。フィリピンが合意したから日本も自動的に同じ判断をするわけではない。別の国での再開を、そのまま日本向けの再開予定として伝えることはできない。
日西の交渉を評価するうえでは、「前向きに協議した」という表現からさらに進んで、どの地域の、どの製品が、いつの生産分から対象になるのかを見る必要がある。9月5日に確認した日本側の公開条件には輸入停止が記載されており、この記事で対日輸出の通常再開日を示すことはできない。
ここからは貿易上の意味を考えたい。輸出する企業にとっては、販売できるかどうかに加え、どの条件を満たす製品なら出荷できるかが事業計画の前提になる。日本の買い手にも、仕入れの量と時期を判断する材料が必要だ。仮に再開の合意が発表されても、その日のうちに品ぞろえが元に戻ると期待するのは早い。行政上の条件変更と、契約・出荷・流通の進展を別々に確認する必要がある。
今後の続報では、政府発表に再開対象が明記されたか、企業が実際の出荷や仕入れを発表したか、そして店頭や飲食店で取扱いが変わったかを順に追うと、読者にも回復の進み方が分かりやすくなる。今回の落ち込みの数字は、その後の変化を測るための基準にもなる。
日本の読者への解説
スペイン産豚肉と聞くと、専門店で食べるイベリコ豚や生ハムを思い浮かべるかもしれない。しかし、日本との接点はもっと日常的だ。農水省は2025年12月23日の会見で、スペイン産が日本の豚肉輸入量の約2割、国内供給の約1割を占め、その多くが冷凍品だと説明した。ベーコンなどの加工原料に加え、外食、中食、小売にも使われるという。輸入生ハムではスペイン産が7割弱を占めるとも述べていた。
これらは停止直後に示された説明で、現在の供給構成を表す数字ではない。それでも、スペインの出来事が日本の食生活に届く経路を理解する手掛かりにはなる。高級食材の輸入が滞るだけでなく、加工原料の調達先を見直す話にもつながるからだ。同じ会見では、輸入事業者が冷凍在庫を使いながら、他国産への切替えを試みていると説明されていた。
では、日本の豚肉は足りなくなるのか。今回の対日輸出の減少率だけで、そう結論付けることはできない。日本側には国内生産や他国からの輸入があり、品目ごとの在庫もある。スペインからの減少が、どの程度ほかの供給で補われたのかを確認して初めて、全体の不足を論じられる。輸出が約74%減ったことは、日本の豚肉供給が同じ割合で減ったことを意味しない。
値上がりについても同様だ。特定の店や商品の変更をこの問題と結び付けるには、その企業の説明や価格、仕入れの資料が要る。この記事で確認した貿易統計から、日本全体の店頭価格がどれだけ上がったかは分からない。生ハムの品ぞろえと加工用豚肉の調達を、ひとつの「豚肉不足」という言葉で片付けないことが大切だ。
今回のニュースから読み取れるのは、食文化の交流が、衛生条件と物流によって支えられているということだ。スペイン側から見れば日本は重要な買い手であり、日本側から見ればスペインは身近な食材の供給元だった。その関係を回復するために必要なのは、両国の防疫上の判断を具体的な取引条件へ落とし込む作業である。今後は、交渉の雰囲気よりも、正式に変わった条件と実際の流通を追っていきたい。













