9月8日に公表されたPISA 2025でスペインが3科目とも過去最低に沈んだ結果を、家庭の社会経済的背景で四分割して見ると、意外な構図が浮かぶ。最も大きく落ちたのは、最も恵まれた家庭の生徒だった。教育省の国内報告書によれば、社会経済文化指数(ISEC)で上位25%の生徒は2022年から読解で33.0点、数学で24.2点、科学で12.6点下げたのに対し、下位25%の生徒の下げ幅は読解15.1点、数学10.5点、科学4.5点で、いずれも上位層の半分以下だった。OECD平均でも「上位層ほど落ちる」傾向は共通するが、OECDは科学で下位・中位層がなお改善し数学も安定しているのに対し、スペインは「ほぼすべての社会階層で悪化」しており、報告書はこれを「伝統的に成績の高かった生徒層の弱体化」と表現した。恵まれた家庭と不利な家庭の得点差はスペインで71点とOECD平均の85点より小さく、格差そのものは縮んでいるが、それは下が上がったからではなく上が落ちたからだ。私立校の優位は生徒の家庭背景を除くと大きく縮み、学校の背景も除くと公立校が逆転する。留年率はOECDを大きく上回り、公立校に偏る。本稿は、今回の結果を「格差」の軸で読み直し、スペインの学校で何が起きているのかを整理する。
四分位で見る下落 ─ 上位25%の読解は33点減
PISAは生徒の家庭の所得、親の学歴と職業、家にある本や学習環境を合成した社会経済文化指数(ISEC、国際的にはESCS)を作り、各国の生徒を四つの層に分けて分析する。スペインの国内報告書が示した2022年から2025年への変化は次の通りだ。
| 科目 | ISEC上位25%の変化 | ISEC下位25%の変化 | スペイン全体の変化 |
|---|---|---|---|
| 読解 | -33.0 | -15.1 | -23 |
| 数学 | -24.2 | -10.5 | -16 |
| 科学 | -12.6 | -4.5 | -8 |
3科目とも、上位層の下げ幅は下位層の2倍を超える。OECD平均でも上位層の落ち込みが最も大きいという点は同じだが、報告書は「その大きさはスペインで明らかに大きい」と明記した。OECD平均では科学で下位層と中位層がなお改善し、数学では一定の安定が見られる。スペインにはそれがなく、唯一の例外は科学の第3四分位(上から2番目の層)がわずかに持ちこたえたことだけだった。読解と数学では「すべての社会階層で、OECD平均を大きく上回る損失」が出ている。
OECDの国際報告書は科学について、恵まれた家庭の生徒の得点変化をスペインで13点減、不利な家庭の生徒を4点減と集計している。OECD平均は恵まれた層が8点減、不利な層は5点増で、方向すら違う。恵まれた層と不利な層の差はスペインで2022年から8点縮み、OECD平均でも13点縮んだ。数字だけ見れば「格差が縮小した」と言えるが、その中身は上位層の失速であって、下位層の底上げではない。
「上位層の薄さ」の正体
速報で指摘したように、スペインの弱点は落ちこぼれの多さではなく、伸びる生徒の少なさにある。科学・読解・数学のいずれかで最上位(レベル5以上)に達した生徒は7.0%で、OECD平均11.9%の6割にとどまる。今回の四分位分析は、その薄さがどこで生まれているかを示した。上位層が最上位に届かなくなっているのだ。
OECDの国際報告書は、2022年から2025年にかけて恵まれた家庭の生徒のうち最上位に達する割合が読解で32の国・地域、数学で18の国・地域で減ったと記録し、数学についてはカナダ、デンマーク、フィンランド、ハンガリーとともにスペインを「2015年以来の長期的な低下傾向の一部」と名指ししている。さらに、不利な家庭の生徒のうち最上位に達する割合が減った国として、読解でスペインを含む4カ国、数学でも香港、ハンガリー、シンガポールとともにスペインを挙げた。つまりスペインでは、上の層も下の層も、そこから抜け出て最上位に達する生徒が減っている。
一方で、不利な家庭から科学の上位25%に入る「レジリエントな生徒」はスペインで13%と、OECD平均の12%をわずかに上回る。教育省の報告書は「社会経済的な出自は依然として重要だが、かなりの割合の生徒がその制約を乗り越えている」と評価した。格差の傾斜が緩く、レジリエントな生徒が平均より多いという点で、スペインの学校は公平性の面では悪くない。悪いのは全体の高さだ。
私立の優位は、家庭背景を除くと消える
今回の国内報告書は、公立校と私立校の差についても踏み込んだ分析を載せた。スペインは公立校に通う生徒の割合がOECD平均やEU全体より低く、私立校(公費助成を受ける協定校と完全私立校)の比率が高い。家庭背景を調整しない素の得点では、私立校の生徒の方が科学で高い。ただしその差はOECD平均より小さい。
生徒のISECを統計的に除くと、公私の差は大きく縮む。報告書は「私立校の当初の優位のかなりの部分は、生徒の社会経済的・文化的な出自による」と述べる。さらに学校全体のISEC、つまり「どういう家庭の子が集まっている学校か」も除くと、差は逆転して公立校が上回る。この逆転はスペインだけでなくOECD平均でもEU全体でも起きており、私立校の「教育力」と見えるものの大部分が、実際には生徒の選別効果だという結論になる。
スペインに住む日本人家庭にとってこれは実用的な情報だ。私立校の高い平均点は、その学校が優れた教育をしている証拠というより、似た背景の家庭が集まっている結果である可能性が高い。学校選びで平均点だけを見るのは、少なくともPISAのデータが示す限り、根拠として弱い。公立校でも家計負担が年1,294ユーロに及ぶことは先週の記事で伝えたが、費用と得点の関係は見かけほど単純ではない。
留年 ─ 公立校に偏る「スペイン式」の代償
スペインの教育制度がOECDの中で際立つもう一つの特徴が留年だ。報告書は、スペインの留年率がOECD平均とEU全体を「大幅に」上回り、しかも公立校で私立校よりはるかに頻繁に起きていると記録した。公私の留年率の差はOECDやEUの差を大きく超える。留年した生徒としていない生徒の得点差も、3科目すべてでOECD・EU平均より大きい。
留年は成績の低い生徒を1年遅らせて学び直させる制度だが、PISAの分析では留年した生徒の得点が改善するという証拠は乏しく、むしろ意欲の低下と中退の増加につながることが繰り返し指摘されてきた。スペインでは公立校に留年が集中することで、公立校の平均点が押し下げられ、それが「私立の方が良い」という見かけの差をさらに強めている構造がある。
移民、性別、そして「意欲は高い」という逆説
スペインでは15歳の生徒の20.3%が移民の背景を持ち、OECD平均の16.7%、EU全体の16.3%を上回る。移民背景の生徒は科学で非移民の生徒より低いが、ISECを除くと差は大きく縮み、スペインの差はOECD平均とEU全体を下回る。移民の多さはスペインの平均点を押し下げる要因の一つだが、格差の傾斜という点では、スペインの学校は移民の子どもを比較的うまく取り込んでいる。
性別では、読解で女子が優位、数学で男子が優位という国際的な型をスペインも繰り返す。科学は男女とも下がったが、下げ幅は男子の方が大きかった。
そして逆説がある。スペインの生徒が自己申告する「科学を学ぶことへの好奇心」と「粘り強さ」の指数は、OECD平均とEU平均を明確に上回る。男女ともに正の値を示す国は欧州では少数派で、スペインはその一つだ。意欲が高いのに結果が出ない。OECDが今回、読解の低下を「長い文章への耐性」と「試験後半での集中の途切れ」と結び付けたことを踏まえると、スペインの問題は「やる気」ではなく、集中を持続させる訓練と、伸びる生徒を伸ばす仕組みの側にあると読むのが自然だ。
政治 ─ 「気合を入れ直せ」と言いながら責任は州へ
社会労働党(PSOE)のミンゲス氏は結果を受けて「気合を入れ直す必要がある」と述べつつ、教育の実施権限は自治州にあるとして責任を州政府に振り向けた。教育省は前日から「国際的な低下傾向の一部」という説明を繰り返しており、国民党(PP)は現行教育法LOMLOEの失敗と断じる。ただし今回の四分位分析は、どちらの説明にも都合の悪い事実を含む。「国際的な傾向」と言うには、スペインの上位層の落ち方はOECD平均より明らかに大きい。「教育法の失敗」と言うには、法律の影響を最も受けにくいはずの恵まれた家庭の生徒が最も落ちている。
日本の読者への解説
日本のPISAでも、社会経済的背景と得点の関係は毎回分析されるが、「上位層が最も落ちた」という今回のスペインの型は、日本の議論ではあまり見ない。日本の2025年の結果は3科目とも下がったが、上位層(レベル5以上)は27.1%と厚く、OECD平均の2倍以上を保っている。スペインで起きているのは、その上位層が薄くなり続ける現象だ。
スペインで子どもを育てる日本人家庭にとって、今回のデータが示す実務的な含意は三つある。第一に、私立校の平均点は学校の質の指標として弱い。第二に、留年制度は公立校の平均点を見かけ上押し下げており、公立校の数字はその分だけ割り引いて読む必要がある。第三に、スペインの子どもの意欲は低くない。落ちているのは長い文章を読み通す力と、上位層を伸ばす仕組みであり、家庭で補えるのはおそらく前者だ。日本との25年の比較で示したように、両国の差は「3学年分」に達するが、その差がどの層で生まれているかを知れば、対策の焦点は絞れる。













