経済協力開発機構(OECD)が9月8日に公表した学習到達度調査「PISA 2025」で、スペインの15歳は科学477点、読解451点、数学457点と、2000年の調査開始以来すべての科目で過去最低を記録した。前回2022年からの下げ幅は科学が8点、読解が23点、数学が16点で、読解の落ち込みは1回の調査間としては最大。OECD平均(科学482・読解461・数学463)を3科目とも下回り、2022年には「平均並み」だった位置から明確に下側へ滑り落ちた。90の国・地域が参加した今回、スペインの平均得点順の位置は科学31位、読解31位、数学34位。OECD加盟38カ国の中では科学27位、読解26位、数学30位にあたる。国内では首都マドリード州(科学495)、カスティーリャ・イ・レオン州(493)、アストゥリアス州(492)が上位を占め、最下位のメリージャ(405)との差は90点に達した。カタルーニャ州は生徒の23.2%を試験免除にしたため国際比較から除外されている。教育省は「スクリーン(画面)の影響を含む国際的な低下傾向の一部」と説明して現行教育法LOMLOEとの関連を否定し、野党の国民党(PP)は「サンチェス政権と教育法の失敗」と断じた。
スペインの得点推移(OECD公表値)
| 調査年 | 科学 | 読解 | 数学 |
|---|---|---|---|
| 2000年 | 491 | 493 | 476 |
| 2015年(最高) | 493 | 496 | 486 |
| 2022年 | 485 | 474 | 473 |
| 2025年 | 477 | 451 | 457 |
| OECD平均 2025年 | 482 | 461 | 463 |
| 2022年→2025年 | -8 | -23 | -16 |
| 2015年→2025年 | -16 | -45 | -29 |
科学 ─ 今回の主要領域、OECD平均との差は5点だが「上位層の薄さ」が際立つ
PISAは3年ごと(今回から4年ごとに移行)に読解・数学・科学のうち1科目を主要領域として重点的に測る。2025年の主要領域は科学だった。スペインの477点はOECD平均の482点に5点及ばず、欧州連合(EU)全体の481点も下回った。統計的に有意差がない国・地域はフランス(483)、イタリア(483)、ポルトガル(482)、ハンガリー(480)、デンマーク(478)、クロアチア(476)、スロバキア(475)、ルクセンブルク(474)で、スペインは欧州の中位から下位の一群にいる。
OECDは今回、平均点そのものよりも分布の形に注意を促している。スペインで科学・読解・数学のいずれかで最上位(レベル5以上)に達した生徒は7.0%にとどまり、OECD平均の11.9%を大きく下回った。一方、3科目すべてで基礎水準(レベル2)に届かない生徒は18.4%で、OECD平均の19.7%よりわずかに少ない。つまりスペインの弱点は「落ちこぼれの多さ」ではなく「伸びる生徒の少なさ」にある。スペイン教育省の国内報告書も、平均点がスペインより低いスロバキアやスロベニア、ルクセンブルクの方が上位層の比率は高いと指摘している。
10年単位で見ると、科学の得点は2015年の493点から16点下がった。OECD平均の10年トレンドが7点の低下であるのに対し、スペインの下げは倍以上だ。科学で基礎水準に届かない生徒の割合は2015年から2025年の間に6ポイント増え、OECD平均の増加幅(2.9ポイント)を上回った。
読解 ─ 23点の急落、「400語を超える文章に苦しむ」
最も深刻なのは読解だ。451点は2022年の474点から23点の下落で、OECDが有意な下落と認める幅を大きく超える。2015年(496点)からの10年では45点下がった。OECDの目安では約20点が1学年分の学習に相当するとされ、機械的に当てはめればスペインの15歳は10年前の同世代より2学年分以上遅れている計算になる。OECD平均も同じ期間に27点下がっているが、スペインの下げ幅はその1.7倍だ。
OECDでPISAを統括するトゥエ・ハルグリーン氏は、スペイン紙の取材に「生徒は長い文章に問題を抱えている。400語を超えると難しさが増す」と語った。OECDの分析では、正確かつ流暢に読める生徒の割合は2018年から2025年で7ポイント減り、逆に「速いが不正確な読み手」は7%から11%に増えた。試験の後半になるほど得点が落ちる傾向も強まっており、OECDは注意力と粘り強さの低下を示す兆候とみている。ハルグリーン氏は「似た結果がすべての国で見られる。個別の政策よりも、そちら(画面)に関係している」と述べ、比較可能な74の教育システムのうち56で2018年以降に読解の有意な低下が起きたことを挙げた。
ただしスペイン固有の要因が消えるわけではない。読解の男女差は26点(女子464・男子439)でOECD平均の30点よりやや小さいが、下位層の膨らみが激しい。スペインの学校の86%がすでに携帯電話の校内使用を禁止しており(OECD平均49%)、「禁止しても下がった」という事実は、画面の影響が学校の中だけの問題ではないことを示している。
数学 ─ 457点、10年で29点の下落
数学は457点で、2022年の473点から16点下がった。2015年の486点からは29点の低下で、OECD平均の10年トレンド(24点低下)を上回る。OECD平均の463点との差は6点。統計的に有意差のない国はフランス(458)、ルクセンブルク(458)、ハンガリー(459)などで、ここでもスペインは欧州の中位から下位の集団に属する。男女差は14点で男子が上回り、OECD平均(13点)とほぼ同じだった。
今回新設された「計算論的問題解決(Computational Problem Solving)」では、スペインは499点でOECD平均の500点とほぼ同じだった。プログラミング的思考を測るこの領域では、スペインは科学・読解・数学ほどの遅れを見せていない。
主要国・地域との比較(一覧)
平均得点順に並べた上位と、日本・韓国、OECD平均、スペインの4領域の得点は次の通り。順位は平均得点を単純に並べた参考値で、OECDの検定では上位数カ国の間に統計的な差がない組み合わせもある。
| 国・地域 | 科学 | 読解 | 数学 | 計算論的問題解決 |
|---|---|---|---|---|
| 中国4省市(北京・上海・江蘇・浙江) | 597 | 527 | 612 | 560 |
| シンガポール | 560 | 535 | 563 | 563 |
| マカオ | 541 | 501 | 549 | 572 |
| 台湾 | 540 | 508 | 546 | 551 |
| 日本 | 538 | 503 | 525 | 557 |
| エストニア | 527 | 499 | 508 | 541 |
| 韓国 | 526 | 501 | 522 | 538 |
| 香港 | 496 | 480 | 522 | 545 |
| OECD平均 | 482 | 461 | 463 | 500 |
| スペイン | 477 | 451 | 457 | 499 |
自治州別 ─ 北高南低、そして「基礎の欠落」が広がる南部
スペインは17自治州と2自治都市がそれぞれ独自サンプルを追加してPISAに参加しており、州別の結果が国内報告書に掲載される。科学ではマドリード州(495)、カスティーリャ・イ・レオン州(493)、アストゥリアス州(492)、カンタブリア州(490)、ガリシア州(486)、カスティーリャ・ラ・マンチャ州(485)、ラ・リオハ州(484)、アラゴン州(482)がOECD平均以上の水準にあり、北部と中央部が上位を固めた。下位はバレンシア州(450)、バスク州(459)、アンダルシア州(462)、カナリアス州(469)で、自治都市のセウタ(420)とメリージャ(405)はさらに大きく離れている。
自治州・自治都市別の科学の得点(2025年と2022年、国内報告書の公表値)
| 州・自治都市 | 2025年 | 2022年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| マドリード | 495 | 502 | -7 |
| カスティーリャ・イ・レオン | 493 | 506 | -13 |
| アストゥリアス | 492 | 503 | -11 |
| カンタブリア | 490 | 504 | -14 |
| ガリシア | 486 | 506 | -20 |
| カスティーリャ・ラ・マンチャ | 485 | 475 | +10 |
| ラ・リオハ | 484 | 500 | -16 |
| アラゴン | 482 | 499 | -17 |
| OECD平均 | 482 | 485 | -3 |
| スペイン全体 | 477 | 485 | -8 |
| エストレマドゥーラ | 473 | 479 | -6 |
| ナバラ | 472 | 489 | -17 |
| バレアレス | 471 | 480 | -9 |
| ムルシア(要注意注記) | 470 | 482 | -12 |
| カナリアス | 469 | 473 | -4 |
| アンダルシア | 462 | 473 | -11 |
| バスク | 459 | 480 | -21 |
| バレンシア | 450 | 483 | -33 |
| セウタ | 420 | 410 | +10 |
| メリージャ | 405 | 414 | -9 |
| カタルーニャ | 除外(参考値502、比較不可) | 477 | ― |
3年間で最も下げたのはバレンシア州(33点減)とバスク州(21点減)で、逆にカスティーリャ・ラ・マンチャ州とセウタは10点上げた。上位の顔ぶれは2022年とほぼ変わらないが、ガリシア州(20点減)のように上位でも大きく下げた州がある。
読解ではアストゥリアス州(471)、マドリード州(469)、カスティーリャ・イ・レオン州(466)の3州だけがOECD平均を有意に上回った。最下位圏はメリージャ(379)、セウタ(397)、そしてバスク州(419)で、バスク州はスペインで最も教育支出が多い州でありながら、自治都市を除けば最低に沈んだ。数学ではマドリード州(477)、カスティーリャ・イ・レオン州(472)、カンタブリア州(470)が上位で、アンダルシア州(442)、バレンシア州(432)が下位だった。
OECDの報告書は、スペインの州別データについて二つの注記を付けた。カタルーニャ州は校内での試験免除率が2022年の5.6%から23.2%に跳ね上がったため、州としての結果を国際報告に掲載しない。ムルシア州も免除率が4.1%から12.7%に上がったため、結果は掲載されるが「上方バイアスの可能性があるため慎重に読むべき」とされた。国内報告書にはカタルーニャの受検者だけの平均として科学502点が参考掲載されているが、教育省は「受検した生徒しか代表しておらず、他州や過去との比較には使えない」と明記している。カタルーニャ除外の経緯は別稿で詳しく報じた。
格差と資源 ─ 社会経済的な傾斜は緩いが、教員不足は深刻
OECDが「公平性」の指標として重視する社会経済的背景と得点の結び付きは、スペインでは比較的弱い。科学の得点のばらつきのうち社会経済的背景で説明できる割合は9.2%(OECD平均11.6%)、恵まれた家庭と不利な家庭の生徒の得点差は71点(同85点)で、いずれもOECD平均より格差は小さい。移民の背景を持つ生徒と持たない生徒の差は43点で、OECD平均と同じだった。スペインでは移民背景の生徒が全体の20.3%を占め、OECD平均の16.3%を上回る。
一方、学校が報告する教員不足の深刻さを示す指数は、スペインが0.65でOECD平均の0.30、EU平均の0.33の2倍に達した。公立校と私立校の差は0.74ポイントで、不足は公立校に集中している。教員組合は結果の公表に合わせて人員と資源の不足を改めて訴えた。
政治反応 ─ 「国際的な傾向」と「教育法の失敗」の間で
教育省のアベラルド・デ・ラ・ロサ教育担当国務長官は結果を「改善が必要」と認めつつ、「文脈の中で考えなければならない」として、画面利用の増加や欠席の増加といった国際的な低下傾向の一部だと説明した。2020年に成立した現行教育法LOMLOEとの因果関係は否定した。ミラグロス・トロン教育相は同日朝、公共放送TVEで「常に楽観的でなければならない。教育について言えば、あらゆる障害を乗り越えることがどの国にとっても不可欠だ」と語った。
PPは公表前日の9月7日にボルハ・センペル報道官が「データはサンチェス政権の失政の結果を映すだろう」「LOMLOEは一世代を犠牲にしている悪法だ」と先手を打っていた。センペル氏はカタルーニャとバスクを名指しし、「PISAの結果を粉飾するために嘘をつき、情報を改ざんした」とも述べた。今回のPISAは、LOMLOEが全学年で完全実施された2023-24年度以降に初めて実施された調査であり、与野党の争点になることは避けられない。
スペインの得点は2015年をピークに下落基調が続いている。今回の下落がコロナ禍後の国際的な現象の一部なのか、それともスペイン固有の制度要因が重なった結果なのかは、この数字だけでは決着しない。OECDは各国のカリキュラムや教育法の効果を直接測っているわけではなく、相関と因果を切り分けるにはなお時間がかかる。ただし「上位層の薄さ」と「10年で読解45点減」という二つの事実は、どの政党が政権にあっても避けて通れない。
日本の読者への解説
日本は今回、科学538点、読解503点、数学525点で、いずれもOECD加盟国の中では首位だった。ただし3科目とも2022年から下がっており(科学9点減、読解13点減、数学10点減)、上位維持と下落傾向が同居している。世界全体では中国の4省市連合(北京・上海・江蘇・浙江)が科学と数学で首位、シンガポールが読解で首位に立った。日本を含む東アジアとスペインの差、そして25年間の推移は比較記事で詳しく扱う。
スペインに住む日本人家庭にとって現実的に重要なのは、国全体の平均よりも州ごとの差だ。マドリード州やカスティーリャ・イ・レオン州の公立校の水準はOECD平均を上回り、日本の読者が「スペインの学校は心配だ」と一括りにする必要はない。一方でバレンシア州やアンダルシア州、バスク州の読解の落ち込みは深刻で、居住州によって子どもが受ける教育の平均的な水準に90点、およそ4学年分の差がある。公立校でも家計負担が年間1,294ユーロに及ぶことを先週の記事で伝えたが、費用の議論と並んで「どこに住むか」が教育の質を左右するという構図は、日本の都道府県格差よりはるかに大きい。
次回のPISA 2029は初めて4年間隔で実施される。スペインの10年間の下落が底を打ったのかを確かめるには、そこまで待つ必要がある。













