訂正(10月8日):この記事は当初、マリカルメンさんの名前の表記に誤りがありました。また、議会で否決されたものを「法案」としていましたが政令でした。否決された政令の再決定について「成立する見込み」としていましたが、議会の常任委員会での採決はこれからです。入居した時の年齢の記述は裏付けが取れないため削除しました。おわびして訂正します。
スペインの住宅危機と立ち退き問題の象徴となった87歳のマリカルメン・アバスカルさんが、マドリード市内のアパートから強制退去させられた2週間後に病院で死去しました。彼女は70年以上にわたり同じ家に住み続けていましたが、物件を購入した投資ファンドとの法廷闘争の末、担架で運び出される形で退去を執行されました。この一件は大規模な抗議運動に発展し、サンチェス政権が閣議で決めた住宅の政令が議会で否決されたことで解散総選挙に至るなど、国政を大きく揺るがす事態となりました。
背景にある法廷闘争
アバスカルさんは、父親が契約した低家賃の借家契約(Renta Antigua)の下で暮らしていました。父親、母親の死後、アバスカルさんが契約を引き継ぎましたが、所有者となった投資ファンド「Urbagestión」は、法律で定められた2回目の契約継承の条件(一定の障害等級など)を満たしていないとして継承は無効だと主張。年金収入約1400ユーロのアバスカルさんに対し、月2600ユーロの新家賃を提示しました。支払いは不可能であり、退去を拒否したため法廷闘争に発展。下級審ではアバスカルさんが勝訴したものの、最終的に最高裁はファンド側の主張を認め、強制退去が決定されました。
社会運動から政治危機へ
アバスカルさんの状況は借家人組合などの支援を通じて広く知られるようになり、特に担架で運び出される映像は社会に衝撃を与えました。マドリード中心部のプエルタ・デル・ソル広場では大規模な座り込みが行われるなど、抗議活動が激化。世論に押されたサンチェス政権は、立ち退きを制限する緊急の政令を議会に提出しましたが、カタルーニャの政党Juntsが反対に回り否決。これが引き金となり、サンチェス首相は解散総選挙を断行しました。しかし、その後、世論の圧力により所有者側はアバスカルさんが収入の30%以下の家賃で帰宅することを認めましたが、彼女が退院する前に亡くなったため実現しませんでした。また、否決された政令とほぼ同内容の政令が解散後に閣議で再決定され、議会の常任委員会(Diputación Permanente)で採決される予定です。
日本の読者への解説
スペインでは近年、特に大都市で家賃が高騰し、投機目的のファンドが住宅市場に与える影響が社会問題化しています。日本の借地借家法のような強力な借家人保護の仕組みが弱く、契約期間が終了すると家主が一方的に契約を打ち切り、大幅な家賃値上げや観光アパートへの転用を行う例が後を絶ちません。アバスカルさんの悲劇は、安定した住居を失うことへの市民の不安が、いかに大きな政治的エネルギーになりうるかを浮き彫りにした事例と言えます。













