スペインで「16歳未満はSNSを使えない」とする法案が、成立の最終段階に入っている。ペドロ・サンチェス首相は9月上旬、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査PISA 2025でスペインが3科目とも過去最低を記録した結果を受け、「科学的な証拠が示している。SNSの過剰な使用は未成年の認知発達を助けない」と述べ、議会に法案の「今度こそ」の可決を迫った。政府は夏季休会明けの9月中の成立を目指しているが、本稿執筆時点で採決日は決まっていない。同じ9月17日、欧州委員会は加盟27か国に共通の下限を設ける「KIDS法」案を発表した。13歳未満はSNS全面禁止、13〜15歳は保護者が管理する「ミニアカウント」で1日1時間まで、無限スクロールと夜間通知は禁止、プロフィールは初期設定で非公開という内容で、対象はSNSだけでなくゲーム、動画、アプリストア、AIチャットボットにまで及ぶ。スペインの16歳案はこれより厳しく、フランスの15歳案は憲法院に差し戻され、オーストラリアは2025年12月から16歳未満を禁止している。一方の日本は、こども家庭庁が2026年1月に作業部会を設け、7月に中間報告をまとめた段階で、「一律禁止」から「自主規制の強化」まで結論は出ていない。本稿では、スペインが禁止に踏み切ろうとしている理由、EU案の中身、各国の分岐、そして日本がどこに立っているのかを整理する。

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スペイン法案の中身──16歳、初期設定の保護者管理、「依存設計」の立証責任

法案の正式名称は「デジタル環境における未成年者保護のための組織法」。組織法(ley orgánica)は憲法上の権利に関わる法律で、下院の絶対多数(176議席以上)を要する。単純多数で通る通常法より成立のハードルが高い。

主な内容は三つある。

  • SNSアカウントの最低年齢を14歳から16歳に引き上げる。現行の14歳は個人情報保護法に基づく基準で、これを2歳引き上げる。16歳未満は保護者の明示的な許可なしにアカウントを持てない
  • 端末の初回設定から保護者管理を既定で有効にする。スマートフォンやタブレットを最初に立ち上げた時点で保護者管理が動いている状態にし、解除には能動的な操作を要するようにする
  • プラットフォームに「依存設計を使っていない」ことの立証を求める。企業は国家市場競争委員会(CNMC)に対し、無限スクロールや自動再生などの依存を誘発する設計を用いていないことを示さなければならない。立証責任を企業側に置く点が特徴だ

このほか、未成年への望まない接触の防止、有害コンテンツへの露出の遮断、家庭向けの教育プログラムが「安全なデジタル環境のための国家戦略」として盛り込まれている。

シラ・レゴ青少年・児童相は8月、「夏季休会の後に最終的な承認を得られると確信している」と述べた。ただし9月10日の時点でサンチェス首相自身が「今度こそ」と言わなければならなかったことが示すとおり、採決の日程は固まっていない。首相は「巨大テック企業に正面から立ち向かったのはわが政権だけで、国民党もVoxも支持しなかった」と述べ、法案を政権の独自性の証として位置づけている。野党国民党のフェイホー党首は法案そのものよりも政権の教育政策を批判しており、対立の軸は法案の中身から離れている。

なぜ今なのか──PISAの最低記録

サンチェス首相がこの法案を前面に押し出した直接のきっかけは、9月上旬に公表されたPISA 2025の結果である。当サイトが詳報したとおり、スペインは科学477点、読解451点、数学457点で、3科目とも参加以来の最低を記録した。しかも下落幅が最も大きかったのは裕福な家庭の生徒で、従来の「貧困と学力」の説明が通用しなかった。

この結果を受けて政権が持ち出したのが、デジタル機器とSNSの過剰使用という説明だった。首相は「科学的な証拠」という言葉を使ったが、SNS使用と学力低下の因果関係は研究者の間でも見解が分かれている。相関は繰り返し確認されているが、SNSが学力を下げるのか、学力が下がる環境にいる子どもがSNSを多く使うのかは切り分けが難しい。それでも政治的には、PISAの最低記録という誰の目にも明らかな数字と、SNS禁止という誰にでも分かる対策を結びつけることで、法案に推進力が生まれた。

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EU「KIDS法」案──27か国の共通の床

9月17日、欧州委員会は未成年のデジタル保護に関する規則案を発表した。通称「KIDS法」。加盟国がそれぞれに定めてきた年齢基準に、EU全体の「共通の床(suelo común)」を設けるのが狙いだ。主な内容は次のとおり。

  • 13歳未満 SNSの利用を全面的に禁止
  • 13〜15歳 保護者が監督する「ミニアカウント」のみ。利用は1日1時間まで
  • 15歳以上 通常の個人アカウントを許可
  • 依存設計の禁止 無限スクロールの無効化、22時から翌8時までの通知遮断(連続8時間)、ゲーム内のルートボックス(課金ガチャ)の廃止
  • 初期設定の保護 プロフィールは既定で非公開、位置情報・カメラ・マイクは既定でオフ
  • AIチャットボット 感情的な依存関係を模倣することを禁止
  • 年齢確認 身分証や生体情報を保存しない方式で義務化。監査を義務づけ、案件は最長90日で処理

対象範囲が広い。SNSだけでなく、動画プラットフォーム、オンラインゲーム、アプリストア、OS、AIチャットボットが含まれる。教育目的と公的機関のサービスは除外される。

これは規則案であり、欧州議会と理事会の承認を経る必要がある。成立までは年単位の時間がかかる。だが方向性は明確で、EUは「各国がばらばらに決める」段階から「共通の最低基準を持つ」段階へ移ろうとしている

各国の分岐──スペイン16、EU15、フランスは差し戻し、豪州は施行済み

年齢の線引きは国によって違う。

  • スペイン 16歳。EU案の15歳より厳しい。EU案が成立すれば、スペインは自国の基準との整合を取る必要が出る。ブリュッセルが15歳、マドリードが16歳では意味をなさない、という指摘がすでに出ている
  • フランス 15歳未満の禁止を進めていたが、憲法院が欧州法との整合を理由に差し戻し、2027年までの再設計を求められている。国レベルで先行したのに、EU法の壁で足踏みした形だ
  • オーストラリア 2024年に法制化し、2025年12月に施行。16歳未満のアカウント作成と保持を禁止。対象はFacebook、Instagram、TikTok、X、Snapchat、Reddit、Threads、Twitch、Kickなど10社。罰則は子どもや保護者ではなく事業者に課される。大規模な実施の先例になった
  • アイルランド EU議長国として年齢基準の共通化を主導している

共通しているのは、罰則の対象が子どもや親ではなく、プラットフォーム企業だという点だ。「使わせない」責任を家庭ではなく事業者に負わせる。日本の議論と最も違うのはここである。

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日本はどこにいるのか

日本には、SNSの利用に年齢の下限を設ける法律がない。2008年の青少年インターネット環境整備法は、携帯電話事業者にフィルタリングの提供を義務づけたが、利用の可否そのものは家庭の判断に委ねてきた。

動きが出たのは2026年に入ってからだ。こども家庭庁は1月にSNS規制の必要性を議論する作業部会を設置し、7月30日に中間報告をまとめた。同法の改正も視野に入れ、「全面禁止」から「自主規制の強化」までを選択肢として並べている。総務省もSNS依存対策として年齢制限案を検討し、法改正の可能性に言及した。ただし総務省の担当者は「年齢による一律規制」よりも保護機能と教育の組み合わせを重視する姿勢を示しており、8月末の時点で特定の方式が確定したわけではない

興味深い先例が一つある。香川県のネット・ゲーム依存症対策条例だ。2020年に施行され、18歳未満のゲーム利用を平日1日60分(休日90分)、スマートフォンの使用を中学生以下は21時、それ以外は22時までとする目安を定めた。EU案の「1日1時間」と偶然にも同じ数字だ。ただし香川の条例は家庭の努力義務で罰則がなく、施行から4年半を経た2024年の県議会でも効果の検証と「依存症」という名称の妥当性が争点になっている。数字を決めることと、それを実効性のある制度にすることは別問題だということを、この条例は先に示している。

日本の読者への解説

スペインとEUの動きを日本から見るとき、三つの点で違いが際立つ。

第一に、責任の所在。欧州の制度設計は一貫して「プラットフォームに責任を負わせる」方向だ。年齢確認の義務も、依存設計の立証責任も、罰則も企業にかかる。日本の議論は「家庭でどう管理するか」「学校でどう教えるか」に重心があり、事業者への義務づけは弱い。どちらが正しいかは別として、日本の子どもと欧州の子どもは、同じアプリを使いながら、法的に守られる度合いが違う状態になりつつある。

第二に、政治的な動機。スペインでこの法案が勢いを得たのは、PISAの最低記録という「失点」を、SNS禁止という「得点」に変換できたからだ。因果関係の証明は後回しにされている。日本でも学力調査の結果が政策の駆動力になることはあるが、SNS規制と学力を直結させる語り方はまだ主流ではない。スペインの例は、その語り方がどれほど政治的に強力かを示している。

第三に、実効性。香川県の条例が示すとおり、数字を法律に書いても、年齢確認の仕組みがなければ機能しない。EU案が年齢確認を「身分証も生体情報も保存しない方式で義務化」としているのは、この問題を正面から扱っているからだ。日本が「一律禁止」を選ぶにせよ「自主規制」を選ぶにせよ、避けて通れないのはこの技術的・法的な設計であって、年齢の数字ではない。

スペインの法案は、9月中に可決されるかもしれないし、また先送りされるかもしれない。だがEUが共通の床を設ける方向に動いた以上、欧州の子どもが16歳までSNSを持てない世界は、もはや仮定ではなく日程の問題になった。日本の議論は、その世界を前提に組み立て直す時期に入っている。

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