スペイン気象庁(AEMET)は、2026年の熱波日数が61日に達し、観測史上最多になったと発表した。これまでの記録は2022年の41日で、それを20日上回る。熱波は4回に分かれて襲来し、うち7月(2日〜24日、23日間)と8月(7月28日〜8月20日、24日間)の2回は、1975年以降で3番目と2番目に長い熱波として記録された。夏(6〜8月)の全国平均気温は24.5度で、統計が始まった1961年以来の最高。1991〜2020年の平年値を2.4度上回り、2025年の記録をさらに0.3度更新した。9月2日から7日にかけて起きた4回目の熱波では、ウエルバ県エル・グラナドで45.7度を観測し、9月の国内最高記録に並んだ。AEMETが9月に赤色警報を出したのは、現行の警報制度が始まった2007年以来初めてだ。人的被害も過去最悪で、カルロス3世保健研究所の超過死亡推計システムMoMoは、5月15日から8月31日までに5,232人の死亡を暑さに関連づけている。2015年の推計開始以来の最多である。本稿では、この61日という数字の内訳、何が例年と違ったのか、そして同じ夏に「歴代5位」だった日本との比較を整理する。

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61日の内訳──4回の熱波

AEMETが「熱波(オラ・デ・カロール)」と認定するには、少なくとも3日連続で、観測所の10パーセント以上が、その地点の7〜8月の最高気温上位5パーセントに入る高温を記録する必要がある。単に暑い日ではなく、広域かつ持続的な異常高温だけが数えられる。

2026年、半島部とバレアレス諸島でこの基準を満たした期間は4回あった。

  • 第1波 6月20日〜27日(8日間) 42県に影響。6月としては歴史的な規模で、AEMETは当時「6月の記録的熱波」と表現した
  • 第2波 7月2日〜24日(23日間) 37県。平年からの気温偏差は3.9度で、今夏で最も強度が高かった。1975年以降で3番目に長い熱波
  • 第3波 7月28日〜8月20日(24日間) 32県。1975年以降で2番目に長い熱波。これより長いのは2015年7月の26日間だけ
  • 第4波 9月2日〜7日(6日間) 16県。気象学上はすでに秋に入ってからの熱波で、9月の熱波としては1987年、1988年、2006年、2016年に続く5例目

カナリア諸島でも8月1日から5日に独立した熱波があった。第2波と第3波の間は3日しか空いておらず、7月2日から8月20日までの50日間のうち47日が熱波だったことになる。

AEMETは発表の中で、次の一文を添えている。「歴代最も暑い夏の上位10回はすべて21世紀に、そのうち7回は2015年以降に起きている」。61日という数字は突出しているが、方向としては予想の範囲内だという含みである。

9月の赤色警報──制度開始以来の初例

第4波は日数こそ短いが、記録の面で二つの意味を持つ。

ひとつはエル・グラナド(ウエルバ県)の45.7度。これは2026年にスペインで観測された最高気温であり、同時に9月の国内最高記録である2016年のモントロ(コルドバ県)45.7度に並んだ。史上最高は2021年8月にコルドバ県ラ・ランブラで観測された47.6度だが、それは真夏の記録だ。9月に45度台が出ること自体が、この10年で2度目である。

もうひとつは警報の色だ。AEMETは9月3日、アンダルシア州の複数の地域に最高レベルの赤色警報を発令した。9月に赤色警報が出たのは、現行の警報制度が2007年に始まって以来初めてである。夏の延長線上で「まだ暑い」のではなく、秋の初めに真夏の最高警戒レベルが必要になったという点で、質的に新しい事態だった。

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5,232人──MoMoが示した過去最悪の夏

暑さの人的被害を測る指標として、スペインではカルロス3世保健研究所のMoMo(日次死亡モニタリング)が使われる。実際の死亡者数と、気温が平年並みだった場合の予測値との差から、暑さに帰属できる超過死亡を統計的に推計する仕組みだ。

MoMoによれば、2026年5月15日から8月31日までに暑さに関連づけられた死亡は5,232人。月別では6月858人(21日以降のみ)、7月2,025人、8月2,147人。2015年に推計が始まって以来、最多である。7月は2022年と並ぶ歴代最高の暑さ、6月は歴代2位だった。

この数字の読み方には注意が要る。MoMoは「暑さで死亡が確認された人」を数えているのではなく、統計モデルが平年からの超過分として推計した値である。当サイトは6月の段階で「1,029人が熱波で死亡」という報道の数字が何を意味するかを整理したが、その注意はそのまま通年の数字にも当てはまる。5,232人は「焼け死んだ人の数」ではなく、暑さがなければ生きていたはずの人の数の統計的な推計だ。それでも、この推計方法で比較できる過去11年の中で最悪であることに変わりはない。

何が変わったのか──「強さ」ではなく「長さ」

61日という数字を分解すると、今年の特徴は熱波の強度よりも持続時間にあることが分かる。

第2波の気温偏差3.9度は確かに高いが、過去にも同程度の強度の熱波はあった。異なるのは、23日間と24日間という2つの長期熱波がほぼ連続したことだ。1975年以降の記録で20日を超える熱波は数えるほどしかなく、それが同じ夏に2回起きた例はない。

持続時間が長いことの影響は、瞬間的な高温とは異なる形で現れる。夜間の気温が下がらない「熱帯夜」が数週間続けば、体は回復の機会を失う。高齢者の死亡が集中するのは熱波の初日ではなく、数日から一週間後である。MoMoの推計で7月と8月がそれぞれ2,000人を超えたのは、この累積効果の表れだと考えられる。

電力需要、農業、観光にも同じ構造が及ぶ。当サイトが夏の間に報じた食品価格への波及や、リオハで統計史上最も早い8月初旬にブドウの収穫が始まった事実は、いずれも「暑い日があった」ことではなく「暑さが続いた」ことの結果である。

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日本との比較──「歴代5位」の夏と、何が違ったのか

同じ2026年の夏、日本も暑かった。気象庁の集計では、全国の夏(6〜8月)の平均気温は統計開始以来の歴代5位。西日本は7月中旬・下旬と8月下旬がそれぞれ1946年以降で1位の高温となった。全国の観測地点で猛暑日(35度以上)を記録した地点数は延べ7,528で、2010年以降では2025年(9,385)、2024年(8,821)に次ぐ。酷暑日(40度以上)は延べ36地点で、2010年以降で最多だった。

数字を並べると、両国の夏は似て見える。だが構造には三つの違いがある。

第一に、記録の位置づけ。スペインの2026年は1961年以降で明確に1位、しかも2位の2025年を0.3度引き離した。日本は歴代5位で、上位は2023年、2024年、2025年が占める。日本は「毎年が記録的」という段階に入っており、スペインは「今年が突出」した。

第二に、熱波の形。日本の猛暑は太平洋高気圧とチベット高気圧の重なりで広域が一様に暑くなる。スペインの熱波はサハラからの熱気がイベリア半島に流れ込む形で、内陸南部が45度を超える一方、大西洋岸は30度前後にとどまる。日本の「全国が35度」と、スペインの「一部が45度」は、同じ熱波でも社会への効き方が異なる。

第三に、被害の数え方。日本で使われるのは総務省消防庁の熱中症による救急搬送人員で、2025年(5〜9月)は10万510人、うち初診時死亡が117人だった。これは搬送された人を数える実数だ。一方スペインのMoMo 5,232人は超過死亡の推計であり、救急搬送を経ずに自宅で亡くなった高齢者も含まれる。「117人」と「5,232人」を並べて「スペインは日本の45倍危険」と読むのは誤りで、測っているものが違う。ただし日本でも、消防庁の数字とは別に超過死亡を推計すれば、暑さに関連する死亡は搬送時死亡よりはるかに多いことが分かっている。2026年の日本の確定値は10月末の発表待ちである。

日本の読者への解説

「スペインで熱波が61日」というニュースは、日本から見ればひとつの記録の話に映るかもしれない。だがこの数字には、日本の夏を考えるうえで役立つ含みが三つある。

ひとつは、記録を測る物差しの違いだ。スペインは「熱波の日数」という、持続時間を直接測る指標を持っている。日本の指標は猛暑日の地点数や平均気温であり、暑さが「何日続いたか」を正面から数える公式統計がない。持続時間こそが死亡を積み上げる要因であることを考えると、日本も同種の指標を持つ価値がある。

二つめは、秋の熱波だ。スペインでは9月に赤色警報が出た。日本でも近年は9月の猛暑日が珍しくなくなり、運動会や新学期の熱中症が問題になっている。「夏は終わった」という暦の感覚と、実際の気温の乖離は、両国で同時に広がっている。

三つめは、数字の読み方だ。5,232人という推計と117人という実数は、どちらも正しく、どちらも暑さの被害を測っている。だが測り方が違う。ニュースで大きな数字を見たとき、それが「確認された死者」なのか「統計的な推計」なのかを見分ける習慣は、スペインの数字を読むときも日本の数字を読むときも、等しく役に立つ。

スペインの夏は2026年、記録を更新した。AEMETの発表が示すとおり、それは異常値というより、21世紀に入ってからの傾向が一段階進んだ結果である。日本の歴代5位も、同じ傾向の別の表れだ。両国の数字を並べる意味は、どちらが暑いかを競うことではなく、同じ方向に進んでいる二つの国が、それぞれどう測り、どう備えているかを照らし合わせることにある。

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