リオハワインの都ログローニョで、収穫を祝う「サン・マテオ祭(フィエスタ・デ・ラ・ベンディミア・リオハナ)」が9月19日(土)から25日(金)まで開かれている。市内各所で350を超える催しが組まれ、ほぼすべてが無料だ。祭りの核心は明日21日(月)正午、エスポロン広場で行われる「ブドウ踏みと初搾りの奉納」で、民族衣装の若者が樽の中で今年のブドウを素足で踏み、最初の果汁をリオハの守護聖母バルバネラに捧げる。23日(水)20時には市庁舎広場で誰でも参加できる一般ブドウ踏み、25日(金)22時には樽を燃やす「クバ焼き」で祭りが閉じる。市庁舎広場では深夜まで無料コンサートが続き、60軒を超えるバルが並ぶカジェ・ラウレルは一週間、立錐の余地がなくなる。ただし祝祭の裏側は穏やかではない。今年のリオハは統計史上最も早い8月初旬に収穫が始まり、品質は「グラン・アニャーダ(当たり年)」と期待される一方、ブドウの買い取り価格は1キロ0.68ユーロという下限が示され、栽培農家は「コストを割っている」と訴える。本稿では、日程と会場、カジェ・ラウレルの歩き方、行き方と宿、そして祭りの裏で起きている価格問題までを一通りまとめる。

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この記事の内容

1. サン・マテオ祭とは──ブドウを踏み、初搾りを捧げる

ログローニョはスペイン北部ラ・リオハ州の州都で、人口約15万人。エブロ川沿いのこの街を中心に広がるのが、スペインで最も知られたワイン産地DOCa(特選原産地呼称)リオハである。サン・マテオ祭は9月21日の聖マテオの祝日を軸にした街の守護聖人祭であり、同時に「リオハのブドウ収穫祭」として州全体の一年の節目になっている。

祭りの起源は中世に遡るが、収穫祭としての現在の形は1956年に整えられた。中心となる儀式は「ピサド・デ・ラ・ウバ(ブドウ踏み)」と「初搾りの奉納」だ。民族衣装をまとった男女が大きな木桶に入り、収穫したばかりのブドウを素足で踏む。そこから流れ出た最初の果汁を、ラ・リオハの守護聖母であるバルバネラの聖母に捧げる。機械化された現代の醸造では失われた工程を、年に一度だけ、街の中心で再現する行事である。

2026年の会期は9月19日(土)から25日(金)。開幕は19日正午、市庁舎広場から打ち上げられる「コエテ(開幕の号砲)」で、これは北スペインの祭りに共通する作法だ。市が公表したプログラムは350を超える催しで構成され、コンサート、山車の行列、巨人人形と大頭人形の練り歩き、闘牛、子ども向けの催し、そして各地区の露店が一週間続く。

今年の新機軸として、第1回サン・マテオ・ガイテロ(バグパイプ奏者)の集い第1回ログローニョ市民楽団の集いが加わった。前者はリオハに隣接するアラゴンやナバラの民俗楽器文化との接点を示すもので、地元紙は「祭りの音の幅が広がった」と伝えている。

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2. 日程表──残り5日の主要行事

本稿の時点で祭りは2日目が終わったところだ。残る日程の主要行事を挙げる。時刻はいずれも現地時間で、市の公式プログラムに基づく。

9月20日(日)

  • 11時30分 山車の行列(デスフィレ・デ・カロサス)。ソリダリダ大通りを出発
  • 終日 巨人人形と大頭人形が旧市街を練り歩く
  • 深夜0時 Efecto Pasillo の無料コンサート/市庁舎広場

9月21日(月)──祭りの核心日

  • 正午、エスポロン広場 ブドウ踏みと初搾りの奉納。祭りで最も人が集まる行事で、正面で見るなら11時前には広場に着いておきたい
  • 深夜0時 Maldita Nerea の無料コンサート/市庁舎広場

9月22日(火)

  • 23時 Da igual の無料コンサート/市庁舎広場

9月23日(水)

  • 20時、市庁舎広場 一般参加のブドウ踏み(ピサド・ポプラール)。旅行者も列に並べば桶に入れる。裸足になるので、足を拭くものを持っていく
  • 23時以降 París de Noia の無料コンサート/ラ・リベラ公園の新ステージ

9月24日(木)

  • 21時 Puro Relajo の無料コンサート/市庁舎広場

9月25日(金)──閉幕

  • 22時、市庁舎広場 クバ焼き(ケマ・デ・ラ・クバ)。祭りの終わりを告げる樽の焼却。火と煙で広場が満たされる

このほか、20日から25日まで毎朝9時30分にラ・リベラ闘牛場で若い雌牛を放す「バキージャス」が行われる。闘牛そのものではなく、素人が牛と広場で戯れる催しで、地元の若者の通過儀礼に近い。19日から22日までは国会広場(プラサ・デル・パルラメント)で屋外の焼き物(パリージャ)が出る。

3. カジェ・ラウレル──60軒のバルが並ぶ「象の道」

祭りの時間帯の大半、人が実際にいるのは行事会場ではなくカジェ・ラウレル(月桂樹通り)である。旧市街を貫くこの通りとその周辺(トラベシア・デル・ラウレル、サン・アグスティン通り、サン・フアン通り、ポルタレス通り)に60軒を超えるバルが密集し、それぞれが1品か2品の名物ピンチョ(一口料理)で客を呼ぶ。

地元では「ラ・センダ・デ・ロス・エレファンテス(象の道)」と呼ばれる。一軒ごとにワイン一杯とピンチョ一つで次へ移る「はしご」を繰り返すうちに、象のようによろよろと歩くことになるからだ。

名物として繰り返し挙がる店を二つ挙げる。

  • バル・ソリアーノ──1972年から続くマッシュルームの鉄板焼き「チャンピ」の店。串に刺したマッシュルームをニンニクとオリーブオイルで焼き、小エビを載せる。ログローニョで最も有名なピンチョと言ってよい
  • バル・フベラ──1980年創業。パタタス・ブラバス(揚げジャガイモにピリ辛ソース)が看板。この店はスペイン北東部式で、マヨネーズと辛いソースの両方をかける

祭りの週は、これらの店に入ること自体が難しい。通りは肩が触れ合う密度になり、カウンターに辿り着くまで時間がかかる。午後1時前か、夜は21時前に入るのが現実的だ。ワインはリオハの若いティント(赤)が1杯2ユーロ前後で、ピンチョは2〜4ユーロ。10軒回っても50ユーロに届かない。

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4. 祭りの裏側──史上最早の収穫と、コスト割れの買い取り価格

祭りの華やかさとは別に、今年のリオハには二つの異常がある。

統計史上、最も早い収穫

DOCaリオハ規制委員会によれば、2026年の収穫は8月初旬に始まった。これはDOCaの記録が残る限りで最も早い。原因は明白で、この夏スペインは観測史上最も暑い夏を経験し、ブドウの成熟が前倒しになった。

9月中旬の時点で、規制委員会が集計した搬入量は2億6,778万キロ(赤2億2,580万キロ、白4,198万キロ)に達している。2025年は「品質は卓越、量は例外的に少ない」年で、総量は2億2,540万キロだった。今年はそれをやや上回る見通しだが、規制委員会は「確定値を出すのはまだ非常に難しい」としている。

品質については楽観が広がっている。ブドウの健全な状態と収穫期の好天から、業界は「グラン・アニャーダ(偉大な当たり年)」を期待している。皮肉なことに、猛暑は栽培農家を苦しめる一方で、糖度と凝縮度の高いブドウを生んでいる。

1キロ0.68ユーロという下限

問題は価格だ。8月25日、主要ボデガ(醸造所)は今年の買い取り価格を「1キロあたり0.68ユーロから」と提示した。昨年の平均は赤0.83ユーロ、白0.79ユーロで、ボデガ側は「前年と同水準を維持する」と説明しているが、示された下限はそれを下回る。

栽培農家の団体は、この価格では生産コストを回収できないと反発している。地元紙の分析では、昨年のリオハで採算が取れたのは収量が上限に近い区画だけで、標準的な区画は赤字だったという。背景にはスペイン全体のワイン消費の減少があり、同じ構図はカタルーニャのブドウ農家でも起きている。

輸出は堅調だ。DOCaリオハは2025年に2億2,946万リットルを139か国に出荷し、輸出比率は過去最高を記録した。しかし世界的な消費縮小の中で「売れているのに農家が儲からない」という構造は、リオハでも解消されていない。祭りでブドウを踏む若者たちの多くは、その農家の息子や娘である。

5. 行き方と宿

  • ビルバオから Renfe の Alvia で約3時間、最安で10ユーロ台。ビルバオ空港に降りて鉄道でログローニョへ入るのが、日本からの最短経路になる
  • マドリードから Alvia で約3時間半。チャマルティン駅発
  • バルセロナから 直通は少なく、サラゴサ乗り換えで4〜5時間。バルセロナ滞在中の日帰りは現実的でない
  • 宿 祭りの週は例年、数か月前に埋まる。本稿の時点で市内はほぼ満室と考えたほうがよい。近隣のアロ、カラオラ、あるいはビトリアに泊まって日帰りする形が現実的だ。カジェ・ラウレル周辺は深夜まで騒がしく、静かに眠りたい人には向かない
  • 服装 9月下旬のログローニョは日中25度前後、夜は10度台に落ちる。深夜のコンサートには上着が要る。一般ブドウ踏みに参加するなら、裸足になれる服装と足を拭くタオル
  • 混雑と防犯 カジェ・ラウレルの人混みはバルセロナのランブラス通りに劣らない。財布とスマートフォンは前ポケットか内側に
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7. 日本の読者への解説

リオハは、日本でスペインワインと言えばまず名前が挙がる産地だ。スーパーの棚にも、居酒屋のグラスワインにも「リオハ」の文字がある。だがその産地が年に一度、街全体でブドウを踏む祭りをしていることを知る人は少ない。

日本にもワイン産地の祭りはある。山梨の勝沼、長野の塩尻、北海道の余市。ただし日本のワイン祭りは多くが「飲む」祭りで、試飲会や物販が中心になる。サン・マテオは違う。核心にあるのは「踏む」と「捧げる」という農作業と信仰の再現であり、飲むことはその周辺で勝手に起きる。ワインが産業になる前から続く、収穫を神に感謝する儀式の骨格が、そのまま残っている。

もうひとつ、日本の読者に見てほしいのは祭りの裏側だ。史上最も早い収穫は、この夏スペインが観測史上最も暑かったことの直接の結果である。品質は上がり、農家の収入は下がる。世界的にワインの消費が減る中で、産地の看板祭りは年々賑わい、それを支える農家は採算割れに苦しむ。日本の農業、とくに果樹や米の産地が抱える構造と、驚くほど似ている。

実務的には、今から今年の祭りに行くのは宿の面で難しい。ただ来年以降の計画なら、この記事の日程はほぼ毎年同じ形で繰り返される。9月21日を軸に前後3日、ビルバオ経由でログローニョに入り、カジェ・ラウレル近くに泊まる。それだけで、日本のスペインワイン好きが一度は見るべき光景に立ち会える。

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