8月10日朝(現地時間)、南米コロンビア西部チョコ県でマグニチュード7.4の地震が発生し、デ・ラ・エスプリエジャ大統領は同日、少なくとも111人が死亡、87人が負傷したと明らかにした。倒壊した建物は61棟、被害を受けた住宅は1,575戸にのぼり、政府は国家災害を宣言した。1920年代の観測開始以来、コロンビアで最大の地震と報じられている。そして環太平洋で巨大地震が起きるたび、日本のSNSには決まって同じ言葉が並ぶ――「次は日本ではないか」。本紙はこの通説を、米地質調査所(USGS)の地震カタログ56年分を使って機械的に検証した。1970年以降に日本周辺で起きたM7.0以上の本震51件すべてについて、「前後7日間に、環太平洋の遠く離れた場所でM7.0以上が起きたか」を数えたのである。結果は51件中20件、39.2%。一見すると高い数字だが、世界ではM7クラスの地震が年に約14回起きており、任意の2週間にどこかの環太平洋でM7以上が起きる確率は計算上37.7%。つまり観測された「連鎖」は、偶然に起きる頻度と統計的に区別がつかなかった。これは地震学の定説とも一致する。ただし話はそこで終わらない。「遠くの大地震が小さな地震を誘発する」現象は物理的に実在し、そして観測史上ただ一度だけ、大地震が世界中の大地震を明確に誘発した例外がある。順に見ていく。
何が起きたか――深さ110キロ、コロンビア観測史上最大と報じられる地震
USGSによると、地震は現地時間8月10日午前7時34分(日本時間午後9時34分)に発生した。震源はチョコ県サンホセ・デル・パルマールの南約5キロ、深さは約110キロ。海側のナスカプレートが南米プレートの下に沈み込む、その深部で起きた地震である。深さ110キロというのはやや深い部類で、同じマグニチュードの浅い地震に比べて地表の揺れはいくらか和らぐ一方、揺れの範囲は広くなる。実際、揺れは首都ボゴタからカリ、マニサレス、ペレイラまで広がり、隣国エクアドル、パナマ、ベネズエラでも感じられた。米太平洋津波警報センターは津波の恐れはないと発表している。
被害の数字は本稿執筆時点の第一報であり、今後増える可能性が高い。カリやペレイラでは建物の倒壊が相次ぎ、がれきの下に取り残された人々の救助活動が続いている。
「次は日本」説が消えない理由――印象に残る偶然は、実在する
この説がしぶとく生き残るのには理由がある。並べると「つながっている」ようにしか見えない実例が、実際にあるからだ。
2016年4月16日未明、熊本地震の本震が起きた。その約1日後、地球のほぼ裏側にあたるエクアドル沿岸でM7.8の地震が発生した。2010年2月26日には沖縄本島近海でM7.0の地震が起き、その翌日、チリでM8.8の巨大地震(マウレ地震)が起きた。さらに古くは1970年5月、小笠原諸島でM7.1が起きた4日後に、ペルーでM7.9の大地震が発生している。直近では2025年12月の青森の地震(M7.6)の約2日前に、アラスカでM7.0が起きていた。
点と点を結んで模様を見出すのは、人間の脳が最も得意とする作業である。だが「つながって見える」ことと「つながっている」ことは別だ。それを分けるには、印象的な事例だけでなく、すべての事例を数えるしかない。
56年分を数えた――51回の大地震、その前後1週間
検証の手順はこうだ。USGSの地震カタログから1970年1月以降のM7.0以上の地震を世界全体で取得すると782件ある(マグニチュードはすべてUSGSのカタログ値で、気象庁の発表値とは小数点以下が異なる場合がある)。このうち日本周辺(北緯24〜46度、東経122〜148度)で起きたものから、大きな地震の前後30日・500キロ以内に起きた地震を余震・前震として除くと、独立した「本震」は51件になる。この51件それぞれについて、前後7日間に震源から1,000キロ以上離れた環太平洋のどこかでM7.0以上が起きたかを数えた。
該当したのは20件、39.2%だった。これを「4割も連鎖している」と読んではいけない。世界のM7以上は56年間で782件、年平均13.8回起き、その約9割が環太平洋に集中している。すると、日本で大地震が起きようが起きまいが、任意の14日間の窓に環太平洋のM7以上が1回以上入る確率は約37.7%になる。観測値39.2%と期待値37.7%。その差は統計的な誤差の範囲に完全に収まり、有意差はない。つまり日本の大地震の前後1週間は、それ以外の平常な2週間と、何も変わらなかった。
個別に見ると、通説とは逆の事実も浮かび上がる。観測史上最大級だった2011年3月11日の東日本大震災の前後1週間、環太平洋の遠隔地でM7以上の地震はひとつも起きていない。2024年1月の能登半島地震も、同年8月の日向灘の地震もゼロである。「日本最大の地震ですら世界に飛び火しなかった」という事実は、熊本とエクアドルの偶然よりもはるかに重い。
逆方向も確認した。今回の震源に近いコロンビア・エクアドル・ペルー北部で1970年以降に起きたM7以上は20件。その前後1週間に日本でM7以上が起きていたのは3件だけで、これも偶然の範囲を出ない。なお今回のコロンビア地震の前7日間、日本周辺にM7クラスの地震はない。
地震学の答え――「1,000キロの壁」
この結果は、地震学が積み上げてきた結論のほぼ完全な追試になっている。米地質調査所のトム・パーソンズとアーロン・ベラスコが2011年に科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに発表した研究は、約30年分の世界の地震記録を解析し、大地震が別の大地震を誘発するのは震源からおおむね1,000キロ以内に限られ、それより遠方では大地震の発生率は上がらないと結論づけた。パーソンズは「世界規模の大地震クラスターは偶然以上のものではないと考えている」と明言している。2016年に熊本とエクアドルの地震が1日差で起きた際も、USGSの地震学者は「世界規模で大地震が統計的に有意に集中することを示した者は、これまで誰もいない」と述べた。そもそも熊本は内陸の横ずれ断層、エクアドルは沈み込み帯の地震で、型からして別物である。
理屈も明快だ。地震が周囲の断層に加える力(応力)の変化は距離とともに急激に減衰する。1万4,000キロ以上離れたコロンビアの地震が日本の断層に恒久的に加える力は、測定できないほど小さい。
裏を返せば、この「1,000キロの壁」の内側では話がまったく違うということでもある。今回の地震の余震はすでに始まっており、コロンビア国内とエクアドル北部など震源域の周辺では、今後数週間、規模の大きい余震への警戒が本当に必要になる。「遠い日本は無関係、近い隣国は要警戒」――距離によってリスクの意味が正反対になるのが、この現象の正しい読み方である。
ただしゼロではない――「揺れが揺れを起こす」動的誘発
では遠隔誘発はオカルトかといえば、そうではない。ここがこの問題の面白いところである。大地震の表面波が地球を伝わって通過するとき、遠く離れた場所で微小地震や低周波微動が誘発される現象は、観測で繰り返し確認されている。ベラスコらが2008年に発表した解析では、1990年以降のM7以上の大地震15件のうち12件で、地震波の通過に伴って世界各地の小さな地震が増えていた。西南日本や北米カスカディアの沈み込み帯では、遠い大地震の表面波が「微動」を誘発する様子が何度も捉えられている。必要な力はごくわずかで、限界まで力を溜めて「あとひと押し」の状態にある断層の引き金を、通りすがりの揺れが引く――そういう物理現象だ。
そして観測史上ただ一度だけ、この引き金が世界中の「大きな地震」まで動かしたことがある。2012年4月11日、スマトラ沖の東インド洋で起きたM8.6の地震である。観測史上最大の横ずれ型地震だったこの一撃のあと6日間、震源から1,500キロ以上離れた場所でのM5.5以上の地震が平常時の約5倍に増えた。USGSのフレッド・ポリッツらがネイチャー誌に報告した現象で、ポリッツは「これほど世界中で大地震を誘発した地震は、記録上ほかにない」と述べている。つまり大地震の世界規模の連鎖は、半世紀の観測でこの1件だけ確認された、極めて特殊な例外なのだ。しかもそれを起こしたのは、表面波を極めて効率よく放射する超巨大横ずれ地震だった。今回のコロンビア地震はM7.4で、M8.6とはエネルギーにして約60倍の開きがあり、深さ110キロの地震は浅い地震より表面波が弱い。2012年型の例外が再現される条件からは遠い。
日本の読者への解説
結論を実務的に言えばこうなる。今回のコロンビア地震によって、今後1週間の日本の大地震リスクが上がったという科学的根拠はない。56年分のデータを数えた本紙の検証でも、地震学の定説でも、答えは同じだった。安心してよい。ただし、その安心には裏面がある。今回の集計で、日本周辺では56年間に51回、つまり約1.1年に1回のペースで独立したM7クラスの地震が起きていた。日本は「コロンビアで地震があったから危ない」のではなく、コロンビアで何が起きようと起きまいと、常にM7が起こりうる場所である。備えの理由は海の向こうにはなく、足元にある。家具の固定、水と食料の備蓄、家族との安否確認手段の確認は、海外の地震のニュースとは無関係に、いつでも今日やる価値がある。
なおスペイン在住の読者には、スペイン自身の地震リスク――グラナダ盆地の活断層、カディス湾の津波、そして住宅保険に地震補償が自動付帯する公的制度CCS――を詳しく解説した「スペインの地震事情 完全ガイド」があわせて参考になるはずだ。またコロンビアはスペインにとって最大級の中南米系コミュニティの出身国であり、今後、安否確認や支援の動きがスペイン国内でも広がるとみられる。被害の全容と国際支援の状況については、数字が固まり次第、続報でお伝えする。













