スペインの住宅価格が、また記録を更新した。住宅・都市アジェンダ省が9月17日に公表した鑑定価格統計によると、2026年4〜6月期の自由市場住宅の平均鑑定価格は1平方メートルあたり2,355ユーロで、前年同期比12.5%上昇、前期比1.7%上昇となり、1995年に始まる統計で過去最高を塗り替えた。2,000ユーロ台に乗ったのはこれで6四半期連続で、2008年1〜3月期のバブル最盛期に記録した2,101.4ユーロを250ユーロ以上上回っている。地域別ではマドリード州が4,089.6ユーロと2四半期連続で4,000ユーロ台に定着し、バレアレス諸島が3,980ユーロ(+13.1%)、バスク州が3,102ユーロ(+11%)、カタルーニャ州が2,753ユーロ(+10%)と続く。伸び率ではバレンシア州の+15.7%が最も高く、カスティーリャ・イ・レオン+15.1%、カスティーリャ・ラ・マンチャ+14.7%、アラゴンとカンタブリアが+14.6%と、これまで「安い」とされてきた内陸部にも二桁上昇が波及した。唯一1,000ユーロを下回るのはエストレマドゥーラ(996ユーロ)だけである。2018年以降、住宅価格は約64%上がったのに対し賃金は27.4%しか上がっておらず、平均的な住宅を買うには国全体で年収の8年分以上、バレアレス諸島とマドリードでは15年分が必要という試算も出ている。本稿では今回の数字の中身、バブル期との本質的な違い、そしてスペインに住む・家を買う日本人にとって何を意味するかを整理する。

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数字の中身──新築は2010年以来の高値、中古が牽引

統計の情報源は、スペイン価値分析協会(AEV)に加盟する鑑定会社が住宅ローン審査などのために行った鑑定評価で、実際の成約価格ではなく「銀行が担保として認める価格」を集計したものだ。したがって国立統計局(INE)の住宅価格指数や不動産ポータルの掲載価格とは水準が異なるが、1995年から途切れずに続く唯一の公的四半期系列として、長期比較の基準に使われてきた。

築5年超の中古住宅は前年比12.5%上昇して2,342.5ユーロ、築5年以内の新築は12.1%上昇して2,736.6ユーロとなり、新築は2010年以来の高値である。公的助成付き住宅(VPO)は1,247ユーロで+5%と、市場住宅の半分の伸びにとどまった。上半期全体の平均上昇率は13.2%で、2025年後半からの加速がまだ止まっていないことを示す。

地域別の表を見ると、二つの傾向が読み取れる。一つは首都圏と島嶼部への集中で、マドリード州とバレアレス諸島は国平均の1.7倍前後の水準にある。もう一つは「安かった地域の追い上げ」で、バレンシア州(+15.7%)はマドリードやバルセロナから流出した購買力と外国人需要の受け皿になり、カスティーリャ両州やアラゴンはマドリード通勤圏の拡大と在宅勤務の定着で上昇に転じた。カナリア諸島は2,279.4ユーロ、カンタブリアは2,122ユーロ、セウタ・メリリャは2,184.9ユーロで、国平均に近い層が厚くなっている。

「バブル超え」は名目の話──実質ではまだ2008年を下回る

2,355ユーロという数字は2008年1〜3月期の2,101.4ユーロを名目で12%上回るが、この17年間の物価上昇を考慮すると景色は変わる。2008年の最高値を消費者物価指数で現在価値に換算すると約2,883ユーロに相当し、実質ベースでは現在の水準はまだバブル期を約18%下回っている。つまり住宅は「史上最も高い」が、「史上最も買いにくい」かどうかは所得との関係で決まる。

その所得との関係が、今回のもう一つの論点である。2018年4〜6月期から2026年1〜3月期までに平均住宅価格は約64%上昇した一方、賃金の伸びは27.4%にとどまった。価格が賃金の2倍以上の速さで上がった結果、平均的な住宅を買うのに必要な年収は国全体で8年分を超え、バレアレス諸島では15.1年分、マドリード州では15年分に達するという試算がある。スペイン銀行は返済負担が世帯所得の35%を超えるローンを「リスクあり」と分類しているが、2025年に実行された住宅ローンの11%がこの閾値を超えていた。

2008年との決定的な違いは、上昇の原因が「信用の膨張」ではなく「供給の不足」にある点だ。バブル期には年間70万戸以上が着工され、誰にでもローンが下りた。現在は年間着工が10万戸台で、世帯増加と移民流入に追いつかず、金利が下がって需要が戻った瞬間に価格だけが跳ねる構造になっている。鑑定価格の上昇は、銀行が担保価値を強気に見ているというより、市場に出る物件の絶対数が少なすぎて比較対象がすべて高い、という状況を反映している。

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若者への影響──独立年齢30.4歳、35歳以下で独立しているのは3割

価格上昇の社会的コストを最も直接的に負っているのは若年層である。スペインの若者が親元を離れる平均年齢は2024年で30.4歳と、EU平均の26.2歳を4歳以上上回る。35歳以下で独立して暮らしている人の割合は31.5%で、2007年より13.5ポイント低い。住宅ローンを組める頭金(物件価格の20%と諸費用で実質30%前後)を貯めるまでに、家賃が上がって貯蓄が進まない、という悪循環が固定化している。

政府は2025年から公的住宅の供給拡大、観光用賃貸の規制強化、非EU居住者の住宅取得への課税強化などを打ち出してきたが、供給が数字に表れるまでには数年かかる。今回の統計は、政策が効き始める前の「まだ上がっている」局面を示すものだ。

スペインで家を買う・借りる日本人への実務的な意味

スペインに住む日本人、あるいは移住や別荘購入を検討している日本人にとって、今回の数字は三つの含意を持つ。

  • 鑑定価格はローン上限を決める。スペインの銀行は鑑定価格と売買価格の低い方に対して原則80%(非居住者は60〜70%)までしか融資しない。鑑定価格の上昇は借入可能額の上昇でもあるが、売買価格がそれ以上に上がっている地域(バレアレス、マラガ、バレンシア沿岸)では自己資金の必要額も増えている。
  • 「安い地域」の消滅。バレンシア州やカスティーリャ両州のような、これまで首都圏より明らかに安かった地域が二桁上昇に入った。マドリードやバルセロナを避けて地方都市を選ぶ戦略は、まだ有効だが、割安感は急速に縮んでいる。
  • 賃貸市場への波及。買えない層が賃貸に滞留するため、家賃も上がる。在住者の更新交渉や、これから来る駐在員の住居予算は、昨年の相場を基準にすると足りない。

なお、鑑定価格統計は次回、7〜9月期分が12月に公表される。上半期の平均上昇率13.2%が続くのか、利下げ一巡と供給策の初期効果で鈍化するのかが、年末の焦点になる。

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日本の読者への解説

日本でも住宅価格は上がっているが、上がり方の構造がスペインとは違う。日本の上昇は東京23区の新築マンション(2023年に平均価格が1億円を超えた)や大阪・福岡の中心部に集中し、地方は横ばいか下落で、全国平均で二桁上昇という状況ではない。スペインは国全体、しかも安かった内陸部まで二桁で上がっているのが特徴で、これは人口が増え続けている(移民流入で2024年に4,900万人を超えた)国と、減り続けている国の違いでもある。

もう一つの違いは金利だ。日本は2024年以降の利上げ局面で住宅ローン金利が上がり始めたところだが、スペインを含むユーロ圏は2024年から2025年にかけて利下げが進み、変動金利の指標であるユーリボー12か月物が2%台に下がったことが、今回の価格上昇の背中を押した。つまり日本の読者が「金利が上がったのに家が高い」と感じているのに対し、スペインでは「金利が下がったから家が高い」のである。

最後に、年収の8年分、首都圏で15年分という数字は、日本の首都圏で語られる「年収倍率」と直接比較できる。首都圏の新築マンションでも年収の10倍前後とされ、マドリードやバレアレスの15倍はそれより重い。スペインは日本より物価も賃金も低い国だが、住宅取得の困難さでは、すでに東京圏を超えている。

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