スペイン気象庁(AEMET)が推計327人の超過死亡を残した第1次熱波の「終息」を宣言してから、まだ1週間しか経っていない。7月4日16時11分、AEMETは今夏2度目の熱波に対する特別警報(アビソ・エスペシアル)20号を発表した。5日日曜の午後から少なくとも7日火曜まで、内陸部の谷間では42℃。そして今回は、熱波の被害が「命」の統計に加えて「食」の数字として現れ始めている。穀物の収穫は地域によって40%減──農業団体が突きつけたこの推計は、スペイン国内の話では終わらない。オリーブオイルの値札を通じて、日本の食卓にも届く話だ。

日曜午後から火曜まで ── 特別警報20号の中身

AEMETの特別警報20号が描く今回の熱波は、第1次(6月20日〜26日)よりも期間は短いが、ピークの鋭さでは引けを取らない。対象は南西部(グアダルキビル川・グアディアナ川流域)、エブロ川流域、北東部の盆地、そしてピレネーの谷間。発生確率は「高い(40〜70%)」とされ、少なくとも3日間続く見込みだ。

日ごとの予想を追うと、5日日曜は南西部で39〜41℃、谷間では42℃に達する。普段は「涼しい北」のはずのガリシア西部・ミーニョ川流域でも38〜40℃、ア・コルーニャ内陸で37〜39℃という異例の数字が並ぶ。マヨルカ島も36〜38℃と、熱は地中海の島にも及ぶ。

最悪の日は6日月曜だ。南西部とエブロ川流域で39〜41℃、谷間では42℃を超える。カンタブリア東部で37〜39℃、バレンシア内陸でも37〜39℃。7日火曜も南西部は39〜42℃、北東部の盆地とエブロ川流域は39〜40℃で局地的に42℃超が続く。折しも7日はパンプローナでサン・フェルミン祭が開幕する。牛追いの熱狂は、文字通りの熱の中で始まることになる。

そして第1次熱波の教訓がそのまま当てはまるのが夜だ。南西部とエブロ川流域では最低気温が下がらない「非常に暖かい夜」が予想されている。第1次熱波の死者の多くが高齢者で、体力を削ったのは昼の42℃よりも「眠れない夜」だった。AEMETは今回も、屋外で働く人、高齢者、心血管系に持病のある人にとって「重大な危険」になると明記している。

なぜ3週間で2度目なのか ── 偏西風の蛇行が固定する「灼熱の型」

第1次熱波の終息からわずか1週間での再来。これは偶然ではなく、今年の夏の大気構造そのものに原因がある──気象学者たちが指摘するのは、地球を西から東へ巡る偏西風(ポーラージェット気流)の蛇行だ。

本来、偏西風は強く真っ直ぐ吹くことで、南の熱気と北の寒気を分ける「壁」として働く。ところがこの流れが弱まると、川が蛇行するように大きく波打ち始める。波が深くなると、イベリア半島の西の沖合に切離低気圧(DANA)が取り残され、その東側──つまりスペインから西欧にかけての上空──に、背の高い高気圧の尾根が居座る。この高気圧がドームの蓋のように大気を安定させ、サハラ砂漠の熱気を巨大なポンプのように半島へ汲み上げ続ける。5月の異常高温の際に本サイトでも解説した「ヒートドーム」の構図が、7月になっても解消されないまま再生産されているのだ。

気象専門メディアの分析では、今年はエルニーニョ現象と北大西洋に横たわる冷たい海水塊が、大西洋上での偏西風の波打ちをさらに強めているとの指摘もある。蛇行が固定化すれば、同じ場所で熱波が繰り返される。AEMET自身が認める通り、2015年以降スペインの熱波は「より頻繁に、より長く、より強く」なっており、今夏はその教科書のような展開になっている。第1次熱波の詳細と、日本の40℃との決定的な違いについては前回の特集で詳しく扱った。

畑では既に「40%減」 ── 数字になり始めた食料被害

今回の熱波で新しく見えてきたのは、農業被害の全体像だ。農業団体ウニオン・デ・ウニオネスは7月3日、5月中旬から続く一連の高温が各地の作物に「相当な減収」をもたらしているとの推計を公表した。

最も深刻なのは穀物だ。スペイン最大の穀倉地帯カスティーリャ・イ・レオンでは、小麦・大麦の収穫が前年比で約40%減。カスティーリャ=ラ・マンチャとアンダルシアで約30%減、エストレマドゥーラで約15%減と見積もられている。5月中旬からの高温が、麦の粒にでんぷんを蓄える登熟期を直撃し、成熟を強制的に早めてしまったためだ。収量だけでなく粒の品質への懸念も広がる。豆類に至っては、カスティーリャ両州の一部で最大50%減という数字が出ている。

被害は主食作物にとどまらない。エストレマドゥーラとアンダルシアではトマトが傷み、綿花とヒマワリは成熟が前倒しに。カタルーニャではブドウ畑への影響が報告されている。そしてスペインの看板であるオリーブは、アンダルシアの遅咲き地帯で開花・結実の最中に35〜40℃の熱に晒された。牧草の減少は畜産農家の飼料コストに跳ね返る。ウニオン・デ・ウニオネスは農業・漁業・食料省に対し、異常気象による例外的被害への追加支援策と、農業保険の補償拡充を要求した。

日本の食卓への波及 ── オリーブオイルの「既視感」

「スペインの畑の話」で済まないことは、日本の消費者が既に一度、身をもって経験している。スペインは世界のオリーブオイル生産の約44%を占める最大の生産国だ。2022年と2023年、干ばつによる2年連続の記録的不作が起きた際、その影響は円安と重なって日本の店頭を直撃した。エキストラバージンオリーブオイルの価格は2022年比で2〜2.5倍に跳ね上がった商品もあり、200〜250ml換算で600〜800円台という水準が今も続いている。

2024年の収穫が前年比約48%増と大きく回復したことで、国際価格はピークからようやく1割ほど下がり、2026年にかけて「緩やかに落ち着く」というのが業界の見立てだった。今回の開花期の熱波ストレスは、その回復シナリオに突きつけられた新たなリスクである。現時点で2026〜27年産の減産が確定したわけではない──オリーブの作柄は秋の収穫まで天候次第で振れる──が、「気温が数度上がった夏」が1年半後の東京のスーパーの値札を書き換えうることは、前回の高騰劇が証明済みだ。カタルーニャのブドウへの被害が続けば、スペインワインにも同じ理屈が働く。

この3日間の実践 ── 第1次熱波の教訓をそのまま使う

幸い、何をすべきかは3週間前に学んだばかりだ。12時から18時の屋外活動を避ける。水分は喉が渇く前に、汗をかいたら電解質も一緒に。日中はペルシアーナ(鎧戸)を閉めて熱を入れず、夜に換気する。体調の異変を感じたら迷わず112へ。詳細なチェックリストは第1次熱波の特集に、エアコンの電気代を抑える制度と時間帯戦略は補助金・節約ガイドにまとめてある。

気がかりなのは、この週末が観光と屋外イベントの当たり日であることだ。バルセロナでは4日、ツール・ド・フランス史上初のスペイン開幕(グラン・デパール)が始まり、沿道には大観衆が立つ。バルセロナ自体は海風のおかげで熱波の中心圏からは外れるが、それでも日中は35℃前後──炎天下で数時間立ち続ける観戦には、週末攻略ガイドで書いた日陰と給水の計画がそのまま必要になる。旅行者なら、42℃圏のセビージャを歩く技術は44℃の観光ガイドを参照してほしい。

日本の読者への解説

今回の熱波を日本から眺めるポイントは二つある。一つはメカニズムの共通性だ。偏西風の蛇行は、スペインだけを狙い撃ちにする現象ではない。日本で災害級の猛暑が起きる年も、多くの場合この蛇行によって太平洋高気圧とチベット高気圧が重なる「二段重ね」の構図が生まれている。2018年の埼玉・熊谷41.1℃も、近年の梅雨末期の豪雨も、根っこには同じ「弱く波打つ偏西風」がある。スペインの42℃は、地球の反対側の異常気象ではなく、同じ一枚の大気の別の断面だ。

もう一つは食料を通じた地続き感である。日本の食料自給率はカロリーベースで38%前後。オリーブオイルはほぼ全量が輸入で、その最大の供給元がスペインだ。パスタ用のデュラム小麦、ワイン、加工用トマト──地中海の畑の不作は、確実に数カ月から1年半のタイムラグを経て日本の物価に現れる。前回のオリーブオイル高騰で「気候変動は輸入価格の変動要因」であることを学んだ日本の消費者にとって、カスティーリャの麦畑の40%減は、遠い国の農業ニュースではなく、来年の家計の予告編として読むのが正しい。

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