「スペインの外国人法(extranjería)が大改正された」というニュースを、2025年から2026年にかけて何度も目にした人は多いだろう。ただ、報じられるのはたいてい「不法移民の臨時規正化(regularización)」や「移民何十万人を正規化」といった話ばかりで、正規のビザで真面目に暮らしている在住日本人にとって、結局どこが自分に関係するのかが見えにくい。

結論を先に言えば、今回の改正には日本人にとってむしろ"追い風"になる変更がいくつもある。学生がもっと働けるようになり、家族を呼び寄せたときの就労がぐっと楽になった。本稿では、2024〜2026年の外国人法改正のうち、正規滞在の日本人に実際に効く部分だけを、属性別に抜き出して整理する。

※在留資格の話は個々の状況で結論が変わる。本稿は全体像の地図であり、具体的な手続きは必ず外国人法専門の弁護士やgestoría、および一次情報(移民庁 inclusión.gob.es、官報BOE)で確認してほしい。

何が変わったのか(まず全体像)

大きな改正は2段階で起きた。

① 新・外国人法施行規則(RD 1155/2024)。 2024年11月に承認され、2025年5月20日に施行。外国人基本法(LO 4/2000)の施行規則を全面的に作り直した、いわば"土台の入れ替え"だ。滞在許可の種類・要件・手続きが広く再編された。

② 部分改正(RD 316/2026)。 2026年4月14日付、2026年4月16日施行。①をさらに調整し、家族滞在の拡大や、話題の臨時規正化(arraigo extraordinario)を組み込んだ。

以下、「自分はどのタイプか」で読み飛ばしてもらってかまわない。

【学生の人】働ける時間が増え、卒業後の道も明確に

学生(estancia por estudios)として滞在している人には、はっきりとプラスの変更があった。

まず、学生の滞在資格は「就学・生徒のモビリティ・ボランティア・研修活動のための滞在」と名称・範囲が広がり、追加の労働許可なしで週30時間まで就労できるようになった。従来は別途の就労許可が必要で、ここでつまずく学生が多かったが、その手間が消えた。アルバイトやインターンで生活を支えながら学ぶ、というスタイルが制度的に認められた形だ。

さらに、学業・研修の長期滞在から「居住+就労(residencia y trabajo)」への移行ルートが規則上はっきり規定された(新施行規則の第190条)。更新時に求められていた「学業成績(aprovechamiento académico)」の証明も、一定の場合に不要となった。「スペインで学んで、そのまま働く」という王道の進路が、以前より歩きやすくなっている。語学学校ではなく実体のある正規課程に進む人にとっては大きい。

【家族を呼ぶ人】呼び寄せた家族が"手続きなしで働ける"

家族呼び寄せ(reagrupación familiar)まわりの変更は、家族でスペインに住む日本人に直結する。

最大のポイントは、呼び寄せられた配偶者・登録パートナー(pareja de hecho)・子は、別途の行政手続きをすることなく、被雇用でも自営でも働けるようになったこと。これまでは「家族として滞在はできるが、働くには別の許可が要る」というケースがあり、配偶者のキャリアが宙に浮きがちだった。そこが解消された意味は大きい。

あわせて、呼び寄せられる家族の範囲が明確化され、必要となる収入・住居の要件も整理された。配偶者やパートナーが独立した居住・就労許可を得るまでの同居期間の扱いも見直されている。

【スペイン人と家族になる人】新しい滞在枠組み

スペイン国籍者と結婚する、あるいはその家族になる日本人のために、「スペイン国籍者の家族の滞在許可」という独立した章が新設された。さらに RD 316/2026 では、対象がスペイン国籍者の配偶者・登録パートナーだけでなく、2親等以内の親族にまで拡大され、仮の就労許可の仕組みも導入された。スペイン人パートナーがいる人にとっては、滞在の根拠がより整理され、扱いやすくなっている。

【長く住む人】arraigoと長期居住

長く住んでいる人向けの「arraigo(社会的定着)」も再編された。従来3年の在住が必要だった arraigo social は、2年で申請できる arraigo sociolaboral 等に置き換えられている。ただしこれは主に在留資格を持たずに住んでいた人を正規化する制度であり、就労・autónomo・非労働などの正規ビザで暮らす日本人には基本的に縁がない(ワーホリからの残留を考える人だけは関係しうる。詳しくはワーホリ残留ガイド)。

一方、5年以上住んで取得する長期居住(residencia de larga duración)のTIEは、原則5年ごとの更新になるなど、更新サイクルも整理されている。長く腰を据える人は、自分のカードの更新時期を改めて確認しておきたい。

注意:話題の「臨時規正化」は基本"自分には関係ない"

2026年に大きく報じられている臨時規正化(regularización extraordinaria / arraigo extraordinario、2026年4月16日〜6月30日に申請受付)は、ニュースのインパクトが強いぶん誤解されやすい。これは2025年末までに一定期間スペインに(在留資格なく)滞在していた人を救済する特別措置であって、正規のビザで暮らす日本人が使うものではない。「自分も何か申請しないと」と慌てる必要はまったくない。

共通の心得

  • 手続きはオンライン化が進行中。 多くの申請が電子証明書・Cl@veで完結する方向に動いている
  • 情報は流動的。 2024→2025→2026と短期間で要件が変わっている。ネットの古い解説や「数年前にこうだった」という体験談を鵜呑みにしない
  • 一次情報を見る。 移民庁(inclusión.gob.es)の各手続き(Hoja番号付き)や官報(BOE)が最も確実。複雑なケースは弁護士・gestoríaへ

日本の読者への解説

なぜスペインは、これほど頻繁に外国人法をいじるのか。背景には、少子高齢化のなかで移民の労働力に依存せざるを得ないスペインの事情がある。スペイン中央銀行や政府は、年金や経済成長の維持に移民の受け入れが不可欠だと繰り返し述べてきた。だからこそ規制は「いかに必要な人材を取り込み、すでにいる人を労働市場に組み込むか」という方向で、たびたび手直しされる。

日本人にとって幸いなのは、この大改正の多くで"恩恵を受ける側"に立てることだ。学生はより働きやすくなり、家族は就労の自由を得た。不法移民の規正化のニュースに身構える必要はなく、むしろ「自分の資格でいま何ができるようになったか」を前向きに確認するのが正しい向き合い方だ。制度は、知っている人だけが得をする。改正のたびに、自分のカテゴリの"アップデート"だけはチェックしておきたい。

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