フランスでは10月17日の全国デモが略奪や放火を伴う暴動になり、24日も各地でデモがある。隣国スペインでも同じことが起こりうるのか。経済の数字で比べると、スペインの方が財政の余力は大きい。欧州連合(EU)統計局によると、2025年の財政赤字は国内総生産(GDP)比2.4%でフランスの5.1%の半分以下、政府債務も100.5%と115.7%で、国際通貨基金(IMF)は今年の成長率をスペイン2.5%、フランス0.4%と見込む。スペインは燃料の減税(10月は1リットル20セントで、12月にかけて段階的に縮小する予定)もあり、店頭の軽油はフランスより約0.46ユーロ安い。一方で、暮らしの面ではスペインの方が苦しい数字もある。住宅価格は10年で約8割上がり、政府系の世論調査では国の主な問題として住宅を挙げた人が55.7%に上る。9月の物価上昇率は5.0%、8月の若者の失業率は22.7%で、どちらもフランスを上回る。11月11日には、二大労組がそろって呼びかける24時間の全国ゼネストとしては2012年以来となるストがあり、29日には総選挙がある。10月にはバルセロナなどで、デモの後などに小規模な衝突も起きた。いまの材料から見る限り、フランスのような全国規模の暴動に広がる兆しは見えないが、住宅と物価への不満は火種として残っている。

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フランスで起きていること

発端は、9月21日にパリ郊外クレテイユの高校から広がった生徒の抗議だった。教員不足や老朽化した校舎、大学入試の出願システムへの不満が、生活費や燃料価格の高騰への怒りと合流した。10月17日の全国デモには当局発表で約55万人が参加し、パリやマルセイユなどで略奪や放火が相次いだ。内相が18日夜に示した集計では、17日の拘束者は2,397人、負傷した警察官・憲兵は997人に上った(詳しくは当サイトの10月18日の記事)。17日の全国行動は、SNSでの呼びかけから広がったもので、単一の主催団体はなかった。

その後、政府は19日、パリとリヨンの中心部などに夜間外出禁止を出した。21日の首相と労組の会談は物別れに終わった。マクロン大統領は23日に初めて高校生の団体の代表約20人と会い、代表らによると、出願システムの全面的な見直しを約束した。代表らは大統領が話を聞いたことにはおおむね満足だとしつつ、具体策が示されるまで抗議を続けるよう呼びかけている。24日の全国デモに向けて、政府は警察・憲兵7万人を配置し、リールやリヨンの中心部などでデモを禁止した。マルセイユでは、労組の行進1本だけを特例として認め、それ以外のデモを禁じた。主要労組は、暴動の前の10月5日の時点で、11月5日の全国ストを呼びかけている。燃料については、首相が7日に備蓄の軽油を原価で放出すると表明し、軽油が1リットルあたり12〜18セント下がる見込みだと説明した。政府は12日、11月1日から3か月間実施すると発表している。

市場もフランスを不安視している。仏紙などによると、フランスの10年物国債の利回りは21日に2002年以来となる5%を超え、ドイツ国債との差は2011年以来の大きさになった。格付け会社ムーディーズは23日夜、フランスの格付けをAa3、見通しネガティブのまま据え置いた。この格付けは、赤字を減らす2027年予算の成立と、今後数か月で資金調達のコストと社会の緊張がいくらか和らぐことを前提にしている。

数字で比べるスペインとフランス

スペインの通信社エウロパ・プレスは24日、証券会社XTBの分析をもとに、スペインの財政はフランスより良い状態にあると伝えた。元記事の数字に、EU統計局などの最新の指標を加えて比べると次のとおり。

指標スペインフランス
政府の歳出(2025年、GDP比)45.3%57.3%
財政赤字(2025年、GDP比)2.4%5.1%
政府債務(2025年、GDP比)100.5%115.7%
成長率の見通し(2026年、IMF)2.5%0.4%
物価上昇率(2026年9月、EU基準)5.0%3.4%
失業率(2026年8月)10.0%8.2%
25歳未満の失業率(2026年8月)22.7%20.6%
軽油の店頭価格(10月19日、1リットル)1.889ユーロ2.346ユーロ

軽油は欧州委員会の週報、それ以外はEU統計局とIMFによる。スペインの赤字は2022年の4.6%から2025年には2.4%まで下がり、フランスは同じ期間に4.7%から5.1%に増えた。IMFは、スペインの債務が今年は97.6%と2019年以来初めて100%を下回り、2031年には89.4%まで下がると見込む。25歳未満の失業率は、スペインが1年前の25.0%から改善したのに対し、フランスは19.4%から悪化した。

XTBは、フランスは板挟みにあると見る。急に歳出を削れば抗議が強まり、消費が冷えて改革もさらに難しくなる。かといって、確かな財源のないまま新たな支援を出せば借金が増え、国債の利回りがさらに上がりかねない。スペイン銀行(中央銀行)は、スペインの政府債務を経済の弱点の一つに挙げ、高齢化や防衛、気候への対応で支出が増える中で、財政を確かな道筋に乗せるよう求めている。

当サイトの見立てでは、財政に余力がある分、スペインは燃料の減税のように生活費の不満を和らげる手を打ちやすい。ただし、その減税も11月は13セント、12月は6セントと縮小する予定で、フランスも11月から軽油の備蓄の放出を始める。燃料の差がこの先も同じように続くとは限らない。

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スペインの火種は住宅と物価

財政の数字が良い一方で、暮らしには別の数字がある。XTBの計算では、2015年から2025年に住宅価格は80.6%上がったが、名目の平均賃金は29.9%しか上がっていない。フランスは住宅が27%、賃金が24.4%で、住宅の手の届きやすさの悪化はスペインの方がはるかに大きい。物価上昇率もフランスを上回り、国内の消費者物価指数で見ると2023年2月以来の高さだ。

不満の大きさは世論調査にも表れている。政府系の世論調査機関、社会学研究センター(CIS)の10月の調査では、国の主な問題(3つまで回答)として55.7%が住宅を挙げた。過去最高で、2024年12月の調査から毎回1位になっている。最も深刻な問題として住宅を挙げた人も29.9%いた。10月2日に国会が住宅をめぐる政令2本を否決すると、サンチェス首相は5日に国会の解散を表明した。3日には全国50を超える都市で住宅デモがあり、マドリードの参加者は政府代表部の初期推計で7万人超、主催者発表で50万人に上った。

スペインでは、この不満の多くが労組などの呼びかける動員の形をとっている。11月11日の全国ゼネストは、二大労組の労働者委員会(CCOO)と労働者総同盟(UGT)を含む8団体が10月19日に労働省へ届け出た。賃上げや労働時間の短縮、住宅投機の抑制を求めている。11月29日の総選挙では、公共放送RTVEの世論調査の平均で、国民党(PP)とVoxが合わせて200議席と、過半数の176を上回る。

スペインでも衝突は起きている

スペインに暴動がないわけではない。近年の主な例と、2026年10月の主な衝突は次のとおり。

時期・場所きっかけと規模
2019年10月、カタルーニャ独立派指導者への最高裁判決の後。1週間で194人を拘束、負傷約600人(うち警察官288人)
2021年2月、カタルーニャなどラッパーのパブロ・アセル氏の収監の後。カタルーニャでは27日までに137人を拘束
2025年7月、ムルシア州トーレ・パチェコ住民への暴行事件の後の騒乱(RTVEは「人種差別的な騒乱」と報道)。700人の身元を確認、140人を告発、10人を拘束
2026年10月3日、バレンシア不動産投資の会議の会場前で住宅をめぐる抗議が衝突に。少なくとも5人を逮捕、警察官9人が負傷
2026年10月5日、バルセロナ住宅デモの解散後に騒乱。13人を逮捕、州警察官30人が軽傷、バリケード28か所
2026年10月21日、ア・コルーニャVoxの党首の来訪への抗議が衝突に。3人を逮捕、警察官約12人が負傷

規模を比べると、フランスの17日の拘束者2,397人に対し、スペインの最近の衝突は1件あたり十数人以下の逮捕にとどまる。2019年のカタルーニャの騒乱も、1週間で194人だった。ただ、表の10月の3件は、いずれも住宅をめぐる抗議やデモの終わり、Voxの党首の来訪への抗議の場で起きている。組織された動員だからといって、衝突が起きないわけではない。経営者団体CEOEのアントニオ・ガラメンディ会長は19日、ゼネストを選挙目当てだと批判した際に「勝てなくても、街に火を付けないでほしい」と述べた。CEOEは22日にゼネストへの提訴を断念した。RTVEによると、CEOEの関係者はストが平和的に行われることを望むとしている。

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違いはどこにあるか、反対の見方は

当サイトが材料を整理すると、両国の違いとして次の三つが挙げられる。一つ目は権力の集まり方だ。米ジョージタウン大学のパウリーナ・パタナ助教は、フランスは行政府に強い権限が集まる半大統領制で、不満の標的がはっきりしやすいと指摘する。スペインは議院内閣制で、5週間後には総選挙がある。二つ目は動員の形だ。フランスの17日の行動はSNSの呼びかけから広がり、単一の主催団体がなかった(直前に一部の労組や政党が行進を届け出て、パリでは労組も合流した)。スペインの住宅への不満は、労組や借家人組合が呼びかけ、届け出たデモやストに集まっている。三つ目は家族の支えで、EU統計局によると、親元を離れる平均年齢はスペインが30.2歳、フランスは23.8歳だ。ただし、これらが暴動を防ぐと直接示した研究は、今回の調べでは見つからなかった。

移民の住まい方の違いを挙げる見方もある。2023年にパリ郊外で17歳の少年が警察官に撃たれて死亡し、暴動が起きた際、社会学者のビクトル・レノベル氏(国際ラ・リオハ大学)は、スペインでは移民が家賃の安い地区でスペイン人の低所得層と混ざって暮らしてきたと論じた。ただ、今回のフランスの抗議の発端は、2005年や2023年のような警察が関わった若者の死ではなく、学校の環境や生活費への不満だった。その点で、この違いだけでは今回の比較の答えにならない。

共通点を強調する見方もある。パタナ助教自身も、フランスとスペインの運動は住宅と教育、つまり機会をめぐる不満でつながっていると述べている。IE大学のビセンテ・バレンティン助教は、欧州各地の抗議に共通する背景として、格差の大きさと、教育や住宅のように市民生活の柱とされてきた権利に手が届かないことへの不満を挙げ、抗議は何か月も続く可能性があるとみる。元カタルーニャ州政府高官のラモン=ジョルディ・モレス・プラザ氏は、住宅にもまともな仕事にも手が届かない若い世代に何が起きうるか、注意すべきだと寄稿している。若者の失業率の高さと住宅の手の届きやすさの悪化は、数字の上ではスペインの方が深刻だ。

日本の読者への解説

「スペインもフランスのようになるか」という問いには、財政と暮らしの二つの面から答える必要がある。財政の面では、スペインはフランスよりはっきり余裕がある。赤字も債務も減り、成長率はユーロ圏の平均を上回る見通しで、燃料の減税のように生活費の不満を和らげる手も打てている。XTBの分析によれば、フランスは、歳出を削れば抗議が強まり、確かな財源のないまま支援を増やせば借金が増えて国債の利回りがさらに上がりかねないという板挟みにある。

暮らしの面では、スペインの方が苦しい部分もある。住宅価格は賃金の伸びをはるかに上回り、物価上昇率も若者の失業率もフランスより高い。今のところ不満の多くは、労組などが呼びかける届け出済みのデモやストと、目前の総選挙に向かっている。全国規模の暴動に広がる兆しは見えないが、10月には大きなデモの終わりや政党の党首の来訪への抗議の場などで小規模な衝突が続いており、衝突がまったく起きないわけではない。

スペインに住む人や旅行する人にとっての目安は、11月11日の全国ゼネストと、11月29日の総選挙の前後だ。ゼネストの日は交通が大きく乱れる可能性がある。大きなデモの解散後に騒ぎが起きた例もあるので、デモの場所や時間帯には近づかないようにしたい。

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