スペインの2026年の山火事は、すでに例年をはるかに超える規模になっている。政府が7月30日に示した焼失面積は約18万ヘクタール。別の集計では20万7,000ヘクタールを超え、これは過去10年の平均の約4倍にあたる。500ヘクタール以上を焼く「大規模火災」は年初からの7か月で38件を数えた。避難または屋内退避の対象となった人は11万6,000人を超え、マドリード、アビラ、カステジョンに集中している。そして構造的な問題として指摘されているのが、大規模な森林のすぐそばに住む人の多さである。ある分析によれば、スペインでは850万人が「都市林野接続域」と呼ばれる、森林に極めて近い場所で暮らしている。人口の2割近い。8月2日時点でもカセレス県グリマルドで消火活動が続き、カスティーリャ・イ・レオンでは警戒が維持されている。消火航空隊の隊長は「システムは限界にある。人が足りない」と述べた。一方で猛暑のピークは過ぎ、天候の転換が近いとされる。本稿では今年の数字を整理し、なぜこれほど燃えるのか、そして在住者が何を確認すべきかを扱う。

2026年の数字

集計主体と時点によって数字に幅があるため、併記する。

スペイン政府が7月30日に公表した焼失面積は約18万ヘクタール。同じ時期の別集計では20万7,000ヘクタールを超えるとされ、こちらは過去10年平均の約4倍という評価が付されている。さらに別の集計では18万6,000ヘクタール超という数字も出ている。

いずれの数字を取っても、平年を大きく上回る点は共通している。18万ヘクタールは1,800平方キロメートルで、東京都の面積のおよそ8割にあたる。

大規模火災は38件。スペインでは500ヘクタールを超える火災をこう呼ぶ。7か月で38件というのは、およそ5日に1件の頻度で500ヘクタール級が発生している計算になる。

人的影響では、11万6,000人以上が避難または屋内退避の対象となった。地域はマドリード、アビラ、カステジョンが中心である。

焼けた土地の性質も指摘されている。牧草地、デエサ(樫の疎林と放牧を組み合わせた伝統的な土地利用)、樹脂採取用の松林、そして穀物畑。生態的価値と生産的価値の高い土地が失われている。

850万人が森のすぐそばに住んでいる

今年の報道で繰り返し取り上げられているのが、この数字である。

ある分析によれば、スペインでは約850万人が大規模な森林のごく近くに居住している。この状態は「都市林野接続域(interfaz urbano-forestal)」と呼ばれ、火災リスクを構造的に高める要因とされる。

なぜリスクが上がるのか。理由は二方向にある。ひとつは、住宅地が森に接していると、森林火災がそのまま住宅火災になること。もうひとつは逆で、人間活動が火の出発点になることだ。スペインの山火事の大半は自然発火ではなく人為的な原因によるもので、住宅地が森に食い込むほど着火点が増える。

加えて、消火の難易度が上がる。無人の森なら燃えるに任せて防火帯で止めるという選択も取りうるが、住宅があればそれはできない。人命を守るために消火資源を割く必要が生じ、結果として他の前線が手薄になる。

「大規模火災」という単位

スペインの火災統計を読むうえで押さえておくべき区分がある。

500ヘクタール以上を焼いたものを大規模火災(gran incendio forestal)と呼ぶ。500ヘクタールは5平方キロメートルで、山手線の内側のおよそ8分の1にあたる。これが38件発生した。

問題は件数そのものより、面積の集中である。年間に発生する火災の件数で言えば大規模火災はごく一部にすぎないが、焼失面積では大半を占める。今年の場合、18万ヘクタールのうち相当部分をこの38件が生んでいる。小さな火災が数多く起きているのではなく、少数の火災が桁違いに大きく燃えている。

この傾向は近年一貫して指摘されており、専門家は「第六世代の火災」という言い方をする。従来の消火体制が想定していた規模と速度を超え、自ら気象を作り出すほどのエネルギーで進む火災を指す。積乱雲を発生させ、その下降気流が予測不能な方向へ火を飛ばす。人員と機材を増やしても正面から止められないため、発生前の燃料管理が唯一の対処だという議論につながっている。

なぜこれほど燃えるのか

単一の原因ではない。

気象条件としては、今夏の熱波が挙げられる。高温が続けば植生の含水率が下がり、着火しやすく燃え広がりやすくなる。ただし8月2日時点では熱波は終わりつつあり、天候の転換が近いとされる。バレンシア内陸部では大粒の雹を伴う嵐も観測された。

より構造的な要因として指摘されるのが、農村の過疎化である。かつては家畜が下草を食べ、住民が薪を採り、農地が森を分断していた。人が減れば森は連続し、燃料となる下草と枯れ枝が蓄積する。火がついたときに止めるものがない状態が広がっている。

そして消火体制の逼迫がある。消火航空隊のパイロット隊長は「システムは限界にある。人が足りない」と述べている。同時多発的に大規模火災が起きれば、機材も人員も奪い合いになる。

いま燃えている場所

8月2日時点の状況を整理する。

カセレス県グリマルドで消火チームが活動を継続している。カスティーリャ・イ・レオンでは高温による極めて高い危険度が維持され、警戒が解かれていない。避難と屋内退避の対象が集中しているのはマドリード、アビラ、カステジョンである。

気象面では転換が近い。熱波は終わりつつあり、今後数時間で天候が変わるとされる。実際、バレンシア内陸部では複数の雷雨が発生し、大粒の雹が降った。

ただし気温が下がることは、そのまま危険の解消を意味しない。雷は新たな着火源になりうるし、突風は火勢を予測困難にする。乾ききった植生の含水率は、一度の雨では戻らない。

交通面では、道路交通局(DGT)が夏季特別体制の第二期を8月2日深夜で終了する。この期間に想定された移動は560万件だった。火災による通行止めはこの交通量の中で発生している。

在住者が確認すべきこと

実務的な話に移る。

自分の居住地の警戒レベルを知る。各自治州が火災危険度を発表しており、レベルに応じて入山規制、火気使用の禁止、農作業の制限などが課される。夏季は多くの地域で野外での火の使用が全面的に禁止される。バーベキューや草刈り機の使用が禁止対象に入ることもある。違反には罰金が科される。

避難情報の受け取り経路を確認する。緊急時の情報は自治州の緊急サービス(112)と各自治体から発信される。多くの自治州が携帯電話への緊急速報(ES-Alert)を導入している。スペインの携帯番号を持っていれば自動的に届くが、通知設定を切っていると受け取れない。

住宅が森に接している場合。建物の周囲の可燃物を除去することが、延焼を止める最も基本的な対策とされる。落ち葉、枯れ枝、屋外に積んだ薪、建物に接した樹木。自治体によっては敷地内の草木の管理が所有者の義務として定められている。

旅行や移動の予定がある場合。火災による道路の通行止めは頻繁に発生する。内陸部を車で移動する予定があるなら、当日の交通情報(DGT)を確認したい。なお8月12日の皆既日食で内陸部の観測地を検討している人は、入山規制の対象になっていないかを事前に確認する必要がある。

日本の読者への解説

日本の感覚では山火事は限定的な災害だが、スペインでは毎年の主要な災害である。両国の違いは主に三つある。

第一に気候。地中海性気候は夏に雨がほとんど降らない。6月から9月にかけて植生は乾ききる。日本の夏は高温多湿で、雨も降る。同じ「猛暑」でも、植物の含水率という点でまったく別の状態になる。

第二に植生。松やユーカリなど油分を含み燃えやすい樹種が広く分布している。ユーカリは製紙用に植林された外来種で、成長が速い一方で火に強く、燃えた後も再生して優占するため、火災サイクルを加速させると批判されている。

第三に土地の使われ方。前述の過疎化に加え、放牧の減少が下草の蓄積を招いている。日本の里山も同様の問題を抱えているが、湿潤な気候がそれを火災という形では顕在化させにくくしている。

旅行者として知っておくべきことは限られるが、ひとつある。夏のスペインで内陸部の自然を訪れる場合、火気の使用は原則として禁止されていると考えたほうがよい。喫煙も場所によっては規制される。悪意がなくとも、投げ捨てた吸い殻ひとつが大規模火災の起点になりうる。11万6,000人が家を離れた今年の状況は、その延長線上にある。

もうひとつ、日本と比較して見えることがある。スペインの山火事の多くが人為的な原因によるものだという点は、しばしば「放火が多い」と要約されて伝わるが、正確ではない。故意の放火も存在する一方で、農地の野焼きの延焼、機械の火花、送電線、不始末といった過失が大きな比重を占める。悪意ある少数の問題として片付けると、対策の焦点がずれる。

そして構造の問題に戻る。850万人が森のすぐ隣に住んでいるという状態は、一夏の対策で変えられるものではない。過疎化によって森が連続し、燃料が蓄積し、その縁に住宅が張り付いている。消火の人員を増やす議論と並行して、燃える前に燃料を減らす議論、つまり放牧や林業や計画的な火入れをどう再建するかという話が出てくるのはこのためである。日本の里山が抱える問題と根は近い。違いは、地中海性気候がそれを毎年の火災として顕在化させることだ。

本稿の数字は8月2日時点で公表されているものである。焼失面積は集計主体によって18万から20万7,000ヘクタールまで幅があるため、機関名を付して併記した。この幅は火災が継続中であることの反映でもあり、確定値は季節が終わってから出る。数字は今後も動く。

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