マドリード州西部、アビラ県、トレド県にまたがって燃え続けている森林火災が、スペインの火災史上でも例のない規模に達している。7月24日金曜、マドリード州西部で別々に燃えていた複数の火災が一つにつながり、同日未明には政府が国家非常事態を宣言した。7月28日火曜時点で、この三県にまたがる焼失面積は約8万ヘクタールに達し、避難した人が約6万3,000人、自宅からの外出を禁じられて屋内退避している人が約2万8,000人、合わせて9万1,000人以上が影響を受けている。火災の内訳はアビラが約5万ヘクタールで最大、マドリードが約3万4,000ヘクタール、これに東部カステリョン県の約8,500ヘクタールの火災が加わる。年初から7月28日までにスペイン全土で焼けた面積は17万3,650ヘクタールに達したと報じられており、これは前年同期の約3万ヘクタールの6倍近い数字である。大規模火災の件数も今年は35件を数え、前年同期の7件を大幅に上回る。現時点でマドリード・アビラの緊急事態による死者は報告されていないが、消火は遅々として進まず、7月29日からは新たな熱波の到来が予報されており、危険度は再び極端なレベルへ引き上げられる見通しだ。本稿では、7月28日時点で確定している事実と、在住者・旅行者が取るべき行動を整理する。

三つの県にまたがる一つの巨大火災

今回の事態を理解する鍵は、複数の火災が合体して制御不能の規模に達したという経緯にある。マドリード州西部のシエラ・オエステ地域で発生した火災は、7月24日金曜に隣接する火災と一体化し、アビラ県側へ、さらにトレド県北部へと燃え広がった。スペインの消防当局が「消火能力を超えている」と表現する段階に入り、政府は国家非常事態の宣言に踏み切った。これは緊急事態の指揮権を中央政府が引き取る最も重い区分であり、州単位の対応では手に負えないと判断されたことを意味する。

7月28日時点で投入されている人員は約3,000人。消防隊員、軍の緊急対応部隊であるUME、森林監視員などが含まれる。地上と空中を合わせた資機材は約1,000点にのぼる。マドリード州だけでも消防隊員約300人、車両50台、ヘリコプター8機が展開している。さらに国際的な支援も入っており、セルビアからヘリコプター1機、トルコ、ギリシャ、イタリア、ポルトガルから消火用航空機が派遣されている。EUの市民保護メカニズムを通じた越境支援が、この夏のスペインで現実に機能している形だ。

それでも進捗は鈍い。フェルナンド・グランデ・マルラスカ内相は7月28日、「緊急事態は統制下にある」としつつ、気象条件が厳しく前進は「ゆっくりだ」と認めた。夜間の消火活動の成果を受けて、この日は「少し落ち着いていられる」との見通しも示している。一方でマドリード州のイサベル・ディアス・アユソ州首相は、失われた自然と文化的財産の規模から「スペイン史上最大の自然災害」という表現を用いた。

9万1,000人の内訳が意味するもの

影響を受けた9万1,000人という数字は、性質の異なる二つの状態を合算したものである。約6万3,000人は自宅を離れて避難した人々であり、約2万8,000人は自宅にとどまったまま外出を禁じられている屋内退避の状態にある。スペインでは後者をconfinamientoと呼び、煙と有毒ガスの吸入を避けるために窓を閉め、屋内に留まるよう指示される。避難所へ移動させるより屋内退避のほうが安全な場合、あるいは避難経路そのものが火と煙に脅かされている場合に選択される措置だ。

避難対象となった自治体は三県で39にのぼった。ただし状況は日々動いている。7月28日、内務省はトレド県で避難対象となっていた11自治体のうち9自治体について住民の帰宅を認めた。帰宅が許可されたのは、ブエナベントゥーラ、ナバモルクエンデ、レアル・デ・サン・ビセンテ、イノホサ・デ・サン・ビセンテ、カスティージョ・デ・バユエラ、ガルシオトゥン、ヌニョゴメス、ペラウスタン、アルメンドラル・デ・ラ・カニャーダの各自治体である。一方、ラ・イグレスエラとサルタハダの2自治体は引き続き避難対象のままとされた。

道路網への影響も大きい。7月28日時点で47の道路が通行止めとなっており、内訳はアビラ県16、トレド県14、マドリード州13、カステリョン県8である。マドリード州の地域道路網だけで178キロメートルが影響を受けている。これらの数字は消火の進展と風向きによって時間単位で変動するため、移動する場合は必ず当日の最新情報を確認する必要がある。

なぜ今年これほど燃えるのか

17万3,650ヘクタールという年初来の焼失面積は、前年同期の約6倍にあたる。大規模火災の件数も35件と、前年同期の7件から5倍に膨らんだ。なお、7月26日時点で環境移行省のサラ・アーヘセン大臣が示した数字は13万1,113ヘクタール・32件であり、集計時点と方法によって公表値には差がある。いずれにせよ、2026年がスペインにとって記録的な火災年となっていることに議論の余地はない。

背景として指摘されているのは、複数の要因の重なりである。今年のスペインは6月から断続的に熱波に見舞われ、7月に入ってからも高温が続いた。長期の乾燥によって森林の可燃物は極度に乾き切り、着火すれば一気に燃え広がる状態にあった。さらに、地方の過疎化によって放棄された農地や手入れの行き届かない山林が増え、かつては農業や牧畜が担っていた自然の防火帯が失われている。都市周辺部に住宅地が森林と隣接して広がる構造も、火災が人命に直結する条件を作り出している。

今回の火災の出火原因については、いずれも捜査が続いている段階だ。カステリョン県バル・ドゥシショの火災については、自然発火の兆候は確認されていないとされている。ここから先の断定は避けるべきで、原因の公式発表を待つ必要がある。

7月29日からの熱波という次の関門

7月28日時点で最大の懸念材料は、翌29日から始まると予報されている新たな熱波である。気温の上昇と湿度の低下は、火災の危険度を再び極端なレベルへ押し上げる。加えて時速30キロメートルに達する風が、消火活動を難しくしている。火災現場では、いったん鎮圧されたように見える区域でも、風と高温によって再燃が起こりうる。

この夏のスペインではすでに、7月9日にアルメリア県ロス・ガジャルドス周辺で発生した火災で12人が犠牲になっている。あの火災は、規模そのものよりも避難の失敗が犠牲を生んだ事例だった。今回のマドリード・アビラ・トレドの火災で現時点まで死者が出ていないのは、9万人規模の避難と屋内退避を早い段階で実施したことが大きい。ただし、熱波の再来という条件下では、これまで機能してきた対応が同じように機能する保証はない。

政府の支援策と、被災者が使える制度

7月28日の閣議では、火災の影響を受けた労働者を支援する勅令が承認された。また、被災地域を「緊急事態により重大な影響を受けた地域」に指定する手続きも進められている。この指定は、被災者への直接支援、税や社会保険料の減免、インフラ復旧の予算措置を発動させる法的な入り口となるものだ。マドリード州も独自に、住宅、家賃、再建に関する支援を発表している。

住宅や家財に被害を受けた場合には、スペイン特有の公的な救済の仕組みがある。火災保険や住宅総合保険に加入してさえいれば、異常災害による損害は保険補償コンソーシアム(Consorcio de Compensación de Seguros)を通じて補償される制度だ。個別の契約に災害特約を付けていなくても対象になる。まずは加入している保険会社に連絡するのが第一歩となる。

在住者と旅行者が今すべきこと

影響地域への不要な移動を避ける。マドリード州西部、アビラ県、トレド県北部の山間部は、この夏の観光ルートとしては当面選ぶべきではない。通行止めが多数あり、消火活動の妨げにもなる。

ES-Alertを無視しない。スペインでは携帯電話に強制的に配信される緊急警報システムが運用されている。大音量で鳴る警報が届いたら、内容を必ず読む。避難指示か屋内退避指示かで取るべき行動が正反対になる。

屋内退避を指示されたら窓を閉める。confinamientoの指示が出た場合、外に出ないこと、窓と換気口を閉じること、エアコンの外気導入を止めることが基本になる。煙は数十キロ離れた場所まで届く。

緊急連絡は112。多言語通訳が入るため、スペイン語ができなくても通報できる。マドリード州の火災情報は州の公式サイト(comunidad.madrid)でも随時更新されている。

火の元になりうる行為を徹底的に避ける。屋外での喫煙、バーベキュー、草地への車両の乗り入れはいずれも発火源になる。多くの自治体で罰則付きの禁止措置が出ている。

日本の読者への解説

日本で森林火災といえば、2025年に岩手県大船渡市で発生した大規模林野火災が記憶に新しい。あの火災でも数千人規模の避難が行われ、日本の林野火災としては近年最大級と報じられた。しかし今回スペインで起きている事象は、桁が違う。マドリード・アビラ・トレドの三県だけで約8万ヘクタール、日本の面積に置き換えれば東京23区の総面積(約62,000ヘクタール)を上回る範囲が焼けている計算になる。

この差を生んでいるのは、気候と土地利用の構造である。スペイン内陸部は夏に雨がほとんど降らず、地中海性気候特有の乾季が2、3か月続く。マツやユーカリ、低木の灌木林は油分を含み、燃料としての性質が高い。そこへ40度を超える気温と乾いた風が加わると、火は人が走るより速く斜面を駆け上がる。日本の森林は湿潤で、同じ着火が同じ結果を生まない。

もう一つ、日本の読者に伝えておきたいのは、スペインが今年、火災を「災害」ではなく「常態」として扱い始めているという点だ。elDiario.esは今夏の一連の火災を報じるなかで、村ごと避難させる事態が新しい日常になりつつあるにもかかわらず、社会がその備えをできていないと指摘している。過疎化で山の手入れが止まり、気候変動で乾燥が進み、住宅地が森に食い込んでいく。この三つが重なった土地では、火は自然現象ではなく都市計画の問題になる。日本でも地方の過疎化と山林の放棄は進んでおり、条件がそろえば同じ構図が生まれうる。スペインの今年の夏は、遠い国の異常気象のニュースであると同時に、土地の使い方が災害の規模を決めるという普遍的な教訓を含んでいる。

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