欧州中央銀行(ECB)の参照レートで、7月30日の1ユーロは186.99円だった。ユーロ導入以来の最高値である4月17日の187.72円まで、残り0.73円、率にして0.4%に迫っている。7月は2日の184.19円からほぼ一本調子で2円80銭上昇した。1年前の同じ日は170.96円だったから、対前年で9.4%の円安ユーロ高だ。そして同じ7月30日、スペイン国家統計局(INE)は7月の消費者物価指数(IPC)先行指標が年率3.5%上昇したと発表した。6月から0.3ポイントの加速である。円建ての収入や貯蓄でスペインの支払いをしている人にとって、この二つは掛け算で効く。本紙の試算では、同じ暮らしを維持する費用は円換算で1年前より13%前後増えている。相場そのものは個人に動かせないが、円をユーロに換える段階と、現地で決済する段階には、まだ自分で削れるコストが残っている。以下、現在地の数字を確認したうえで、在住者が送金や両替の実効レートを測る方法と、旅行者が現地のカード決済で落とせる上乗せを順に整理する。なぜ円安が止まらないのかという相場そのものの背景は、7月5日の記事で扱った。

7月だけで2円80銭、史上最高値まで0.4%

まず現在地を正確に押さえる。ECBは営業日ごとにユーロの参照レートを公表しており、1999年1月4日から2026年7月30日までの7,060営業日分が公開されている。この全期間で1ユーロが最も高かったのは2026年4月17日の187.72円だ。上位8日のうち7日が今年4月に集中し、7月30日の186.99円がその8番目に入った。つまり現在の水準は、瞬間的な高値ではなく、ユーロ導入以来の最も高い価格帯に腰を据えた状態にある。

過去との比較を並べると、水準の異常さがはっきりする。前回ユーロ高が話題になった2008年の最高値は7月23日の169.75円だった。現在はそれを10.2%上回っている。3年前の2023年7月31日は156.73円で19.3%、6年前の2020年7月30日は123.58円で51.3%の開きがある。6年前に1万円で81ユーロ買えた計算が、いまは53ユーロにしかならない。

年内の動きも見ておく。年初の1月2日は183.94円、年内の安値は2月17日の181.06円だった。そこから4月17日に187.72円まで駆け上がり、いったん落ち着いたあと、7月に入って再び高値圏へ戻ってきた形になる。7月の値動きは2日の184.19円を底に、23日186.23円、24日186.38円と刻み、27日から29日は186.3円前後で膠着したのち、30日に186.99円へ跳ねた。上昇幅そのものは月間1.5%と派手ではないが、下げらしい下げがないまま高値を切り上げ続けている点が、生活者の体感を「止まらない」ものにしている。

円安と物価高の掛け算 ― 円で見た生活費は1年で13%増えた

スペインで暮らす側にとって厄介なのは、円安だけが進んでいるのではないことだ。INEが7月30日に公表した7月のIPC先行指標は年率3.5%の上昇で、6月から0.3ポイント加速した。コアインフレ(subyacente)も3.0%へ0.1ポイント上がり、EU基準で比較するIPCAは3.8%だった。前月比では0.2%の上昇である。INEはこの再加速の理由として、燃料と電気が昨年同月より値上がりしたことを挙げている。なお、これは先行指標であり、確定値は翌月に公表される。

ここから先は本紙の試算になる。円建ての収入でスペインの生活費をまかなう人にとって、負担増は「為替の変化率」と「物価の変化率」の掛け算に近い形で表れる。為替が9.4%、物価が3.5%動いたなら、1.094×1.035で約13.2%。同じ生活水準を維持するために必要な円が、1年で13%前後増えたことになる。

具体的な金額に落とすとこうなる。家賃や食費を含めて月1,000ユーロで暮らしていた人がいるとする。1年前の170.96円なら170,960円だった。同じ1,000ユーロを今日そろえるだけで186,990円かかる。為替だけで月16,030円の増加だ。さらに物価が3.5%上がっているので、去年と同じ買い物をするには1,035ユーロが必要になる。これを今日のレートで払うと193,535円。1年前との差は月22,575円、年間では27万円強に膨らむ。

年金や仕送り、日本の会社からの報酬など、収入が円で固定されている人ほどこの直撃を受ける。逆にユーロ建ての給与で暮らし、日本へ送金する側から見れば同じ数字が追い風になる。どちらの立場かで意味が正反対になるため、自分がどちらの向きで為替にさらされているかを一度整理しておく価値がある。

実効レートを中値と比べる ― 両替コストの測り方

相場は動かせないが、円をユーロに換えるときに何%抜かれているかは自分で測れる。基準になるのは「中値」と呼ばれる、売り値と買い値の中間にあたるレートだ。ECBの参照レートや、金融情報サービスが表示する為替レートはおおむねこれにあたる。7月30日なら186.99円である。

測り方は単純だ。実際に手元のユーロを得るために支払った円を、受け取ったユーロで割る。それが自分の実効レートになる。中値との差を中値で割れば、コスト率が出る。たとえば1,000ユーロを用意するのに理論値は186,990円だが、実際に193,000円かかったなら、差は6,010円で、コスト率は3.2%ということになる。

この計算を一度やっておくと、表示に惑わされにくくなる。「手数料無料」とうたっていても、提示されるレート自体が中値から離れていれば、その差額が実質的な手数料になっている。逆に手数料を明示して差し引く方式なら、中値に近いレートで計算されているぶん、合計では安く済むことがある。どちらが得かは、実効レートを出して初めて比較できる。

この「中値からの上乗せ率で測る」という考え方は、EU側の規制でも採用されている。EU規則2019/518は、ATMや店頭で外貨換算サービスを提供する事業者に対し、換算手数料の総額をECBの最新参照レートに対するマークアップ率として表示し、決済を始める前に利用者へ開示することを義務づけた。同規則は2019年4月18日に発効し、条項ごとに2019年12月15日から2021年4月19日にかけて段階的に適用されている。つまりスペインで外貨換算を持ちかけられる場面では、比較に必要な数字が制度上その場で出てくる。

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旅行者が現地で削れる三つのコスト

スペインを訪れる側は、滞在が短いぶん為替そのものへの対策はとりにくい。一方で、現地の決済でかかる上乗せは出発前と支払いの瞬間に選べる。

第一に、支払い通貨はユーロを選ぶ。カード決済や現地ATMで「日本円で決済しますか」と聞かれることがある。これはDCC(ダイナミック・カレンシー・コンバージョン)と呼ばれるサービスで、その場で円に換算してくれる代わりに換算手数料が上乗せされる。前述のEU規則により、事業者はECB参照レートに対する上乗せ率を決済前に開示しなければならない。表示された率を見て、自分のカードの海外事務手数料と比べれば、どちらが安いか判断できる。判断材料がないまま反射的に円を選ぶのが最も避けたい行動になる。

第二に、カードの海外事務手数料を出発前に確認する。これは近年かなり動いている項目だ。オリコカードは2025年に、それまで1.60%だったJCBブランドの海外事務手数料を、VisaやMastercardと同じ3.85%へ引き上げると発表した(トライシー2025年9月18日報道、適用は同年10月下旬から11月中)。同種の引き上げは他社でも相次いでおり、かつて2%前後が一般的だった率が3%台後半になっているカードがある。数字で見ると差は小さくない。100ユーロの決済は今日のレートで18,699円だが、事務手数料3.85%が乗ると19,419円になる。1回の食事あたり720円の差で、これが滞在中の決済すべてに掛かる。自分が持っていくカードの現在の率は、カード会社の公式ページで確認しておきたい。改定の告知は静かに行われることが多く、以前調べた記憶のままだと外れている可能性がある。

第三に、現金は必要最小限にとどめる。空港や観光地の両替所が提示するレートは中値から離れやすく、ATMでの引き出しにもカード会社の手数料に加えてATM運営会社の手数料が乗ることがある。スペインの都市部はカード決済がよく普及しており、小額でもカードが使える場面は多い。市場や一部のバルなど現金しか使えない店に備える分だけを持ち、残りはカードで回すほうが、結果として上乗せの総額を抑えやすい。

100ユーロはいまいくらか

7月30日のECB参照レート186.99円で換算した早見表を置いておく。括弧内は1年前の同じ日(170.96円)との差額である。

10ユーロは1,870円(プラス160円)。50ユーロは9,350円(プラス802円)。100ユーロは18,699円(プラス1,603円)。500ユーロは93,495円(プラス8,015円)。1,000ユーロは186,990円(プラス16,030円)。

1週間の旅行で現地支出が1,000ユーロ程度なら、去年の同じ旅程より16,000円ほど多く円が必要になる計算だ。ここにカードの海外事務手数料が乗る。仮に3.85%なら、さらに7,200円が上積みされる。宿泊費や航空券をあらかじめ円建てで払っていても、現地で使う分にはこの差が効いてくる。

これから何を見るか

当面の分岐点は、4月17日の187.72円を上抜けるかどうかになる。7月30日時点で残り0.73円まで来ており、更新すればユーロ導入以来の最高値ということになる。スペイン側では、7月のIPCが先行指標の3.5%のまま確定するかが次の確認点だ。INEは確定値を翌月に公表する。

日本側の要因、すなわち通貨当局の介入や日銀の金利政策がこの相場にどう作用しているかについては、7月5日の記事で詳しく扱った。介入の弾がどれだけ残っているのか、なぜ11兆円を投じても流れが変わらなかったのかを知りたい読者はそちらを参照してほしい。本稿で扱った実効レートの測り方と決済時の選択は、相場がどちらに動いても効き続ける部分にあたる。

日本の読者への解説

日本から見ると、この数字はヨーロッパ旅行の設計そのものに関わる。1ユーロ187円という水準は、2020年に旅行を計画した人の記憶にある123円台から5割増しであり、当時と同じ旅程を組めば現地支出は単純に1.5倍になる。旅行会社のパンフレットに載る円建てのツアー価格は為替を織り込んで改定されるため上昇が目に見えやすいが、現地で自分が使う食事代や交通費は、出発時のレートを確認しない限り帰国後の請求で初めて実感することになりやすい。

実務的には、出発前にやることは二つに絞られる。持っていくカードの海外事務手数料を公式ページで確認すること、そして現地で「日本円で払いますか」と聞かれたらユーロを選ぶと決めておくことだ。前者は2024年から2025年にかけて各社が相次いで引き上げており、手持ちのカードが以前と同じ率とは限らない。後者はEU規則で上乗せ率が事前に開示されるため、その場で比較できる。どちらも数分で終わる確認だが、滞在中のすべての決済に効くという点で、為替の予想を当てるより確実に手取りを守る。

なお本稿の為替はECBが公表する参照レートで、営業日ごとに一度公表される基準値である。銀行や送金サービスが実際に提示するレートはこれとは異なり、上乗せが含まれる。比較の物差しとして使うのが正しい使い方で、この値そのもので両替できるわけではない点は補足しておく。

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