4年に一度の祭典が、史上最大の規模で帰ってきた。FIFAワールドカップ2026が6月11日(現地時間)に開幕した。今大会から出場国は32から48に拡大し、アメリカ・カナダ・メキシコの3カ国共催という初の試みのもと、全104試合が約5週間にわたって北米大陸で繰り広げられる。
そして、ブックメーカーのオッズでも専門家の下馬評でも、フランスとともに「優勝候補筆頭」に挙げられているのがスペインだ。初戦は6月15日のカーボベルデ戦(日本時間16日午前1時、NHK総合で生中継)。本稿では、その前に知っておきたいスペイン代表の現在地を、現地からの視点でまとめて整理する。
33試合無敗 ― 数字が語る「最強」の根拠
スペインを優勝候補筆頭に押し上げているのは、雰囲気ではなく実績だ。2024年夏のEURO(欧州選手権)では全勝で優勝。同じ夏のパリ五輪でも金メダルを獲得し、世代を問わず欧州の頂点に立った。競技公式戦に限れば、スペインが最後に敗れたのは2023年3月のスコットランド戦までさかのぼる。以来、実に33試合無敗。FIFAランキングは2位で、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督のもと、結果と内容の両方を静かに積み上げてきた。
チームの背骨は、世界最高峰と断言できる中盤だ。2024年のバロンドール受賞者ロドリ(マンチェスター・シティ)を軸に、ペドリ、ファビアン・ルイス、スビメンディ、メリノと、ボールを支配するための人材が二重三重に揃う。「ボールを持ったら奪えない」というスペインの伝統に、この数年は縦への速さと決定力が加わった。EURO制覇がまぐれでなかったことは、その後の2年間が証明している。
史上初の「レアル・マドリー選出ゼロ」
5月25日に発表された26人の登録メンバーは、スペイン国内に小さくない衝撃を与えた。レアル・マドリードの所属選手が、ひとりもいないのだ。スペイン紙マルカによれば、ワールドカップに臨むスペイン代表にレアルの選手が不在となるのは史上初。長年代表の右サイドバックを務めてきたカルバハルも選外となった。
とはいえ、これは「クラブと協会の対立」といった政治的な話ではない。今季のレアルが結果を残せなかったことの、ごく単純な帰結だ。シャビ・アロンソ監督はシーズン途中の1月に解任され、暫定体制のままリーグもカップも逃して無冠。混乱の収拾のためにクラブが呼び戻したのが、13年ぶりの復帰となるモウリーニョである(経緯はこちらの記事に詳しい)。
対照的に、リーガを連覇したバルセロナからは最多の8人が選ばれた。ヤマル、ペドリ、ガビ、クバルシ、エリック・ガルシア、フェラン・トーレス、ダニ・オルモ、そして正GK候補のジョアン・ガルシア。クラブの勢力図が、そのまま代表の構成に映し出された格好だ(バルセロナの連覇と黄金期についてはこちら)。
26人の顔ぶれ
メンバーの内訳は次のとおり。GKはダビド・ラヤ(アーセナル)、ジョアン・ガルシア(バルセロナ)、ウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)の3人。
DFはマルク・プビル(アトレティコ・マドリード)、アレックス・グリマルド(レバークーゼン)、エリック・ガルシア(バルセロナ)、マルコス・ジョレンテ(アトレティコ・マドリード)、ペドロ・ポロ(トッテナム)、エメリク・ラポルト(アスレティック・ビルバオ)、パウ・クバルシ(バルセロナ)、マルク・ククレジャ(チェルシー)の8人。
MFはミケル・メリノ(アーセナル)、ファビアン・ルイス(パリ・サンジェルマン)、ガビ(バルセロナ)、アレックス・バエナ(アトレティコ・マドリード)、ロドリ(マンチェスター・シティ)、マルティン・スビメンディ(アーセナル)、ペドリ(バルセロナ)の7人。
FWはフェラン・トーレス(バルセロナ)、ダニ・オルモ(バルセロナ)、ジェレミ・ピノ(クリスタル・パレス)、ニコ・ウィリアムス(アスレティック・ビルバオ)、ラミン・ヤマル(バルセロナ)、ミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)、ビクトル・ムニョス(オサスナ)、ボルハ・イグレシアス(セルタ)の8人。
ヤマル、クバルシ、ガビと続く「ラ・マシア」(バルセロナの下部組織)育ちの若い才能に、ロドリ、ラポルトらの経験値が同居する。久保建英のクラブメイトであるオヤルサバルは、EURO2024決勝で決勝点を挙げた男。地味だが、デ・ラ・フエンテの信頼が最も厚いストライカーだ。
ヤマル ― 負傷、そして「決勝6日前の19歳の誕生日」
不安材料もある。エースのラミン・ヤマルが、リーガ最終盤のセルタ戦で左ハムストリングを痛めた。現地報道では初戦のカーボベルデ戦は欠場が濃厚で、第2戦サウジアラビア戦への出場も微妙とされる。チームは決勝トーナメントから逆算し、慎重に復帰させる構えだ。
それでも、ヤマルが今大会最大のスターであることに変わりはない。今季はリーガで16得点を挙げ、アシスト数はリーグ最多。18歳にしてバルセロナ連覇の主役であり、「世界最高の選手」の座に最も近い男と評される(ヤマルがどんな選手なのかはこちらの記事で詳しく書いた)。
そして、運命めいた符合がひとつある。ヤマルの19歳の誕生日は7月13日 ― 決勝のわずか6日前だ。スペインが7月19日、ニューヨーク近郊のメットライフ・スタジアムでの決勝まで勝ち進めば、「19歳になったばかりの世界王者」が誕生することになる。
グループHの全日程 ― 日本での視聴ガイド
スペインはグループHに入り、カーボベルデ、サウジアラビア、ウルグアイと対戦する。日程は次のとおり(いずれも日本時間)。
第1戦 カーボベルデ戦:6月16日(火)午前1時キックオフ、アトランタ。NHK総合で生中継。カーボベルデは人口約50万人、大西洋の島国で、今大会がワールドカップ初出場となる。
第2戦 サウジアラビア戦:6月22日(月)午前1時キックオフ、アトランタ。こちらもNHK総合で生中継が予定されている。
第3戦 ウルグアイ戦:6月27日(土)朝キックオフ、グアダラハラ(メキシコ)。グループ最大の難敵との、首位攻防になる可能性が高い一戦だ。
大会全体では、NHK BSプレミアム4Kが全104試合を放送するほか、DAZNが全試合をライブ配信。地上波はNHK・日本テレビ・フジテレビが分担する。スペインの最初の2試合が「深夜1時キックオフ」というのは、日本のファンにはかなり優しい巡り合わせと言っていい。
日本代表と交わる日は来るか
日本はグループFで、オランダ、チュニジア、スウェーデンと対戦する。スペインとは別グループだが、双方が順当に勝ち上がれば、決勝トーナメントのどこかで道が交わる可能性がある。
「再び」と言うべきかもしれない。2022年カタール大会のグループステージで、日本はスペインを2-1で破っている。三笘薫の「1ミリ」が生んだあの逆転勝利は、スペインでも今なお語り草だ。当時の借りを返したいスペインと、再現を狙う日本 ― もし実現すれば、これ以上ない物語になる。
スペイン側から見ると、レアル・ソシエダで主力を張る久保建英は「よく知っている相手」でもある(久保の現在地と現地での評価はこちら)。対戦が決まれば、スペインのメディアが最初に名前を挙げるのは間違いなく久保だろう。
日本の読者への解説
最後に、今大会のスペインを楽しむための要点を3つにまとめたい。
1. スペインは「完成されたチーム」として大会に入る。33試合無敗、EURO王者、世界ランク2位。グループステージは言わば試運転で、本番は決勝トーナメントからだ。初戦にヤマルがいなくても慌てる必要はない。むしろ「誰が出ても同じサッカーができる」selección(セレクシオン=代表)の層の厚さに注目してほしい。
2. 見どころは「中盤の支配」と「両翼の爆発」。ロドリとペドリがボールを握り、左のニコ・ウィリアムス、右のヤマル(復帰後)が勝負を決める。EURO2024と同じ必勝パターンが、より成熟した形で見られるはずだ。
3. 「レアルの選手がいない代表」は、スペインサッカーの地殻変動の象徴。バルセロナの黄金期到来とレアルの混迷という今季の構図を、この26人のリストほど雄弁に物語るものはない。大会後にモウリーニョのレアルがどう巻き返すのか ― その視点で見ると、このW杯は来季リーガの「予告編」でもある。
スペイン在住者として付け加えるなら、こちらでは街のバルがすでにW杯モードに入っている。スペイン戦はこちらの夕方6時キックオフ、どの店もテレビの前から席が埋まっていく。日本とスペイン、7時間の時差を挟んで同じ試合に一喜一憂する、そんな夏が始まった。












