6月10日(水)の午前、バルセロナ中心部のバルメス通り(calle Balmes)で、男性が路上で銃撃され死亡した。この日のバルセロナは、教皇レオ14世の訪問のため市内中心部が厳重な警備下に置かれていた。カタルーニャ自治州警察モスズ・ダスクアドラ(Mossos d'Esquadra)は刑事捜査部(DIC)を投入して捜査を開始しており、現時点で「教皇訪問とは無関係」との見方を示している。本稿では、現地報道をもとに、いま分かっていることと分かっていないことを整理する。
何が起きたのか
事件が発生したのは午前9時50分ごろ。場所はバルメス通り192番地付近、グラシア横断通り(Travessera de Gràcia)との交差点にほど近い、サリア=サン・ジャルバジ地区の一角だ。すぐそばには国家警察の施設(DNIやパスポートを発行するオフィス)があり、平日の朝として人通りのある時間帯だった。
現地報道が伝える目撃証言によれば、犯人は背後から被害者に近づき、頭部を銃撃した。被害者はその場でほぼ即死状態だったとみられる。犯人は2発目を撃とうとしたものの、被害者がすでに倒れたのを確認すると、徒歩で現場を離れたという。逃走方向はサグラダ・ファミリア方面と報じられている。
犯人の特徴として、ベージュのポロシャツに自転車用ヘルメットという服装が報じられている。その後の捜索で、警察は近くのバス停に遺棄された自転車用ヘルメットの下から拳銃を発見し、犯人のものとみられる携帯電話も回収した。さらに、現場近くの警察施設の防犯カメラが犯行の瞬間を記録していたとされる。物証と映像の両面で手がかりが残されており、捜査の進展が注目される。
被害者の身元は、本稿執筆時点では公表されていない。背後から頭部を狙った犯行の手口から、捜査関係者の間では無差別な発砲ではなく、特定の人物を狙った「処刑型」の犯行との見立てが出ていると複数のメディアが伝えている。ただし、動機を含めて捜査は始まったばかりであり、確定した事実ではない点には留意が必要だ。
教皇訪問の厳戒下で起きた
この日、バルセロナは特別な一日だった。教皇レオ14世が市を訪問し、サグラダ・ファミリアでの行事が予定されていたためだ。教皇が乗る車両(パパモビル)の走行ルート周辺は封鎖され、市内には大規模な警備態勢が敷かれていた。文字どおり「街が固められていた」さなかに、白昼の路上で射殺事件が起きたことになる。
現地報道では、「これだけ警備が固められた街でこんなことが起きるとは信じられない」という市民の声も伝えられており、衝撃の大きさがうかがえる。一方で警察は、事件と教皇訪問との関連を否定している。発生場所は教皇の移動ルートからは外れており、現時点でテロや要人警護に関わる事案としては扱われていない。
相次ぐ銃撃事件との関係は
今回の事件がより大きな関心を集めている背景には、バルセロナでここ数週間、銃撃事件が相次いでいるという事情がある。直近では6月7日(日)に、市南西部のゾナ・フランカ地区で男性が射殺される事件が起きたばかりで、今回はわずか3日後の発生となった。さらに5月中旬にも、ゾナ・フランカの同じ通りで発砲事件が起きている。
ゾナ・フランカの事件について、モスズは薬物取引をめぐる報復の可能性を視野に捜査していると報じられている。ただし、モスズは今回のバルメス通りの事件とゾナ・フランカの一連の事件を、現時点では切り離して捜査しているという。短期間に銃撃が続いたことは事実だが、同一の対立構図によるものかどうかは確認されておらず、「連続殺人」「抗争の連鎖」と断定できる段階にはない。
とはいえ、人口160万人の都市で3週間あまりの間に複数の射殺・発砲事件が起きるのは、スペインの感覚では明らかに異例だ。スペインは銃規制が厳しく、銃による殺人は年間でも限られた件数にとどまる。地元メディアが「治安の転機なのか」という問いを立て始めているのは、この異例さゆえである。
捜査の現状
捜査はモスズの刑事捜査部(DIC)が主導し、科学捜査班が現場検証を実施した。バルセロナの裁判所の判事も現場に臨場し、司法手続きが開始されている。前述のとおり、拳銃・携帯電話という重要な物証が回収され、防犯カメラ映像も存在するとされるため、捜査当局は犯人の特定を急いでいるとみられる。
繰り返しになるが、被害者の身元、犯行の動機、ゾナ・フランカの事件との関連の有無は、いずれも現時点で確認されていない。今後の公式発表や司法手続きの中で明らかになっていくはずであり、本稿の内容も発表時点の情報に基づくものであることをお断りしておく。
日本の読者への解説
まず押さえておきたいのは、今回の事件が「通り魔」型の無差別な犯行とは異なる様相だという点だ。報じられている手口は特定の人物を狙ったものとみられ、現時点で旅行者や一般市民が標的になったという情報はない。バルセロナで旅行者が現実的に警戒すべきリスクは、依然として銃よりもスリ・置き引きである。具体的な防犯策はバルセロナの防犯ガイドにまとめているので、渡航予定の方はそちらを参照してほしい。
一方で、銃撃事件が短期間に続いている事実は、在住者として軽視すべきではない。スペインは欧州の中でも銃犯罪が少ない国であり、日本ほどではないにせよ「路上で銃声を聞く」ことが日常から遠い社会だ。だからこそ、今回のような事件は大きく報じられ、市民に強い衝撃を与える。逆に言えば、1件1件がニュースになるほど稀である、という見方もできる。
事件は教皇訪問という、バルセロナにとって祝祭的な一日に影を落とす形となった。捜査の進展、そして相次ぐ銃撃の背景に何があるのかについて、続報が入り次第お伝えする。












