スペインの夏は、年々「我慢の季節」から「備える季節」へと性格を変えている。2026年は5月の段階で南部が40℃に迫る異例の暑さとなり、これから本格的な夏を迎える。在住者にとっても、これから渡西する人にとっても、猛暑への備えはもはや快適さの問題ではなく、安全の問題だ。本ガイドでは、スペインで暑い夏を乗り切るための実践的な知識を、警報の読み方から家・仕事・体の守り方までまとめる。
まず警報を読めるように ─ AEMETの黄・オレンジ・赤
暑さ対策の出発点は、スペイン気象庁(AEMET)が出す高温注意報(avisos por altas temperaturas)を正しく読むことだ。注意報は3色のレベルで示される。黄色(amarillo)は、65歳以上で持病のある人など一部の人にリスクがある軽度の段階。オレンジ(naranja)は、一般の人にも軽いリスク、高齢者には中程度のリスクが及ぶ段階。赤(rojo)は、一般の人にも中程度、高齢者や子どもなど脆弱な層には重度・極度のリスクがある危険な段階だ。色が上がるほど「自分にも関係がある」と考えてよい。
確認方法はシンプルだ。AEMETの公式サイト(aemet.es)や公式アプリ「El Tiempo de AEMET」で、住んでいる県の注意報を毎日チェックする習慣をつけたい。スマートフォンの天気アプリでも気温は見られるが、リスクの度合いまで判断するには公式の色分け警報を見るのが確実だ。オレンジ以上が出た日は、外出や運動の予定を朝晩にずらすなど、計画そのものを見直す。
熱中症(golpe de calor)を防ぐ・見抜く
スペイン語で熱中症は「golpe de calor」。予防の基本は世界共通だ。のどが渇く前に、こまめに水を飲むこと。乾燥したスペインでは汗がすぐ蒸発して「かいていない」と錯覚しやすく、気づかぬうちに脱水が進む。アルコールやカフェイン、糖分の多い飲料は利尿作用などでかえって水分を失わせるので、基本は水を中心に。大量に汗をかく日は、塩分やミネラルの補給も意識したい。
危険なサインを覚えておくことも命を守る。めまい、頭痛、吐き気、強い倦怠感、筋肉のけいれんは初期の警告だ。さらに進むと、汗が止まる、皮膚が乾いて熱くなる、意識がもうろうとする、高熱が出るといった重症のサインが現れる。ここまで来たら一刻を争う。すぐに涼しい場所へ移し、体を冷やし(首・脇・脚の付け根を保冷剤や濡れタオルで)、水分を取らせる。意識がはっきりしない、けいれんがあるなどの場合は、ためらわず救急番号112に電話する。判断に迷う健康相談はスペインの公的医療窓口も利用できる。
家の暑さ対策 ─ エアコンがなくても
スペインの住宅には、日本ほどエアコンが普及していない物件も多い。だが、伝統的な家には暑さをしのぐ工夫がある。最大の武器が、窓の外側に付いたpersiana(外付けブラインド/雨戸)だ。日中、日差しが当たる側のpersianaを下ろして直射日光を室内に入れないだけで、室温の上がり方は大きく変わる。「昼は閉めて熱を入れず、気温が下がる夜から早朝に窓を開けて涼しい空気を通す」——この開け閉めのリズムが、石造りの家を涼しく保つコツである。
扇風機は、室温が体温(約37℃)を大きく超えると、熱風をかき回すだけで体を冷やせなくなる点に注意。濡れタオルや霧吹きと併用し、可能なら一部屋だけでも冷房を効かせて「逃げ場」を作るとよい。エアコンを使う場合、電気代が気になるなら設定温度を下げすぎず(26〜27℃目安)、扇風機で空気を循環させると効率がよい。賃貸でエアコンがない場合は、契約前に設置の可否を確認しておくと、夏の安心がまるで違う。
働く人の権利 ─ 王令法4/2023を知っておく
屋外で働く人は、自分を守る法律があることを知っておきたい。2023年に施行された王令法(Real Decreto-ley 4/2023)は、極端な暑さから労働者を守る措置を雇用主に義務づけている。AEMETがオレンジまたは赤の高温注意報を出し、日陰や休憩などの対策だけでは安全を確保できない場合、雇用主は労働時間の短縮や変更をしなければならない。建設、農業、運輸、清掃、配達など、屋外で働くあらゆる仕事が対象だ。飲料水の提供、日陰の休憩場所、こまめな休憩も雇用主の責任である。体調に異変を感じたら無理をせず、これらは「お願い」ではなく法的な権利だと覚えておこう。
守るべき人とペット
熱波の被害は弱い立場の人に集中する。スペインの統計でも、暑さによる超過死亡の大半は高齢者だ。一人暮らしの高齢の隣人や家族には、暑い日ほどこまめに連絡を取り、室温と水分摂取を気にかけたい。子ども、妊婦、慢性疾患のある人も要注意層だ。そして、子どもやペットを車内に置き去りにするのは絶対に避けること。締め切った車内は短時間で命に関わる温度に達する。犬の散歩は、アスファルトが冷える早朝か夜に。日中の熱い路面は肉球をやけどさせ、地面に近い犬は人間より高温にさらされる。
日本人がつまずきやすい点
最後に、日本から来た人が陥りやすい落とし穴を挙げておく。第一に、前述のとおり乾燥した暑さは脱水に気づきにくい。日本の蒸し暑さと違って汗が目立たないぶん、意識して水を飲む必要がある。第二に、エアコンがない・効かない環境を想定しておくこと。宿や住まいの冷房は事前確認を。第三に、スペインの生活リズムに合わせること。昼下がりに店が閉まり人々が活動を控えるシエスタは、一日でもっとも危険な時間帯を避ける合理的な知恵だ。観光も用事も午前と夕方に寄せ、午後は屋内で休む。これだけで安全性は大きく変わる。水道水は多くの地域で飲用可能なので、マイボトルを持ち歩いて給水するのも有効だ。
*本ガイドは2026年5月時点の一般的な情報をまとめたものです。注意報の基準や制度は更新されることがあるため、最新情報はAEMET(aemet.es)や保健当局の公式発表で確認してください。体調に不安がある場合は、無理をせず医療機関や救急(112)に相談を。





