スペインのペドロ・サンチェス首相が7月28日、モンクロア宮で恒例の政治年度総括会見に臨んだ。夏季休会前の最後の閣議を終えた直後の登壇であり、8月はほぼ一か月にわたって閣議が開かれない。首相が打ち出したメッセージは明快で、この立法期にはまだやるべきことが残っており、2027年の総選挙まで政権を全うするという意思表明だった。政府筋によれば、サンチェス氏は堅調な経済指標を強調するとともに、汚職に対する断固たる姿勢をあらためて表明したという。もっとも、総括の対象となる一年は決して順風ではなかった。与党・社会労働党(PSOE)およびモンクロアの周辺、さらには首相の家族周辺にまで及ぶ複数の司法手続きが進行し、議会での多数派形成に苦しんだ結果、住宅関連の法令は成立せず、新たな国家予算の成立可能性も遠のいた。同じ7月28日の閣議では、森林火災の被災地域を「緊急事態により重大な影響を受けた地域」に指定する措置と、被災した労働者を支援する勅令が承認されている。さらにこの週、内務省が2013年に元PP会計責任者ルイス・バルセナス氏の情報を奪おうとしたとされる「キッチン作戦」裁判が結審を迎える。政権にとっての夏は、経済の成果と司法の重圧が同時に押し寄せる季節として始まった。

7月末の総括会見という、スペイン政治の年中行事

日本の読者にはなじみが薄いかもしれないが、スペインでは首相が7月末に「政治年度の総括(balance del curso político)」を行うのが定着した慣行になっている。学校の年度が9月に始まり6月に終わるのに合わせ、政治の一年もまた夏休みを境に区切られるという感覚が根底にある。首相は一年の成果を並べ、記者の質問に長時間応じ、そして8月は議会も閣議もほぼ止まる。

この慣行があるために、7月末の会見はその年の政権の自己評価を最も凝縮した形で示す場になる。今年の場合、サンチェス氏が前面に出したのは経済である。スペイン経済はユーロ圏のなかで相対的に高い成長率を維持しており、雇用も改善が続いている。政権がここを繰り返し強調するのは、司法をめぐる話題に議論が集中することを避けたいという事情と表裏一体でもある。

「立法期はまだ続く」という主張の中身

会見前から政府側が繰り返してきたのは、立法期にはまだ余地があるという主張だった。スペインの総選挙は次回2027年に予定されており、サンチェス政権は任期を全うする構えを崩していない。野党側からは早期の解散総選挙を求める声が続いているが、首相はこれに応じない姿勢を明確にしている。

ただし、この一年の議会運営が困難を極めたことは政権も否定していない。連立と閣外協力に依存する少数与党という構造上、法案ごとに異なる政党の賛成を取り付ける必要があり、住宅政策に関する法令はその調整に失敗して成立しなかった。国家予算についても、成立の見通しは立っていない。スペインでは予算が成立しない場合、前年度予算が自動的に延長される仕組みがあり、政権はこの延長予算のもとで統治を続けてきた。予算を通せないまま政権を維持するという状態が常態化しつつあるのが、いまのスペイン政治の実相である。

史上最大の支出上限、2,260億ユーロ

予算そのものは通っていないが、その前段階にあたる支出上限は7月7日の閣議で承認されている。2027年度の非金融支出上限は2,260億3,200万ユーロで、2026年の国家支出上限より6.6%、金額にして140億600万ユーロ多い。財務相アルカディ・エスパーニャ氏はこれを「これまでに承認された最大の数字」と表現した。

政府の説明によれば、この規模の資源によって、住宅、奨学金、要介護者支援、ジェンダー暴力対策、研究開発とイノベーションといった公共政策に史上最大の予算を割り当てることが可能になる。同じ閣議では、2027年から2029年にかけての財政安定化の道筋、すなわち赤字、債務、支出ルールの目標も承認された。

この支出上限は、あくまで予算編成の出発点にすぎない。実際の予算案が議会を通過しなければ、この数字は絵に描いた餅で終わる。政権が支出上限の規模を大きく打ち出すのは、財政の余力を示すと同時に、予算成立に協力しない勢力に対して「これだけの社会支出を止めているのは誰か」という圧力をかける政治的な意味も帯びている。

結審を迎える「キッチン作戦」裁判

政治年度の締めくくりと同じ週に、スペイン政治の暗部を扱う裁判が最終局面を迎える。全国管区裁判所で審理されてきた「キッチン作戦(Operación Kitchen)」事件が、今週中に結審する見込みとなっている。

この事件は、2013年、当時のマリアノ・ラホイ政権下の内務省から、国民党(PP)の元会計責任者ルイス・バルセナス氏の手元にあるとされた情報を奪取するために組織されたとされる作戦をめぐるものである。検察は、党の裏帳簿の存在に関する捜査を妨害する目的があったとみている。反汚職検察はこれを「準警察的な犯罪作戦」と位置づけた。

テレサ・パラシオス裁判長が率いる法廷での口頭弁論は3か月を超え、7月に入って各被告の弁護側による最終弁論が行われた。木曜には8人の被告が最終陳述の権利を行使し、そのうえで判決に向けて審理が終結する。反汚職検察の求刑は、元警察官ホセ・マヌエル・ビジャレホ被告に対して隠匿、公金横領、プライバシー侵害、収賄などの罪で19年の禁錮刑と最も重く、元内相ホルヘ・フェルナンデス・ディアス被告ら4人にはそれぞれ15年、別の被告に12年6か月、元内部監察責任者には2年6か月を求めている。

この事件が長く尾を引いてきた理由の一つは、被告の顔ぶれにある。現職当時に治安機構の頂点にいた人物と、機密情報の売買で知られた元警察官が同じ法廷に並ぶ構図は、スペインの読者にとっても衝撃の強いものだった。審理が3か月を超えたのも、証人の数と押収された記録の膨大さによる。

注意すべきは、これらがあくまで検察の求刑であり、判決ではないという点だ。判決が出るまでは推定無罪の原則が働く。またこの事件はPP政権期の出来事であり、現政権をめぐる司法案件とは別の系統に属する。ただ、汚職と政治の関係という主題が、与野党どちらの側にとってもこの一年の中心的な争点であり続けたことは間違いない。

火災対応が最後の閣議を占めた

7月28日の閣議で承認されたもう一つの重要事項が、森林火災への対応である。マドリード州西部、アビラ県、トレド県を中心に燃え広がった火災は、7月24日に国家非常事態が宣言される規模に達し、9万人以上が避難または屋内退避の対象となった。政府はこれらの地域を「緊急事態により重大な影響を受けた地域」に指定する手続きを進め、あわせて被災した労働者を支援する勅令を承認した。

この指定は、被災者への直接的な給付、税や社会保険料の減免、インフラ復旧の予算措置などを発動させる法的な入り口になる。夏休み前の最後の閣議が災害対応で埋まったという事実そのものが、この夏のスペインの状況を象徴している。

秋に持ち越される三つの課題

夏季休会をはさんで9月に政治が再開したとき、政権が向き合うことになる課題はすでに輪郭が見えている。

第一に、2027年度予算案である。7月に承認された支出上限は史上最大の規模だが、これを実際の予算として議会で成立させられるかどうかは別問題だ。政権はこの一年、法案ごとに支持を積み上げる困難な作業を強いられてきた。予算が再び通らなければ、延長予算での統治がさらに続くことになる。

第二に、司法案件の推移である。与党周辺をめぐる複数の手続きが進行しており、その展開は政権の政治的な体力を直接左右する。首相が会見で汚職への断固たる姿勢を繰り返し表明せざるをえないのは、この圧力が続いているからにほかならない。

第三に、火災からの復興である。9万人以上が避難と屋内退避の対象となり、8万ヘクタール規模が焼けた被害の後始末は、秋以降の予算措置と行政対応に長く残る。被災地域の指定と労働者支援の勅令は最初の一歩にすぎず、住宅の再建、農業と牧畜への補償、森林の再生には年単位の時間がかかる。夏の災害が秋の政治日程を規定するという構図は、近年のスペインでは繰り返し起きている。

日本の読者への解説

スペインの政治日程を日本と比べると、いくつか興味深い違いがある。日本では首相が年頭に記者会見を開き、国会の会期末に所感を述べることはあっても、7月末に「一年の総括」を行う慣行はない。スペインのこの慣行は、8月にほぼ全土が休暇に入るという社会構造と結びついている。役所も企業も動きが止まり、政治も止まる。だからこそ、その直前に一年を締める儀式が必要になる。

もう一つ、日本の読者に理解しにくいのが「予算が成立しなくても政権が続く」という点だろう。日本では予算案の否決は内閣にとって致命的であり、事実上の不信任と受け取られる。スペインでは、予算が成立しない場合に前年度予算が自動延長される仕組みがあるため、予算を通せないことが直ちに政権の終わりを意味しない。この制度的な差が、少数与党でも長期にわたって政権を維持できる条件を作っている。逆に言えば、政権は新しい政策の財源を確保できないまま統治を続けることになり、支出上限だけが史上最大を更新していくという、やや奇妙な光景が生まれる。

そして司法との関係である。スペインでは政治家が捜査対象となり、法廷に立つ光景が日本よりはるかに日常的だ。元内相が求刑15年の被告席に座り、それが淡々と報じられる。これは政治の腐敗度が高いことの証明である以上に、司法が政治家を訴追できる独立性を持っていることの表れでもある。今年の政治年度が汚職の話題に覆われたのは、政権にとっては痛手だが、制度としては機能している側面でもある。この二面性を意識しておくと、スペインの政治ニュースはずいぶん読みやすくなる。

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