抽選結果に見るスペイン勢の明暗

スイス・ニヨンで2026-27シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループステージの組み合わせ抽選会が行われ、今季5クラブを送り込むスペイン勢の対戦相手が決定した。決勝の舞台がアトレティコ・マドリードの本拠地、シビタス・メトロポリターノであることから、スペイン国内の期待は例年以上に高まっている。しかし、抽選結果は各クラブの命運を大きく分けるものとなった。

昨季のラ・リーガ王者であるレアル・マドリードは、ドイツの巨人バイエルン・ミュンヘンと同じグループFに入った。これは「欧州のクラシコ」とも呼ばれる黄金カードであり、グループステージで実現するのは異例だ。両クラブはこれまで決勝トーナメントで幾多の死闘を繰り広げてきた。カルロ・アンチェロッティ監督にとっては古巣との対決となり、戦術的な駆け引きが序盤から注目される。同組にはオランダのフェイエノールト、スコットランドのセルティックが入り、決して油断はできないものの、突破の本命はやはりマドリードとバイエルンと見られている。

一方、FCバルセロナもまた、イングランドの強豪マンチェスター・シティと同じグループCに組み込まれた。ジョゼップ・グアルディオラ監督が古巣バルセロナと対峙する構図は、常に大きな物語を生んできた。近年の対戦成績では資金力で勝るシティに軍配が上がることが多く、財政的な制約の中でチーム再建を進めるシャビ・エルナンデス監督の手腕が問われることになる。イタリアのアタランタ、トルコのガラタサライも同居するこのグループは、混戦が予想される厳しい組となった。

対照的に、最も幸運なドローを手にしたのが地元決勝を目指すアトレティコ・マドリードだ。グループEで同組となったのは、ポルトガルのスポルティングCP、ウクライナのシャフタール・ドネツク、ベルギーのクラブ・ブルッヘ。いずれも欧州の常連ではあるが、いわゆる「ビッグクラブ」との対戦は避けられた。ディエゴ・シメオネ監督にとって、悲願であるCL制覇を成し遂げるためのまたとないチャンス。ホームの観衆の前でビッグイヤーを掲げるという最高のシナリオに向け、まずはグループステージを危なげなく首位で突破することが至上命令となる。

その他のスペイン勢では、レアル・ソシエダがフランスのパリ・サンジェルマン、ドイツのボルシア・ドルトムント、イングランドのニューカッスル・ユナイテッドという、まさしく「死の組」に入った。昨季に続き大舞台に挑むバスクの雄だが、突破は極めて困難な道となる。ヨーロッパリーグ出場権が得られる3位確保が現実的な目標となるだろう。また、EL王者として出場権を得たアスレティック・ビルバオは、リヴァプール、ACミラン、レッドブル・ザルツブルクと同組。こちらも厳しい戦いが予想される。

構造変化の渦中にある欧州サッカー

今季のCLは、2024-25シーズンから導入された新フォーマット(通称スイス式)が3シーズン目を迎える中で行われる。36クラブが単一のリーグを形成し、各チームが異なる8チームと対戦するこの方式は、試合数を増加させ、商業的な収益を拡大させる一方で、選手の負担増や戦力格差の固定化といった課題も指摘されてきた。特に、潤沢な資金を持つイングランド・プレミアリーグ勢の優位は揺るぎないものとなりつつある。

かつてはスペインの2強、レアル・マドリードとバルセロナが欧州を支配した時代もあったが、現在は状況が異なる。レアル・マドリードこそ伝統と勝者のメンタリティでトップレベルを維持しているものの、バルセロナは深刻な財政難に苦しみ、かつてのような圧倒的な戦力を揃えることはできない。ラ・リーガが導入している厳格なサラリーキャップ制度は、リーグ全体の財政健全化に貢献する一方、プレミアリーグや国家がバックアップするクラブとの資金力競争においては、明確な足枷となっている。

このような状況下で、今季スペインから5チームが出場権を得たことの意義は大きい。これは、ラ・リーガ全体のレベルが依然として高いことの証明でもある。アトレティコ・マドリードの安定した強さ、レアル・ソシエダやアスレティック・ビルバオといった育成型クラブの健闘は、スペインサッカーの多様性と底力を示している。彼らが限られた予算の中で、いかにしてメガクラブに対抗していくのか。その戦い方は、単なる勝ち負けを超えた、現代サッカーにおけるクラブ経営のあり方を問うものでもある。

また、サウジアラビア資本の影響も無視できない。数年前のようなスター選手の爆買いは沈静化したが、ニューカッスル・ユナイテッドのように欧州クラブのオーナーシップを通じて影響力を増す動きは続いている。伝統的な勢力図が、オイルマネーによって塗り替えられていく中で、ソシオ(会員)制度を維持するスペインのビッグクラブがどのような立ち位置を保っていくのかも、長期的な焦点となるだろう。

地元決勝へ、アトレティコの悲願とシメオネの集大成

今大会の最大の物語は、やはりアトレティコ・マドリードと決勝の地メトロポリターノだろう。2011年からチームを率いるディエゴ・シメオネ監督は、クラブをスペインの強豪、そして欧州のコンテンダーへと押し上げた最大の功労者だ。ラ・リーガを2度制し、ヨーロッパリーグも制覇したが、彼の輝かしい経歴に唯一欠けているのが、CLのタイトルである。

その悲願に、あと一歩まで迫ったことが2度ある。2014年のリスボン、そして2016年のミラノ。いずれの決勝も、相手は宿敵レアル・マドリードだった。リスボンでは試合終了間際にセルヒオ・ラモスの同点ヘッドを浴びて延長戦で力尽き、ミラノではPK戦の末に涙をのんだ。あの悪夢のような敗北は、クラブとサポーターの心に深い傷として刻まれている。だからこそ、地元マドリードで開催される決勝でリベンジを果たし、初優勝を遂げることの意味は計り知れない。

シメオネ監督が築き上げた「チョリスモ」と称される堅守速攻のスタイルは、一時期時代遅れと見なされたこともあった。しかし、彼は戦術的な柔軟性を加えながらチームを進化させ、今もトップレベルで戦い続けている。アントワーヌ・グリーズマンという絶対的なエースの存在、ジョアン・フェリックスら若き才能の融合、そして何よりもチーム全体に浸透する闘争心。これらが噛み合った時、アトレティコはどんな相手をも打ち破る力を持つ。

恵まれたグループステージの組み合わせは、決勝トーナメントに向けて戦力を温存し、チームのコンディションを整える上で大きなアドバンテージとなる。欧州の頂点を目指す長い道のりにおいて、これ以上ない追い風が吹いている。シメオネとアトレティコにとって、2026-27シーズンはまさに集大成のシーズンとなるかもしれない。

日本の読者への解説

日本のサッカーファンにとって、今季のCLで最も注目すべきは、レアル・ソシエダに所属する久保建英選手の活躍だろう。昨季、クラブ史上初のCLベスト16進出に大きく貢献した久保は、今やチームの攻撃を牽引する中心選手として確固たる地位を築いている。しかし、今季のグループステージはパリ・サンジェルマン、ドルトムント、ニューカッスルという欧州屈指の強豪が揃う、まさに「死の組」。この最高レベルの舞台で、久保が自身の価値を改めて証明できるかどうかが問われる。特に、キリアン・エムバペを擁するパリとの対戦や、熱狂的な雰囲気で知られるドルトムント、ニューカッスルのスタジアムでのプレーは、彼のキャリアにとって大きな財産となるはずだ。

また、欧州サッカーの商業化と放映権の問題は、日本の視聴者にも無関係ではない。CLの試合数が増加し、キックオフ時間も多様化する中で、日本のファンがリアルタイムで試合を追う負担は増している。放映権料の高騰は、視聴料金にも反映される。欧州で繰り広げられるビジネス戦略が、遠く離れた日本のリビングルームにまで直接的な影響を及ぼしているという構造は、現代のグローバルなスポーツビジネスを象徴している。

さらに、スペインのクラブ経営のあり方は、日本のJリーグにとっても参考になる点が多い。レアル・マドリードやバルセロナが採用するソシオ制度は、クラブがファンのものであるという理想を体現する一方、会長選挙に代表される政治的な側面も持つ。また、アスレティック・ビルバオがバスク地方出身者のみでチームを構成するという独自の哲学を貫きながら強さを維持している点は、地域密着を掲げるJリーグクラブにとって示唆に富む。ラ・リーガの厳格なサラリーキャップ制度がクラブの財政規律を保つ仕組みは、将来的にJリーグが導入を検討する可能性のある「ぜいたく税」などの議論にもつながるだろう。単にスター選手のプレーを追うだけでなく、その背景にある社会や経済の仕組みに目を向けることで、欧州サッカーをより深く理解することができる。

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