相次ぐ強い揺れ、アルハンブラ宮殿も一時閉鎖
スペイン南部、アンダルシア州の古都グラナダとその周辺地域が、近年まれに見る強い群発地震に見舞われている。現地時間8月18日火曜日の午前10時39分、グラナダ近郊を震源とするマグニチュード(M)4.8の地震が発生。これは、わずか4日前の土曜未明に記録されたM4.8の地震に続く、同規模の強い揺れであった。一連の地震活動により、軽傷者3名が出たほか、建物のファサードやコーニス(軒飾り)の落下、商業施設での天井崩落など多数の物的被害が報告されている。世界遺産であるアルハンブラ宮殿も、安全確認のため一時的に観光客を避難させ、閉鎖する措置を取った。市民の間には深刻な不安が広がり、余震を恐れて路上で過ごす人々や、一時的に沿岸部の別荘などに避難する動きも見られた。スペイン国立地理研究所(IGN)によると、この2つのM4.8の地震は、グラナダ周辺で1955年以降に記録された浅発地震としては最大級のものであり、事態の深刻さを物語っている。
グラナダの地震史と特有の地質学的リスク
グラナダ県は、スペイン国内でも特に地震活動が活発な地域として知られている。その背景には、アフリカプレートとユーラシアプレートが衝突する複雑な地質構造が存在する。歴史を遡れば、この地域は壊滅的な地震に何度も見舞われてきた。特に記憶されているのが、1884年に発生した「アンダルシア大地震」(アレナス・デル・レイ地震)である。推定M6.5のこの地震は、800人以上の死者を出し、約4400棟の建物を全壊させるという甚大な被害をもたらした。現代のグラナダ市民のDNAにも、この歴史的災害の記憶が刻まれていると言えるだろう。
今回の地震で被害と不安を増幅させている要因は、その震源の浅さと特異な地盤にある。グラナダ大学の地質力学の専門家、ホセ・ミゲル・アサニョン教授によれば、現在の一連の地震の震源は深さ3.5kmから5.5kmと非常に浅い。震源が浅ければ、地震のエネルギーが減衰せずに地表に到達するため、マグニチュードの数値以上に揺れが強く感じられる。さらに、グラナダ市街地が広がる盆地は、「堆積盆地」と呼ばれる柔らかい堆積物で満たされている。この軟弱な地盤が地震波を増幅させる「サイト効果(地盤増幅効果)」を引き起こし、揺れをさらに大きくしている。住民が「M6か7に感じた」と証言するほどの強い体感震度は、こうした地質学的条件が重なった結果なのである。専門家は、この地域の断層の長さから、日本で経験するようなM7を超える巨大地震が発生する可能性は低いとしながらも、1884年のようなM6.5クラスの地震が起こるポテンシャルは否定できないと指摘している。
2021年の群発地震との比較と今後の見通し
グラナダでは2021年にも、1週間で1000回以上の地震を記録する大規模な群発地震(スペイン語で「enjambre sísmico」)が発生し、市民を不安に陥れた。しかし、当時との決定的な違いは、主要な地震の規模にある。2021年の群発地震では、最大でもM4.6であったのに対し、今回は短期間にM4.8というより強い地震が2度も発生している。これが市民の危機感を格段に高めている。グラナダ市長のマリフラン・カラソ氏は、「雨が降っているところにさらに雨が降るようなものだ」と述べ、前回の地震で既に点検や補修が必要だった建物が、今回の揺れでさらに深刻なダメージを受けている可能性に言及した。
専門家は、今後の予測が極めて困難である点を強調する。小さな地震が頻発することが、より大きな地震のエネルギーを「解放」し、大地震を防ぐという考えは科学的根拠のない俗説である。一つの断層の動きが、隣接する別の断層の応力状態を変化させ、新たな地震を誘発する可能性も常にある。当局は市民に対し、ソーシャルメディア上の不確かな情報に惑わされず、公式発表に注意を払うよう呼びかけている。また、揺れを感じた際には慌てて屋外に飛び出さず、まずは頑丈な机の下などで身を守ること、そして建物の構造に明らかな損傷がない限りは屋内で待機することを推奨している。しかし、予測不能な揺れへの恐怖から、市民の緊張状態は続いている。この出来事は、グラナダが活断層の上に築かれた都市であることを、改めて物理的な形で突きつけるものとなった。
日本の読者への解説
日常的にM4〜5クラスの地震を経験する日本の読者にとって、スペインでのM4.8の地震は、一見するとそれほど大きなニュースには思えないかもしれない。しかし、この認識の違いこそが、防災を考える上で重要な示唆を与えてくれる。第一に、耐震基準と建築文化の違いがある。スペイン、特にグラナダのような歴史的都市では、石やレンガで造られた古い建物が多く、日本の現行の耐震基準を満たしていないものが大半だ。日本では軽微な被害で済むような揺れでも、スペインでは壁の亀裂やファサードの崩落といった深刻な被害に直結しやすい。アルハンブラ宮殿のような歴史的建造物をどう守るかという課題は、日本の京都や奈良が抱える文化財の防災問題とも通底する。
第二に、地震リスクに対する社会的な「慣れ」の欠如が挙げられる。日本では地震は日常的な脅威であり、避難訓練や防災グッズの備えがある程度浸透している。一方、スペインでは地震は比較的まれな現象であり、多くの市民は強い揺れを経験したことがない。そのため、パニックに陥りやすく、適切な初動対応が難しい。今回のグラナダ市民の反応は、普段は意識されることの少ない「忘れられたリスク」が突如として現実化した際の社会の脆弱性を浮き彫りにした。
最後に、地盤増幅効果の普遍性である。グラナダの堆積盆地が揺れを増幅させるメカニズムは、日本の関東平野や大阪平野など、大都市が位置する沖積平野と全く同じ原理だ。このことは、地震防災において、マグニチュードという単一の指標だけでなく、足元の地盤の特性を理解することがいかに重要であるかを再認識させる。スペインの事例は、地震が少ないとされる国でも、特定の地質条件下では大きな被害が生じうることを示している。これは、日本国内で比較的地震が少ないとされてきた地域にとっても、決して他人事ではない教訓と言えるだろう。













