スペイン最高裁(Tribunal Supremo)行政訴訟法廷(Sala de lo Contencioso-Administrativo)は7月8日、外国人法の新施行規則(レアル・デクレト1155/2024、2024年11月制定)を不服として複数の移民支援団体が起こした訴訟について、一部を認める判決を下した。もっとも大きな論点は「前科(antecedentes penales)がある」という事実だけを理由に、居住・在留許可を自動的に拒否することはできないと明確にした点だ。判決は、家族関係の権利やEU市民権に関わる状況が絡む場合、行政は前科の重大性・経過年数・家族状況・未成年の子の利益などを個別に審査しなければならないとしている。前科そのものが無関係になるわけではなく、「機械的に、それだけを理由に拒否する」ことができなくなったというのが判決の核心だ。この訴訟はコルドバの青少年支援団体Asociación Coordinadora de Barrios、スペイン人権擁護協会(APDHE)、移民法専門家ネットワークExtranjeristas en Redの3団体が共同で起こしたもので、規則全体の骨格は維持されつつも、前科条項以外にも複数の規定が無効とされた。
何が争われたのか
2024年11月に施行された新しい外国人法施行規則(RD 1155/2024)は、就労許可・家族呼び寄せ・未成年者保護など外国人の在留に関わる手続き全般を刷新するものだったが、複数の移民支援団体は一部の条項が上位法である外国人組織法(LO 4/2000)やEU指令の趣旨に反すると主張し、最高裁に規則の無効を求める訴訟を起こしていた。今回の判決はその一部を認め、規則の大枠(申請手続きの電子化推進や許可類型の整理など)は維持しつつ、複数の条項に是正を命じる内容となった。
前科条項: 何がどう変わるのか
これまでの規則の運用では、警察記録に前科の記載があるというだけで、審査担当官が個別の事情を検討することなく許可を拒否できる余地があった。最高裁は今回、家族関連の権利やEU市民権に関わる状況が絡む申請については、こうした「自動拒否」を認めないとした。判決が求めているのは、犯罪の重大性、有罪判決からの経過年数、前科が抹消(cancelado)されているかどうか、申請者のスペインでの生活基盤・家族状況、未成年の子がいる場合はその子の利益、といった要素を行政が個別に検討することだ。これは2022年前後に欧州司法裁判所(TJUE)が、単なる前科の存在だけを理由に長期居住者資格を拒否することはEU指令に反するとの判断を示していた流れとも一致する。今回の最高裁判決は、その考え方をスペイン国内の新施行規則の解釈にも及ぼした形になる。
前科以外に是正された点
判決ではほかにも複数の条項が無効とされた。未成年者に関しては、婚姻歴のある未成年者への在留許可を制限していた規定(強制結婚の被害者保護の観点から問題視されていた)や、スペイン生まれの未成年者が正当な理由で一時的にスペインを離れていた場合の扱いを制限する規定が是正された。保護者のいない外国人未成年者(MENA)への即時保護義務を弱めていた規定も見直しの対象となった。また、外国で法的に成立した後見(tutela)を国際条約に基づいて認めず、スペイン法のみに準拠することを求めていた規定も無効とされ、季節労働者の採用にあたって人材派遣会社の関与を一律に禁じていた規定も撤回された。行政手続きを電子申請のみに一本化する義務についても、対象者全員が必要な技術的手段を持っているという前提の正当性が不十分だとして違法と判断された。
この判決が意味すること
今回の判決によって、前科があること自体が居住許可の審査で無関係になるわけではない。あくまで「それだけを理由に、個別の事情を一切検討せず機械的に拒否する」運用ができなくなったという点が重要だ。行政は今後、家族関係やEU市民権が絡む申請について、前科の重大性や経過年数、申請者の生活基盤などを総合的に考慮した上で判断を下す必要がある。実務上は、これまで前科を理由に一律拒否されていたケースの一部が、個別審査によって許可される可能性が生まれたことを意味する。ただし、どのような場合に「家族関係の権利やEU市民権に関わる状況」に該当するかの線引きは今後の運用や下級審の判断で明確になっていく部分もあり、申請者個々の状況によって結論は異なる。
日本の読者への解説
日本にも外国人の在留資格審査において「素行が善良であること」を求める規定(入管法上の在留資格変更・更新時の「素行善良要件」など)があり、前科の有無が審査に影響する構造は共通する。ただし日本の運用でも、前科の内容や量刑、更生の状況などを個別に考慮するのが一般的とされており、単純な前科の有無だけで自動的に不許可となる運用は想定されていない。今回のスペイン最高裁判決は、まさにこの「個別審査か、自動拒否か」という論点について、これまで自動拒否の余地を残していた規則を明確に否定したものだ。スペイン在住の日本人にとって直接的な影響は限定的とみられるが、家族滞在や長期居住資格の更新・変更に関わる制度が今後どう運用されるかを見る上で、押さえておきたい判例といえる。
本判決の判決番号(STS番号)は本稿執筆時点で入手できた報道からは特定できていない。正式な判決文が公開され次第、詳細を追記する。













