サッカーの2026年ワールドカップ(アメリカ・カナダ・メキシコ共催)が開幕した。優勝候補の筆頭格と見られていたスペイン代表は、初戦でいきなり足元をすくわれている。6月15日、アトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムで行われたグループH第1戦。相手は今大会が初出場、人口約50万人の島国カーボベルデだった。スペインはボールの7割以上を支配しながら最後までゴールをこじ開けられず、0-0のスコアレスドローに終わった。
大会前、多くのブックメーカーやデータ分析がスペインを優勝候補の一番手に据えていた。欧州王者として臨む大会で、初戦の相手は格下中の格下。「勝って当然」と見られた一戦での取りこぼしに、スペイン国内のメディアは容赦のない言葉を並べた。マルカ紙は「出だしから大失敗(Un desastre para empezar)」、AS紙は「不発弾(Petardazo)」と見出しを打った。何が起きたのか、そしてこの結果がチームをどこへ追い込んだのかを整理する。
支配率74%で無得点 ── 「沈黙の90分」の中身
試合内容そのものは、一方的だった。スペインのボール支配率はおよそ74%。前半から相手陣内に押し込み続けたが、決定的な場面でことごとく精度を欠いた。立ちはだかったのは、カーボベルデの40歳のベテラン守護神ヴォジーニャ(Vozinha)である。彼は再三の好セーブでゴールを許さず、W杯初出場の小国に歴史的な勝ち点1をもたらす立役者となった。
スペインの先発は、ウナイ・シモンをゴールに置き、最終ラインにジョレンテ、パウ・クバルシ、ラポルト、ククレジャ。中盤にロドリ、ペドリ、ファビアン・ルイス。前線にガビ、オジャルサバル、フェラン・トーレスを並べた。攻撃の形は作るものの、ペナルティーエリア内での最後の崩しが単調で、相手の堅い守備ブロックを揺さぶりきれなかった。フェラン・トーレスは決定機をクロスバーに当て、オジャルサバルは試合開始から30分以上ボールにほとんど触れられず孤立した。
負傷明けで初戦はベンチスタートとなっていた18歳のラミン・ヤマルは、71分から投入された。シーズン終盤に左太もものハムストリングを痛めており、監督は「ベンチに置けること自体が出場可能の証拠。リズムと自信を取り戻させたい」と慎重に起用時間を管理した。だが交代が全体に遅く、流れを変えるには時間が足りなかった。
名指しされた3人と、監督への4つの疑問
現地メディアは敗北に等しいドローの「戦犯」を具体的に名指しした。スポーツ紙エル・デスマルケは、本来の持ち場ではない左ウイングで起用され幅も突破も生み出せなかったガビ、2年ぶりに右ウイングを任され決定機を外したフェラン・トーレス、序盤の30分間ボールに絡めなかったオジャルサバルの3人を挙げた。中盤の心臓であるべきロドリも精彩を欠き、不用意なボールロストを繰り返して「チームの体温計が最低水準」と評された。
批判の矛先は選手だけでなく、監督ルイス・デ・ラ・フエンテにも向かった。地元紙は彼の采配に4つの疑問を投げかけている。第一に、ガビとフェランを本職でないウイングに置いた配置。第二に、司令塔ペドリを前に出しすぎてビルドアップの起点を失わせたこと。第三に、選手交代が71分まで遅れたこと。第四に、ヤレミ・ピノやビクトル・ムニョスといった攻撃の駒を招集しながら一切使わなかったことである。
もっとも、デ・ラ・フエンテ自身は結果を相対化してみせた。「ボールが入りたがらない日というのはある」と語り、内容ではなく効率の問題に帰着させた。チームの地力そのものへの不安ではなく、初戦特有の硬さと精度の欠如、という見立てである。実際、スペインは予選を通じて圧倒的な強さを見せてきただけに、この一戦をどう立て直すかが問われる。
グループH全員が勝ち点1 ── 21日サウジ戦の重み
救いは、同組の他チームも足踏みしたことだ。同じ6月15日、マイアミで行われたもう1試合では、サウジアラビアとウルグアイが1-1で引き分けた。サウジのアラムリが前半41分に先制し、ウルグアイのアラウホが80分に追いついた。この結果、グループH(スペイン、ウルグアイ、サウジアラビア、カーボベルデ)は第1節終了時点で4チームすべてが勝ち点1、得失点差ゼロで横並びという、きわめて異例の混戦模様となった。
スペインの第2戦は6月21日(土)、アトランタでサウジアラビアと対戦する。キックオフは現地時間正午、スペイン本土時間で18時、日本時間では6月22日(月)午前1時だ。第3戦は6月26日、メキシコのグアダラハラでウルグアイと当たる。48カ国に拡大した今大会は各組上位2チームに加え、成績上位の3位チームも決勝トーナメントに進める。スペインがサウジ戦に勝てば突破に大きく近づく。逆にここでもつまずけば、優勝候補が初戦敗退の崖を覗き込むことになる。地力で上回るのは間違いないだけに、初戦の課題だった「最後の崩し」をどう修正するかが鍵を握る。
同じ夜、日本もまた土壇場で追いついた
スペインがアトランタで頭を抱えていた頃、日本代表もまた、別の意味で記憶に残る一戦を戦っていた。日本はグループF初戦で、優勝経験こそないが世界屈指の実力を持つオランダと対戦。前半を0-0で折り返した後、50分にファン・ダイクに先制を許す苦しい展開となった。だが57分、レアル・ソシエダ所属の久保建英の左サイドの突破から中村敬斗が同点ゴール。64分に再び勝ち越されながらも、89分に小川航基のヘディングが鎌田大地に当たって転がり込み、土壇場で2-2に追いついた。
強豪相手に勝ち点1をもぎ取った日本と、格下相手に勝ち点2を取りこぼしたスペイン。同じ「引き分け」でも、両者が受け取った手応えは正反対だった。日本の次戦は6月20日のチュニジア戦、続いて6月25日のスウェーデン戦。奇しくも、スペインのリーグ戦で長年プレーしてきた久保が、本場の舞台で世界に存在感を示そうとしている。
日本の読者への解説
ワールドカップは、優勝候補が初戦でつまずく大会でもある。過去にもフランスやアルゼンチン、ドイツといった強豪が緒戦を落とし、そこから優勝あるいは決勝まで駆け上がった例(あるいは姿を消した例)が繰り返されてきた。だからこそ、スペインの0-0を「終わりの始まり」と見るのは早計だ。重要なのは、混戦のグループで6月21日のサウジ戦をどう勝ち切るかである。
スペインのサッカーは、長く「ティキタカ」と呼ばれる短いパスをつないでボールを支配するスタイルで知られてきた。だが支配率74%で無得点という今回の試合は、ボールを持つことと点を取ることが別物だという、サッカーの古くて新しい難題をそのまま映し出している。引いて守る格下相手をどうこじ開けるか——これは日本代表がアジア予選などで何度も直面してきたテーマでもあり、日本のファンにとっても他人事ではない構図だ。
そしてスペイン在住の日本人にとって、この大会はひときわ特別だ。スペイン代表の主力には、リーガ・エスパニョーラで日常的に見てきた選手が並ぶ。バルセロナのヤマルやクバルシ、レアル・ソシエダで久保とともに戦ってきた選手たち。地元のバルやテラスでは、スペイン代表の試合に一喜一憂する隣人たちと肩を並べ、同時に日本代表の快進撃にもこっそり胸を熱くする——そんな二重の楽しみ方ができる夏が始まった。6月21日と22日の週末、テレビの前が最も熱くなる。











