W杯最終準備で示された圧倒的な攻撃力
2026年に北米3カ国で共催されるFIFAワールドカップ開幕を目前に控えた6月6日、ベルギー代表は最後の強化試合でチュニジア代表と対戦し、5-0という圧勝を収めた。ロメル・ルカクが2得点、ジェレミー・ドク、ロイス・オペンダ、そして主将のケヴィン・デ・ブライネがそれぞれ1得点を挙げるなど、攻撃陣が爆発。2022年カタール大会でのグループステージ敗退という屈辱から1年半、ドメニコ・テデスコ監督の下で進められてきたチーム再建が、確かな形となって表れた一戦となった。この結果は、単なる親善試合の勝利以上の意味を持つ。かつて「黄金世代」と呼ばれたチームが解体され、新たなサイクルに入ったベルギーが、再び世界のトップを狙える位置にいることを内外に示すものだった。
「黄金世代」の栄光と崩壊、そしてテデスコによる再建
ベルギーサッカーの歴史を語る上で、2010年代半ばから2020年代初頭にかけて活躍した「黄金世代」の存在は欠かせない。エデン・アザール、デ・ブライネ、ルカク、ティボー・クルトワといった、各ポジションにワールドクラスのタレントを擁し、FIFAランキング1位に長期間君臨。2018年ロシアワールドカップでは、準決勝でフランスに敗れたものの、3位決定戦でイングランドを破り、同国史上最高の成績を収めた。しかし、主要タイトルには手が届かず、世代の高齢化とともにチームは徐々に輝きを失っていく。その象徴が2022年カタール大会だった。大会前のデ・ブライネによる「僕たちは年を取りすぎた」という発言が象徴するように、チーム内の不和も報じられ、カナダに辛勝したものの、モロッコに敗れ、クロアチアと引き分け、まさかのグループステージ敗退に終わった。長年チームを率いたロベルト・マルティネス監督は退任し、一つの時代が完全に終わりを告げた。
その後任に就いたのが、ドイツ出身のドメニコ・テデスコ監督だ。シャルケやRBライプツィヒで実績を上げた当時37歳の青年監督に託された使命は、チームの若返りと、崩壊したチームスピリットの再構築だった。テデスコ監督は、アザールやトビー・アルデルヴァイレルトといったベテランが代表を引退する中、ドク、オペンダ、アマドゥ・オナナといった若手を積極的に登用。戦術的にもマルティネス時代に固執した3バックから、より柔軟な4バックを基本とし、選手の特性に合わせたシステムを採用した。EURO2024予選を無敗で突破するなど、その手腕は着実に結果に結びついており、今回のチュニジア戦での圧勝は、テデスコ体制の集大成とも言える内容だった。
新旧タレントの融合が生む化学反応
この日の試合でベルギーが見せた強さは、新世代の躍動と、それを支える黄金世代の生き残りとの見事な融合にあった。特に際立っていたのが、マンチェスター・シティでプレーする24歳のウインガー、ジェレミー・ドクの存在だ。彼の爆発的なスピードとドリブルはチュニジア守備陣を何度も切り裂き、チームの攻撃に圧倒的な推進力をもたらした。また、RBライプツィヒでゴールを量産するストライカー、ロイス・オペンダも得点を記録し、ルカクに次ぐ得点源としての地位を確立しつつある。中盤ではエヴァートン所属のアマドゥ・オナナがそのフィジカルの強さを活かしてフィルター役となり、デ・ブライネがより攻撃に専念できる環境を作り出した。
一方で、デ・ブライネやルカクといった経験豊富なベテランの存在感も依然として大きい。特に主将のデ・ブライネは、卓越したビジョンとパスで攻撃のタクトを振り、自らも得点を挙げるなど、チームの絶対的な中心であることを改めて証明した。かつては個々のタレント力に依存する場面も多かったが、テデスコ体制下のチームは、より組織的で、攻守の切り替えも速い。若手の勢いとベテランの経験が噛み合った現在のベルギーは、黄金世代のピーク時とは異なる、予測不能な怖さを秘めている。
日本の読者への解説
ベルギー代表が経験した「黄金世代」の終焉と、その後の世代交代のプロセスは、日本のサッカーファンにとっても非常に示唆に富んでいる。日本代表もまた、本田圭佑、香川真司、長友佑都らが中心だった時代から、冨安健洋、久保建英、三笘薫といった新世代への移行を経験してきた。一つの世代が強力であればあるほど、その後のチーム作りは困難を伴う。ベルギーがカタールW杯で経験したような内紛や世代間の断絶は、どの強豪国も直面しうる課題だ。ベルギーがテデスコという若く、戦術的に柔軟な外部の指導者を招聘し、大胆な若返りを断行して成功しつつある事例は、日本サッカー協会が将来の監督選定やチーム強化方針を考える上で参考になるだろう。
また、人口約1100万人という小国から、なぜこれほど多くのワールドクラスの選手が継続的に生まれるのかという点も注目に値する。ベルギーは国内リーグのクラブ(アンデルレヒト、ヘンクなど)が育成に定評があるだけでなく、若いうちからフランス、オランダ、ドイツといった隣国のビッグリーグへ選手を送り込み、高いレベルで競争させる育成モデルを確立している。これは、Jリーグから欧州へ挑戦する選手が増加している日本代表の強化モデルとも共通する。ベルギーの新世代を担うドクやオペンダも、若くして国外に活躍の場を求めた選手たちだ。彼らが代表チームでいかに融合し、結果を出しているかを分析することは、日本代表のさらなる飛躍のヒントとなるかもしれない。スペインのラ・リーガで活躍するティボー・クルトワ(レアル・マドリード)やアクセル・ヴィツェル、ヤニック・カラスコ(共にアトレティコ・マドリード)といった選手たちが黄金世代の中核を担ってきたように、個々の選手が欧州最高峰の舞台で日常的にプレーすることが、代表チームの底力に直結することをベルギーの事例は改めて教えてくれる。





