勝利のなかの敗北:国民党、過半数に届かず

スペインで最も人口の多いアンダルシア州で5月17日に行われた州議会選挙は、フアン・マヌエル・モレノ知事率いる国民党(PP)が勝利を収めるという、予想通りの結果となった。しかし、その勝利はほろ苦いものであった。国民党は得票数を前回2022年から15万票以上増やしながらも、議席を58から54へと減らし、単独過半数(55議席)に2議席届かなかったのである。

モレノ知事は選挙戦を通じて、極右政党Voxとの連立を避けるための「安定した統治」を訴え、有権者に絶対多数の議席を託すよう求めてきた。彼が多用した「lío(混乱、厄介事)」という言葉は、Voxとの交渉や連立がもたらすであろう政治的混乱を指しており、それを回避することこそが選挙の最大の争点であった。しかし、結果は皮肉にもその「混乱」を現実のものとした。国民党は今後、州首相の指名投票と、その後の4年間の統治において、Voxの協力なしには何も決められない状況に追い込まれた。

この「得票増・議席減」という逆説的な結果は、スペインの選挙制度(ドント方式)と、投票率の上昇がもたらしたものである。2022年の選挙では、左派の投票率が低く、多くの小政党が議席獲得に必要な得票率に届かなかったため、その「死に票」が最大政党である国民党に有利に働き、結果として地滑り的な勝利につながった。しかし今回は、投票率が前回を約9ポイントも上回る64.79%に達し、特に左派陣営の票が掘り起こされた。これにより、各選挙区での最後の1議席を国民党が獲得できなくなり、過半数を失うという結果を招いたのである。

左派の地殻変動:PSOEの凋落と「アデランテ・アンダルシア」の躍進

今回の選挙で最も注目すべきは、左派陣営で起きた地殻変動である。かつて37年間にわたりアンダルシア州を支配した中道左派・社会労働党(PSOE)は、サンチェス中央政権の現職閣僚であるマリア・ヘスス・モンテロ氏という大物を候補者に立てて選挙戦に臨んだが、議席を30から28へとさらに減らし、歴史的な低水準を更新した。左派の支持層の投票率が上がったにもかかわらず、その受け皿にさえなれなかったことは、PSOEの構造的な退潮と、有権者との乖離を浮き彫りにした。

その一方で、左派の票を吸収し、選挙の構図を大きく変えたのが、地域主義・反資本主義を掲げる「アデランテ・アンダルシア」である。ポデモスを離脱したテレサ・ロドリゲス氏が設立したこの地域政党は、議席を2から8へと4倍に増やし、大躍進を遂げた。彼らの成功の要因は、中央政党(マドリード)の支配を批判し、「アンダルシアのための政治」を前面に押し出したことにある。新鮮で分かりやすい言葉、既存の左派政党の硬直性を批判する姿勢が、政治に幻滅していた若者や無党派層の「怒りの票(voto de cabreo)」を捉えた。その支持層は、イデオロギーに固執しない若者たちであり、極右のVoxに流れる可能性さえあった層をも取り込んだと分析されている。

興味深いのは、前期の議会において、モレノ知事率いる国民党が、左派を分断させる狙いから、少数会派であったアデランテ・アンダルシアに意図的に政治的・経済的な便宜を図っていたという事実である。議会での活動資金を潤沢にし、彼らの法案を国民党の賛成で可決させるなど、いわば「小さな敵を育てて大きな敵を弱体化させる」戦略をとっていた。しかし、その戦略は裏目に出た。育てたはずの「小さな敵」が予想以上に力をつけ、結果的に国民党から過半数を奪う決定的な要因となったのである。

再びキングメーカーとなった極右Vox

今回の選挙結果により、極右政党Voxは再びアンダルシア州のキングメーカーとしての地位を確立した。議席数は1増えただけだが、その1議席の重みは計り知れない。彼らの協力なくして、モレノ氏は州首相にさえなれない。2019年の政権発足時にもVoxの閣外協力を得ていたモレノ氏だが、2022年の絶対多数獲得後はVoxと距離を置き、「穏健で中道的な統治者」というイメージを確立してきた。しかし、今後はそのイメージを維持することが極めて困難になるだろう。

Voxは、移民排斥を掲げる「国民優先」をスローガンに選挙戦を戦った。今後、国民党との交渉において、ジェンダー平等政策の後退、歴史記憶法の見直し、移民政策の厳格化など、彼らのイデオロギーを色濃く反映した政策を要求してくることは確実である。これは、カスティーリャ・イ・レオン州やエストレマドゥーラ州など、国民党とVoxが連立政権を組む他の自治州で既に見られる現象だ。

モレノ知事は、自身の穏健な政治姿勢と、政権維持のためにVoxに譲歩せざるを得ないという厳しい現実との間で、難しい舵取りを迫られる。アンダルシア州の政治は、今後4年間、イデオロギー的な対立と絶え間ない交渉によって、不安定なものとなる可能性が高い。

日本の読者への解説

アンダルシア州の選挙結果は、現代ヨーロッパ政治が抱えるいくつかの重要な力学を、日本の読者にも分かりやすく示している。第一に、中道右派と極右の関係性である。日本の自民党が一党優位を長らく維持し、明確な極右政党と連立を組む必要性に迫られてこなかったのとは対照的に、スペインを含む多くの欧州諸国では、中道右派が政権を維持するために極右の協力を得ることが常態化しつつある。アンダルシア州の国民党が、穏健なイメージを保ちたいという本音と裏腹に、極右Voxに依存せざるを得ない状況は、主流保守政党が過激な勢力に引きずられるリスクを象徴している。

第二に、地域主義の多様な発露である。スペインといえばカタルーニャやバスクの独立運動が知られているが、アンダルシアで躍進した「アデランテ・アンダルシア」は、独立を求めるのではなく、「マドリードの中央集権的な政治から、アンダルシアの主権を取り戻す」ことを掲げる左派の地域主義である。これは、中央への不満が、右派的なナショナリズムだけでなく、左派的な地域主権の主張としても現れることを示している。日本の「大阪維新の会」のような地域政党とはイデオロギーの方向性が異なるが、中央の政治に対する地方の不満が新たな政治勢力を生み出すという点では共通の構造が見られる。

最後に、この選挙は「安定」を求める有権者の心理だけでは政治が動かないことを示している。モレノ知事は「安定」を訴えたが、有権者は絶対多数を与えなかった。むしろ、既存政党への不満や幻滅が、アデランテ・アンダルシアのような新しい選択肢への投票行動を促した。これは、政治的無関心が広がるとされる日本社会にとっても示唆に富む。有権者は決して現状を無条件に肯定しているわけではなく、彼らの心に響く新しいメッセージや選択肢が現れれば、政治の風景は一変しうるという、民主主義のダイナミズムをアンダルシアの事例は教えてくれるのである。

この記事をシェア:X (Twitter)WhatsAppLINE