東証プライム市場に上場するゲーム企業・KLab株式会社(証券コード3656)が2026年5月21日、AIを活用した映像制作に取り組む映画監督・遠藤久美子氏との業務提携を発表した。遠藤監督は同日、KLabが新たに立ち上げたAIクリエイター登録制度「KLab AI GUILD」のアンバサダーに就任している。

提携の象徴として掲げられたのが、遠藤監督が監督・脚本を手がけた全編AI生成の長編実写映画『マチルダ 悪魔の遺伝子』だ。スペインのニュースを日本語で届ける本サイトの主題からは外れるが、東証プライム上場の日本企業が生成AIエンターテインメントへ正面から踏み込んだ事例として、そして「映画を観る」という体験そのものを作り替えようとする試みとして、ここで紹介しておきたい。

2222年、暴力が消えた街で問われること

『マチルダ 悪魔の遺伝子』の舞台は、西暦2222年。「センターシティ」と呼ばれる、暴力が根絶された都市である。一見すると争いのない理想の文明社会。しかし物語は、その平和の土台に埋め込まれた問いを、静かに掘り起こしていく。

暴力は、人間の遺伝子に最初から刻まれた宿命なのか。愛は、その宿命を超えられるのか。そして、人から暴力性を取り除こうとする「マチルダ計画」は、救済なのか、それとも罪なのか。作品はこの問いに安直な答えを与えず、観る者それぞれの内側へと投げ返してくる。

注目すべきは、この72分の長編実写映画が、その映像のほぼ全編を生成AIによって作り上げている点だ。かつては潤沢な予算と大人数のスタッフを前提としていた長編映画の制作が、AIと演出家の協働によって、少人数でも成立しうる――本作はその実例として立っている。なお作品はあくまでフィクションであり、ARG(代替現実ゲーム)的な仕掛けを含むエンターテインメントだ。遺伝子や暴力をめぐる科学的・宗教的な主張ではないことは、公式サイトにも明記されている。

「観る」だけでなく「参加する」映画

本作が通常の映画と一線を画すのは、公式サイト(devilsgene.com)そのものが、観客を物語の世界へ引き込む装置になっている点である。サイトを訪れると、いくつもの体験が待っている。

ひとつが「悪魔の遺伝子タイプ診断」。16種類の遺伝子アーキタイプの中から、「あなたの中に眠るタイプ」を判定する診断で、作品世界の設定をそのまま自分の身に引き寄せて遊べる。もうひとつが「毎日の覚醒メーター」。その日の自分の“暴力性向”を測る日次チェックインで、毎日サイトに戻ってくるよう設計されている。さらに、その日の気分に応じて癒やしや強さの導きを示す「マチルダの祈り」、物語の断片が断続的に届くニュースレター「Matilda Leaks」も用意されている。

一度観て終わり、ではない。診断で自分のタイプを知り、毎日メーターを確かめ、断片的な物語を受け取りながら、作品の世界に住み続ける――そんな体験設計になっている。入り口としては、まず公式サイト(devilsgene.com)で自分の“タイプ”を診断してみるのが分かりやすい。

映画は「払いたい額」で観られる

配給の仕組みもユニークだ。本作はすでに劇場公開を終え、現在は公式サイト上でオンライン配信されている。視聴は「pay-what-you-wish」――観る側が「払いたい額」を自分で決める、参加型の投げ銭モデルを採っている。決まった料金で買い切るのではなく、作品をどう支えるかを観客自身に委ねる方式だ。

視聴は公式サイトのショップページ(devilsgene.com/shop)から。72分という尺は、配信で腰を据えて観るのにちょうどよい長さでもある。

KLab AI GUILD ─ 個人クリエイターに「大作の現場」を開く

今回の提携でKLabが前面に押し出したのが、AIクリエイター登録制度「KLab AI GUILD」である。これは、AIを使う映像・音楽・アニメ・ミュージックビデオなどのクリエイターを登録し、経験豊富なプロデューサーが進める実際の制作案件へとつないでいくプラットフォームだ。

登録の流れはシンプルで、約3分のフォーム入力から始まり、本人確認、得意分野についてのオンライン面談を経て、スキルに合った案件の招待が届く、という設計になっている。対象は長編映画、アニメ、音楽・ミュージックビデオ、CM、VTuber、キャラクター開発など幅広い。個人や少人数のクリエイターであっても、商業規模のプロジェクトに関わる道を開こうとする試みである。

遠藤監督のアンバサダー就任にともない、KLabは『マチルダ』の第二弾の制作・配給・プロモーションを支援するほか、AIによる映像・音楽・短編シリーズの制作を国内外へと展開していくとしている。作品づくりに関わってみたいクリエイターは、KLab AI GUILD 公式サイトから登録できる。

日本の読者への解説 ─ AIエンタメの「参加型」という潮流

この提携は、ふたつの流れが交わった地点に立っている。ひとつは「生成AIで長編映画が作れるようになった」という制作側の地殻変動。もうひとつは「観客が物語の内側に入り込む」という、体験側の変化だ。

映像を生成AIで作るコストが劇的に下がったことで、これまで大手スタジオの専有物だった長編制作が、個人や小さなチームの手にも届きはじめた。一方で、診断コンテンツやARG、SNSと連動した参加型の物語は、世界的に観客の支持を集めている。占いやMBTI的な「自分のタイプを知りたい」という普遍的な欲求と、物語世界に没入したいという欲求が、スマートフォンひとつで満たされる時代になった。『マチルダ 悪魔の遺伝子』の「タイプ診断」や「覚醒メーター」は、まさにこの潮流の上にある。

在外の日本人にとっても、こうした作品は国境を意識せずに楽しめる。スペインからでも、公式サイトにアクセスすれば診断を試し、投げ銭で映画を観ることができる。東証プライム上場のゲーム企業が、自社の知的財産(IP)戦略の一環として生成AIエンタメに本腰を入れ、その旗印に一本のAI映画を据えた――この動きが、これからのエンターテインメントのかたちをどう変えていくのか。まずは公式サイトで、その世界の入り口に触れてみてほしい。

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