2026年の6月から8月にかけて、バルセロナの地下鉄や近郊鉄道で工事が相次ぐ。なかには「カタルーニャ広場(Plaça Catalunya)の地下鉄路線がアスベスト除去と構造改修のために閉鎖される」という話も、旅行者や在住者のあいだで聞かれる。確かにこの夏は鉄道網の工事が集中するが、正確に理解するには、場所も理由も時期も異なるいくつかの工事を切り分ける必要がある。とりわけ「カタルーニャ広場が夏のあいだアスベストのためにまるごと閉鎖される」という部分は、実際とは少し異なる。運営事業者であるTMB(バルセロナ交通公社)とFGC(カタルーニャ公営鉄道)の公表情報をもとに、夏の交通事情を整理していきたい。

2026年夏に予定されている主な工事

この夏のバルセロナでは、確かに鉄道網の工事が集中する。ただしそれらは場所も理由も時期も異なる別個の事業であり、ひとまとめに「カタルーニャ広場のアスベスト閉鎖」として語ると実態から離れてしまう。実際に進行しているのは、おおむね次の四つである。

  • L1(赤線)の夏季長期運休──ただし区間はカタルーニャ広場ではなく、市の南西部。理由は線路更新であってアスベストではない。
  • FGC(カタルーニャ公営鉄道)の8月運休──こちらはカタルーニャ広場を通るが、地下鉄とは別会社で、期間は約2週間。
  • カタルーニャ広場駅のバリアフリー改修──実在するが、着工は夏ではなく9月末で、目的はアスベストではなくエレベーター等の整備。
  • 地下鉄網のアスベスト除去事業──実在するが、最大の山場である車両の全廃は2024年に完了済み。

つまり「夏」「カタルーニャ広場」「アスベスト」「構造改修」という各キーワードは、それぞれ別の事実に根を持っている。これらが本来は同じ一つの出来事ではない、という点が整理の出発点になる。

夏の主役は「L1」── ただしカタルーニャ広場ではない

2026年夏のバルセロナ地下鉄で最も大きな運休は、L1(1号線・赤線)のメルカット・ノウ(Mercat Nou)〜サンタ・エウラリア(Santa Eulàlia)間で起きる。TMBが約1,000万ユーロで発注したこの工事は、7月から8月にかけて6〜8週間にわたり、当該区間を運休にして実施される予定だ。

工事の中身は線路と架線(カテナリー)の更新である。具体的には、線路を支える砕石(バラスト)を取り除き、コンクリート基礎の上に軌道を固定する「スラブ軌道」へと置き換える。これにより走行の安全性が高まり、騒音や振動が抑えられる。アスベストの除去工事ではない。

運休期間中、L1はバルセロナ側でフォンド(Fondo)〜プラサ・デ・サンツ(Plaça de Sants)間のみの折り返し運転となり、ロスピタレット側でもサンタ・エウラリアの先の数駅が影響を受ける。TMBは代替手段としてL5(5号線・青線)への乗り換えを案内している。区間を補う臨時バスを走らせるかどうかは、本稿執筆時点では確定していない。カタルーニャ広場はこのL1運休区間には含まれない。

カタルーニャ広場で「実際に」起きること

では、噂の舞台であるカタルーニャ広場では何も起きないのかというと、そうではない。ここがこの噂のややこしいところで、広場をめぐっても確かに二つの工事が予定されている。

① FGCの8月運休(8月11日〜23日)

地下鉄を運営するTMBとは別に、カタルーニャ広場を起点とする近郊鉄道FGC(カタルーニャ公営鉄道)が、夏のあいだ線路更新工事を行う。グラシア(Gràcia)〜サリア(Sarrià)方面を含む区間で、8月11日から23日まで運休となる見込みだ。観光客がティビダボやサリア方面へ向かう際に使う路線であり、影響はある。ただし期間は約2週間に限られ、理由はやはりアスベストではなく線路更新である。FGCと地下鉄(メトロ)は別の鉄道網であり、混同されやすい。

② バリアフリー改修(9月末着工)

カタルーニャ広場駅そのものについては、L1とL3(緑線)の乗り換え動線を改善するバリアフリー化工事が計画されている。総事業費はおよそ3,300万ユーロにのぼるが、着工は夏ではなく9月末の予定であり、しかも目的はエレベーター設置などのアクセシビリティ向上だ。「アスベスト除去のための夏の閉鎖」とは時期も理由も異なる。

整理すると、カタルーニャ広場で夏に起きるのは「FGCの2週間運休」であり、駅の構造改修は秋からの別事業ということになる。

アスベスト(amianto)問題の真相

では、噂に「アスベスト」という強い言葉が紛れ込んだのはなぜか。背景には、バルセロナ地下鉄が実際に長く抱えてきたアスベスト問題がある。これは誇張ではなく、深刻な労働安全上の論争だった。

とりわけ古い車両(4000系)には、車体下部の防錆塗料にアスベストの一種であるクリソタイル(白石綿)が使われており、L1とL3が最も深く影響を受けた。両線とも、まさにカタルーニャ広場を通る路線である。過去には地下鉄労働者がアスベストを理由にストライキを行い、複数駅の空気中のアスベスト濃度が測定されるなど、社会問題化した経緯がある。

しかし、ここが重要な点だが、最大の山は越えている。TMBは2024年10月にアスベストを含む最後の車両(4000系)を退役させ、これにより地下鉄網のアスベストの約9割が除去された。残る約1割は駅や施設のインフラに含まれる部材で、2026年までに撤去する計画とされる。古い車両は7000系・8000系といった新型に置き換えられた。

つまりアスベストは「これから夏にカタルーニャ広場で大々的に除去するから閉鎖する」という段階ではなく、「主要部分は終わり、残りを順次片付けている」局面にある。この継続中のアスベスト対応と、夏の線路更新工事という無関係な二つが、伝聞の過程で結びついたとみるのが妥当だろう。

訪問者・在住者への実用ガイド

では、この夏に実際にバルセロナを訪れる人、あるいは暮らす人は、何に気をつければよいのか。噂の真偽を踏まえて実用的に整理する。

  • 7〜8月にL1を使う予定なら──メルカット・ノウ〜サンタ・エウラリア周辺(市南西部・ロスピタレット方面)が運休する。観光の中心であるカタルーニャ広場やランブラス周辺の移動には直接の支障は少ないが、空港から市内へ入るルートやモンジュイック方面に向かう場合は、L5への乗り換えを前提に計画したい。
  • 8月中旬にFGCでサリア・ティビダボ方面へ行くなら──8月11〜23日は運休の可能性が高い。代替の市バスや別ルートを事前に確認しておくとよい。
  • カタルーニャ広場駅そのもの──夏のあいだも地下鉄(L1・L3)は走っている。広場が「閉鎖される」わけではない。ただし駅構内の改修は秋以降も続くため、一部通路や乗り換え動線に制限が出る場面はあり得る。
  • 最も確実な情報源──工事の最終日程や臨時バスの有無は、直前に確定・変更されることが多い。TMB公式サイトの運行情報(tmb.cat)とFGCの公式アナウンスを出発前に確認しておくのが確実だ。SNSや口コミでの注意喚起は有益だが、日程や理由が実態とずれて伝わることもあるため、最終的には公式で裏を取りたい。

最後に背景を一点。バルセロナが夏に地下鉄の大規模工事を集中させるのは、毎年の恒例である。観光のピークと重なるように見えて、実際には通勤需要が落ちるバカンス期間に工期を圧縮しているためだ。日本の鉄道が深夜の運転間合いに保線を行うのに対し、バルセロナは夏という季節をまとめて作業時間に充てる。2026年が特別なわけではなく、毎夏のパターンの一つと考えてよい。「夏に工事で一部の路線が止まる」こと自体は例年どおりであり、押さえておきたいのは「どの路線が、いつ、なぜ」という点を出発前に確かめておくことだ。

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