昨年の「住民投票法」(Ley de referendum)可決からカタルーニャ州首相選出までの経緯

2017年9月6日、州議会は「住民投票法」(Ley de referendum)を可決。 2017年10月1日に行われたカタルーニャ州の分離独立を問う違法な住民投票(RUI)の結果、「住民投票法」に基づきカタルーニャ州政府は一方的な「独立宣言法」を10月27日に可決。 同日スペイン中央政府は州政府への介入を可能とする憲法155条の適用を上院議会で可決。 翌日28日から発効された。

独立宣言法が可決された翌日、カルラス・プッチダモン前州首相以下州政府元官僚らがベルギーへ逃亡(この時オリオル・ジュンケラスはカタルーニャ州に残り、執政を続けていた)。 その後、全国管区裁判所の出廷命令によりフォルン前内務大臣、オリオル・ジュンケラス前副州首相、ジョルディ・サンチェス(前ANC会長)、ジョルディ・クイシャル(OmniumCultural会長)らが出廷(11月3日)、「反乱・扇動・公的資金横領等の容疑で」逮捕拘束された。 この時、トニ・コミン前州保健相、クララ・ポンサティ前州教育相、カルラス・プッチダモン前州首相らはベルギーにとどまって逮捕拘束を免れた。

このような「中央政府」からのカタルーニャ州政治家らへの「圧力」を受け、カタルーニャ州分離独立派住民らは、嫌疑がかけられている政治家、逮捕拘束されている「政治犯」の解放を求めるシンボルとして「黄色いリボン」を胸に付けるようになる。

この動きは日本にも徐々に広まってきており、SNSなどで胸に黄色いリボンをつける日本人が確認できるようになってきた。

政治犯とは「反政府的」とされる態度・言動をとったり、「反政府的」とみなされる組織、革命運動・抵抗運動・反政府活動を展開したことがもとで、”政治的理由”で逮捕状が出されていたり、刑務所・収容所などに収監されているものを指す。 「思想犯」「国事犯」ともいう。とWikipediaには記されている。 

なぜかは分からないが、カタルーニャ州の独立を「考える」だけで「スペイン中央政府」から逮捕拘束されると思っている日本人スペイン在住者がいたが、これは間違い。 独立を目指した活動を行う際、憲法や刑法に違反した場合に当然ながら裁判所命令により逮捕拘束される。 

また、政治犯に似たもので、良心の囚人というものがある。 国際的民間人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル」が提唱している概念で、非暴力であるが言論や、思想、宗教、人種、性な度を理由に不当に逮捕された人を指す。 

これに関してアムネスティ・インターナショナルは「スペインには良心の囚人は存在しない。」という声明を2017年11月11日に出している。

現在カタルーニャ州の独立運動で逮捕拘束されている政治家らの容疑は「反逆罪、騒乱罪、公的資金横領罪」。 一方独立を推進する民間組織会長Jordi Cuixart及びJordi Sanchez(ANC元会長)らは「騒乱罪」の嫌疑がかけられている。

反逆罪として、憲法裁判所が(当時は一時的な)憲法違反との判断を下していた「住民投票法」に基づいた違法な住民投票の実施や「独立宣言法」の可決のみならず、以前より進めていた”独立宣言後、司法や州警察などを含めた公共機関を段階的に独立国家として機能させていく”「共和国基本・司法移管法」の可決の他(批准されなかった)、独自の諜報機関創設や、独自の外務省機関の設立なども含まれている。 

騒乱罪に関しては、2017年9月20日と21日にスペイン警察当局(国家警察(ポリシアナショナル)と治安警察(グアルディア・シビル警察)がカタルーニャ州の違法な住民投票阻止のためアヌビス作戦を実行。 州営放送局などを含む州政府の主要機関に家宅捜索が実施された。 中でもオリオル・ジュンケラス前副州首相の右腕ジョセップ・マリア・ジョベの事務所にグアルディア・シビル警察(治安警察)が立ち入った際、多くの住民がその周りを取り囲み、治安警察車両3台が破壊され、一時的に中にあった武器が奪われたほか、実弾が盗まれたままとなっている。 更に、警官らを外に出さないようにするため多くの住民が入り口を封鎖したため、治安警察が州警察(モススダエスクアドロ)に応援を要請、「数時間後」に現場に到着。 結局治安警察の警官らは24時間近くこのオフィスに立ち往生することになった。

この時Jordi Cuixart及びJordi SanchezらがSNSなどを利用し事務所前に集まるよう呼びかけていた。 これが騒乱罪の嫌疑がかけられており、逮捕拘束されている理由の一つ。

公的資金横領に関して、これも現在捜査が続いているが、治安警察が最高裁判所に提出した報告書によると、10月1日に行われたカタルーニャ州の分離独立を問う違法な住民投票にかかった経費は1,932,765.42ユーロ。 この他日本の某ソフトウェア企業がインストールした投票に関するソフトなどの契約が、違法であるとなれば更に高くなる。(アルトゥール・マス政権時代に行われた独立を問う違法な住民投票(9N)時もこの某日本企業は住民投票システムのインストールを担当していたと報道されている。) 更に、水面下ではカタルーニャ共和国用に諜報機関の創設を目指していたことが発覚しており、その情報処理システム構築にドイツ国籍企業などに8億1100万ユーロを支払っていた可能性があると報道されている。 また、アルトゥール・マス政権時に一方的に創設されたカタルーニャ州外務省(違憲判断がなされている)にも在州外”大使館”に多額の公的資金が投じられていたことが分かっている。 DIPLOCATは、憲法155条の適用により解体された。

因みに2017年カタルーニャ州の分離独立を問う違法な住民投票は、投票率43.03%、賛成92.01%、反対7.99%。 複数人が異なった投票所で複数回投票していたことが発覚している。 これは、投票日当日に警察当局が投票システムをダウンさせた影響で、投票所の管理が機能しなかった。

政治的な問題を解決するためカタルーニャ州政府側から対話を持ちかけるも、中央政府は常にこれを無視「違憲、違法」で押し通そうとしたため、常に中央政府の言うことを聞けと強要してきた、と日本の報道では散見される。 実際には中央政府と州政府間で瀬戸際外交なるものが勃発していた。 州政府としては独立を最終的な目的に据えた話し合いを再三呼びかけていた一方、中央政府は「独立はスペイン国民の公益を害する」、独立を掲げる話し合いに対し「民主主義者間の対話は、法律内で行われ、そのゲームのルールを尊重し、勝手にルールを発明(改変)することはしない。(サンタマリア前副首相)」とし、法律の枠組に戻った時のみ対話を行うという態度を取っていた。

憲法155条の適用により、カタルーニャ州議会が解散。 12月下旬に州選挙が実施され独立支持派が過半数の議席を獲得。 中央政府の「介入」によって未だに独立派のカタルーニャ州首相が選出されていない。 中央政府は民主主義を踏みにじっているという意見が存在する。 これに関し、実際の今までの州首相選出努力のいきさつは以下の通り。

独立派会派カタルーニャ共和左翼(ERC)から選出されたロジェール・トレント州議会議長は、昨年の州議会選挙後初めて1月30日15時に次期州首相信任議会を開催する予定だった。 この信任議会で次期州首相候補に指名されていたのは、ベルギーに当時逃亡していた、反乱・扇動・公的資金横領等の容疑で全国管区裁判所から逮捕拘束命令が出ていたカルラス・プッチダモン前州首相。

この時、全国管区裁判所から発令されていた欧州逮捕状が、最高裁判所により撤回されていた。 そのため、プッチデモン前州首相がスペインに入国した場合即逮捕拘束という状況だった。 信任議会に出席するため秘密裏にプッチデモンが州議会に侵入する可能性があったのか、警察当局は議会前の公園の下水道などを封鎖するなどの措置を講じた。

ただ、州首相信任議会に次期州首相候補が「出席」しなければ、その信任議会は憲法違反であるとの憲法裁判所からの通達が30日に届いたことから、この日の信任議会は無期延期とされた。

これにより、少なくとも大画面プラズマ州首相の誕生は避けられることになる。

その後、ロジェール・トレント州議会議長は同じく扇動の容疑でマドリードの拘置所に拘束されている元カタルーニャ国民会議(ANC)会長で”一緒にカタルーニャのために党”立候補リスト第2位のジョルディ・サンチェスを指名。 またしても信任議会に出席できない議員を指名することになるが、最高裁判所に対し信任議会に出席できるよう最高裁判所に対し申請をしていた。 3月12日信任議会が設定される。

3月9日、最高裁判所パブロ・ヤレナ裁判官はこの申請を退け、ジョルディ・サンチェスは保釈されず、12日に予定されていた信任議会も再度延期されることになる。

この時、ジョルディ・サンチェスは議員を辞職し、大学教授となると発表。

この意向を受け、トレント州議会議長は次期州首相候補にジョルディ・トゥルイ議員を指名。 トゥルイ議員も全国管区裁判所より反乱・扇動・公的資金横領等の嫌疑がかけられている。(当時は保釈されていた。)

ロジェール・トレント州議会議長は信任議会を3月22日開催。 この時、人民統一候補(CUP)は「カルラス・プッチダモンのみが次期州首相である」とし、信任議会で「棄権票」を投じた。 結果、賛成64票、反対65票、棄権4票となり、州首相選出に失敗。 州選挙後初めて州信任議会が「正常」に終了したため、この日より州首相選出期限のカウントダウンが開始、5月21日までに次期州首相を選出しなければ「自動的に」再州選挙開催となる。 

時を同じくして、21日に最高裁判所がジョルディ・トゥルイ被告人に対し出廷命令を出していたため、この信任議会の翌日(つまり3月23日)ジョルディ・トゥルイは最高裁判所に出廷。 この時、同じく出廷した政治家4人と逮捕拘束される。 というのも、ERCナンバー2マルタ・ロビラ幹事長が出廷せずに国外へ逃亡したため、他の議員らも逃亡する可能性があるとして、再逮捕拘束した。 (一方で、トゥルイを保釈した場合次期州首相が独立派会派議員となってしまうのを最高裁判所が阻止するため、との解釈もある。)

ここで、大学教授になると表明していたジョルディ・サンチェスが再び次期州首相候補に指名される。 この背景には、1月下旬に同被告人が国連自由権規約人権委員会に対し、拘束されるのは人権侵害であると訴え出ていた返答が3月下旬に届く。 その内容に「スペイン政府はジョルディ・サンチェスに対し、政治的権利を行使できるよう保証するべきである。」との文言が記されていたためである。 これを受け、トレント州議会議長は最高裁判所に対し「ジョルディ・サンチェスを保釈するべきである。」と批判。 

しかしながらスペイン最高裁判所は4月12日、同被告人の保釈を認めない判断を下し、これによりトレント議長は再度信任議会を延期せざる負えなくなった。

5月4日、カタルーニャ州議会は「候補者が州議会に出席していなくても」「次期州首相信任投票を行うことができる。」という州政府内閣法修正案を可決。 1月に憲法違反と判断されている行動を再度とることになる。

これに対し中央政府は5月9日憲法裁判所に対し憲法違反であると訴え出、同日憲法裁判所は全会一致で同修正案が違憲であるとし一時凍結の判断を下した。

この翌日5月10日、カルラス・プッチダモン前州首相被告人は元OmniumCultural会長で、JxCat立候補リスト第11位で州議会議員に当選していた弁護士、作家のキム・トーラを次期州首相に推薦。 11日に州議会議長が12日に同氏の信任議会開催を発表。

一回目の信任議会で州首相を選出するためには絶対過半数(68票)が必要であるが、12日の信任議会では反資本主義を標榜する人民統一候補(CUP)が棄権票(4票)を投じ、結果賛成66票、反対65票、棄権4票となり、選出失敗。 しかし二日後の14日に行われた二回目の信任議会では選出に単純多数決(賛成票が反対票を上回るだけで良い)が必要だったため、賛成66票、反対65票、棄権4票でキム・トーラが州首相に選出された。  ただ、賛成66票のうち、マドリードの拘置所で逮捕拘束されている議会議員2票、ドイツに逃亡しているプッチダモン、ベルギーに逃亡中のトニ・コミの票が含まれている。  病欠などの理由で議会に出席できないため、所持する票を他の議員に渡すことはできるが、逃亡中もしくは逮捕拘束されている状態での票の受け渡しはできない。 しかし、州議会はこれらの議員が票を受け渡すことができる法案を議会で可決していた。 市民党はこの法案が憲法違反である可能性があるとして憲法裁判所に訴え出る構えを見せていたが、実現していない。

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